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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  トルコの要請でイドリブ総攻撃は“当面”回避 イスラエルの空爆へのシリア応戦でロシア機誤射

2018-09-18 23:09:31 | 中東情勢

(イスラエル空爆に対しシリア側が応戦するなかで誤射されたとみられるロシア製IL-20型機【9月18日 AFP】)

総攻撃は当面行われない 今後には不透明感も
今月7日、イランの首都テヘランでトルコのエルドアン大統領、ロシアのプーチン大統領、イランのロウハニ大統領が会談してシリア情勢について協議しましたが、アサド政権を支援するロシア・イランと反体制派を支援するトルコの溝は埋まらず、いよいよ反体制派掃討の仕上げであるイドリブ総攻撃は秒読み段階に・・・と思われていました。
(9月13日ブログ“シリア  反体制派最後の拠点イドリブへの総攻撃が秒読み段階”)

しかし、事態は大きく動き、イドリブ総攻撃は“当面の間”は中止(延期?)されることになっています。

この件に関しては、トルコ・エルドアン大統領が相当に粘ったようです。

****イドリブ攻略作戦の遅延とソチ首脳会議(17日****
al qods al arabi net は、間近に迫っていたイドリブ攻略作戦を遅延させることにトルコが成功したと報じています。

それによると、トルコは軍事的な圧力と、外交努力を総合しての、ロシア、アサドに対する働きかけを通じて、ロシアに対してこのままで攻略作戦を始めることは、トルコとの関係の重大な悪化を招き、折角これまでロシアがシリア問題の政治的解決のために築き上げてきた外交、軍事的努力を無にすると説得してきた由。

その結果、数日間または数週間の攻略戦開始延期を獲得したが、ロシアが作戦を延期したことは、最近ロシア軍機と政府軍機のイドリブに対する空爆の激しさが大幅に低下していることに示されているとしています。

トルコは(これまでこのブログでも報告してきた通り)大量の増派部隊を国境地域に送り込んでいるがそれのみならず、最近イドリブにトルコが有する12か所の監視所(要塞化している由)に戦車、装甲車、大砲等を含む大規模な部隊を派遣し、ロシアに対してイドリブに対する大規模攻撃が行われれば、これらのトルコ軍と衝突する可能性があることを示した由。(中略)

軍事的にはロシア軍の方が圧倒的に優位にあるが、ロシアとしてもトルコ軍との衝突の可能性については真剣に考えざるを得ない状況の由。(中略)

外交面では、(中略)テヘランの首脳会議で、ロシアにイドリブ攻略を思いとどまることの説得に失敗してからは、更にその範囲を広げて、国際的なキャンペーンを張っている。

その最大の言い分は、イドリブ攻撃は最大規模の人道危機をもたらすというものであるが、攻撃は更に人道危機だけにとどまらず、シリア問題をめぐるこれまでの政治的解決の枠組みを破壊し、重大な国際問題に発展するであろうというものである。

その一つが化学兵器使用可能性に対する欧米の注意を喚起することで、特に独を含む欧州への働きかけを強化してきた。

また欧州に対しては、イドリブ攻撃は大量の難民を発生させるが、彼らはトルコにとどまるだけではなく、さらにその先に渡ろうとするとして、欧州に恐怖感を植え付けようとしている

このような情勢を受け、この17日ロシアのソチで急遽両首脳会議が開かれることとなり、また外交軍事当事者の接触も頻繁になっている

またトルコは、ロシアのテロとの戦いとの言い分に対して、ヌスラ戦線(アルカイダ系)を他の反政府グループと区別するためのメカニズムについて提案している模様である。【9月16日 「中東の窓」】
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トルコとの全面衝突をちらつかせながら、大量の難民発生を懸念する欧州などにも働きかける外交キャンペーンを展開したエルドアン大統領の努力が奏功したようです。

17日にロシア・ソチで行われたプーチン・エルドアン会談では、非武装地帯の設置が合意され、イドリブ総攻撃は当面回避されることが決定されています。

****シリア総攻撃、当面回避=非武装地帯で合意―ロシア・トルコ****
ロシアのプーチン大統領は17日、南部ソチでエルドアン・トルコ大統領と会談し、内戦が続くシリアで近くアサド政権軍による総攻撃が行われるとの見方が強まっていた北西部イドリブ県に、非武装地帯を設置することで合意した。

タス通信によると、ロシアのショイグ国防相は合意に伴い、総攻撃は当面行われないとの認識を示した。
 
アサド政権の後ろ盾であるロシアは総攻撃に前向きだったが、反体制派を支援してきたトルコは自国への難民の大量流入を警戒し、反対してきた。

今回はロシアがトルコに歩み寄った形だ。ただ、イドリブ県は以前にも戦闘行為を禁じる「安全地帯」が設けられたが、形骸化した経緯があり、今後には不透明感も漂う。
 
プーチン氏によると、政権軍と反体制派の支配地域の境界線である「接触ライン」に沿い、幅15〜20キロの非武装地帯を10月15日までに創設。10月10日までにすべての反体制派の重火器や戦車などを撤収させ、非武装地帯はロシアとトルコが共同で監視に当たる。

エルドアン氏は「この計画によって人道的悲劇を阻止する」と強調した。【9月18日 時事】 
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前回13日ブログでも触れたように、イランはここのところアメリカの制裁で“手いっぱい”の感があり、もっぱらロシア・トルコが主導する形で話が進んでいます。

そもそも、自国の内戦に関する協議に、アサド大統領・シリア政府が直接に関与していない(もちろん、後ろ盾のロシアが代弁はしていますが)ことに、シリア側は不満はないのでしょうか?

なお、“両者の合意について、一部のアラビア語メディアは、両者間に取引があり、トルコがロシアのシリアでの基地(特にタルトゥスとハミーミーム)の安全を保障し、ロシアは反政府派がイドリブの現在地にとどまることを認め合ったとしている”【9月18日 「中東の窓」】とも。

当然に、そうした“取引”は行われているでしょうし、ロシアとしてもトルコに働きかけに応じることに、何らかのメリットがあるのでしょう。(ロシアとしても、犠牲・負担も国際批判も大きくなるあまり派手な戦闘はしたくない・・・ということでしょうか)

“当面”とか“当分の間”というのがどれほどの期間なのかはわかりませんが、“シリア内戦でも見たことがない人道的悪夢”(国連のグテーレス事務総長)がとにもかくにも回避されたことは喜ぶべきことでしょう。

もっとも、このまま反体制派をシリア領内に長く残存させることをアサド大統領が容認するとも思われず、いずれ、総攻撃は行われるのでしょう。

シリア国営メディアは外務省筋の話として、合意を歓迎しつつも、「シリアで全ての領土が解放されるまで、軍事作戦によるか和解によるかを問わずテロとの戦いを続ける」と主張。今後の状況次第では、イドリブ制圧に向けた軍事行動の可能性も排除しない意向を示唆したとのことです。【9月18日 時事より】

今回の延期期間で、住民被害を最低限に抑えるルールなり方策なりが、関係勢力・国の間で合意できればいいのですが。

イスラエル空軍機は「ロシア軍機を盾にし、シリアの防空システムの砲火にさらした」】
一方、シリアに関するもうひとつの関係国であるイスラエルは、シリアでのイランの地上部隊的な存在となっているヒズボラやイラン関連施設を対象にしたシリア域内での空爆を行っています

****イスラエル軍、シリア首都にミサイル攻撃か****
シリア国営アラブ・シリア通信は、イスラエルが15日深夜、シリア首都ダマスカスの空港に向けてミサイルを発射し、シリア側の防空システムによって複数が撃墜されたと報じた。
 
同通信は軍関係筋の話として「われわれの防空システムは、ダマスカス国際空港へのイスラエルのミサイル攻撃に対応し、複数の敵ミサイルを撃ち落とした」と報道。さらに、同国防空システムが作動する様子を捉えたとする動画を投稿した。
 
動画は不安定に揺れながらも、夜空に小さく明るい爆発が起こる様子を捉えている。また、映像中には市街地の明かりも映っている。 
 
一方、同通信は、死傷者数や被害状況を伝えていない。
 
AFPのダマスカス特派員は15日深夜、大きな爆発音1回と、それに続く数回の小さい爆発音を聞いた。
 
イスラエル軍はこの件についてコメントを拒否している。
 
在英NGO「シリア人権監視団」のラミ・アブドル・ラフマン代表はAFPに対し、「イスラエルのものと思われるミサイルがダマスカス国際空港近くの武器庫を破壊した」と述べる一方、死傷者数は分かっていないとした。
 
イスラエルは今月、過去18か月間にシリアで200回余りの空爆を実施したことを認め、対象の大部分がイランに属する標的だったと明らかにした。
 
またイスラエルは、レバノンのイスラム教シーア派原理主義組織ヒズボラへの武器提供を防ぐ目的で、シリアを空爆したことも認めている。ヒズボラはイランの支援を受けるほか、シリア軍に味方している。
 
イスラエルによるシリア攻撃は、報じられている範囲では今月4日のものが最新だった。シリア国営メディアはこの攻撃について、沿岸部タルトスと中部ハマの両県で、同国軍の防空システムがミサイル数発を撃ち落したと報じていた。【翻訳編集】AFPBB News
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“過去18か月間にシリアで200回余りの空爆を実施”ということですから、“いつもの”攻撃ではありましたが、こうした攻撃を繰り返すうちには、いつもと違う重大な問題が発生します。

****シリア施設にミサイル攻撃 ロシア軍機不明、誤射か*****
国営シリア・アラブ通信などによると、シリアのアサド政権軍側が支配し地中海に面する北西部ラタキアの技術産業関連施設に17日午後、複数のミサイル攻撃があった。

一方、タス通信によるとロシア国防省は、イスラエル軍がラタキアを攻撃し近郊の基地へ戻る途中だったロシア軍機との連絡が途絶えたと明らかにした。
 
ロイター通信によると、米当局者はロシア軍機がイスラエル軍の攻撃に対応したシリアの対空砲による誤射で撃墜されたとの見方を示した。【9月18日 共同】
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消息を絶ったのは、ロシア軍の偵察機イリューシン20で、この偵察機にはロシア軍の兵士15人が乗っていました。

ロシア側の主張としては、単にシリア側の誤射というだけではなく、イスラエル軍機が「ロシア軍機を盾にし、シリアの防空システムの砲火にさらした」とのことです。

****ロシア軍戦闘機、シリアに撃墜され15人死亡 イスラエルに責任と非難****
ロシア国防省は18日、兵士15人を乗せて17日夜に地中海上空で消息を絶った自国軍機はシリアによって撃墜されたと発表した。その上で、非を負うべきはイスラエルだと非難し、報復を示唆した。
 
ロシア国防省は、シリア国内の標的に対して攻撃を行っていたイスラエル軍パイロットらが、「このロシア軍機を盾にし、シリアの防空システムの砲火にさらした」と非難。
 
これによって「兵士15人が死亡した」と発表し、ロシアはイスラエルに対して「適切な報復行動を取る権利」を有すると強調した。【9月18日 AFP】
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****シリア沖でロシア軍機撃墜=イスラエルに「原因」と非難****
ロシア国防省は18日、シリア沖の地中海で17日夜にロシア軍機がシリア政権軍の地対空ミサイルの誤射で撃墜され、兵士15人が死亡したと発表した。

ロシアを後ろ盾とするシリア政権軍がイスラエル軍の攻撃に対応していた際に起きており、ロシアは「イスラエル軍の無責任な行動の結果」と強く非難。ロシアとイスラエルの関係が緊張する可能性がある。
 
ロシア国防省は「われわれは相応の報復措置を取る権利を持つ」と表明した。国防省によると、イスラエル軍のF16戦闘機4機が17日夜にシリア北西部ラタキア近郊の標的を攻撃。ロシア軍機IL20はラタキア近郊ヘメイミームのロシア空軍基地に戻る途中だった。
 
国防省は、イスラエルの戦闘機がロシア軍機を盾にしてシリア政権軍の地対空ミサイル攻撃を防いでいたと主張。イスラエルがロシア側に攻撃を通告したのは攻撃の約1分前だったとし、「イスラエルの挑発的行為を敵対的と見なす」と警告した。【9月18日 時事】
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もし本当にイスラエル軍機がロシア軍機を盾にしたとしたら、それは「そうすれば、シリアは攻撃してこないだろう」と考えたのでしょうが、シリア側にはそこまでの識別能力がなかった・・・ということでしょうか。

これまで、イスラエル・ネタニヤフ首相はプーチン大統領との会談を重ね、シリア領内からイランの勢力を排除するように働きかけてきました。

ロシアは全面的にイスラエル要望に同意はしていませんが、一定にイランの行動に抑制をかけるような主張もしており、ロシアとイスラエルの関係は緊密化していました。

今回事件は、この流れを大きく逆転させる可能性もあります。

今回事件は“偶発的”なものでしょうが、戦闘が行われている現場では、こうした偶発的な衝突が起こりうるというは、また“必然”でもあり、各国が入り乱れるあらゆる軍事的緊張に関して考慮すべき側面です。
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