孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ問題  豹変トランプ大統領の「2国家解決」支持発言 その背景は?

2018-09-27 21:45:50 | パレスチナ

(米ホワイトハウスで握手を交わすイスラエルのイツハク・ラビン首相(当時、左)とパレスチナのヤセル・アラファト議長(当時、右)、仲介役を務めたビル・クリントン米大統領(当時、1993年9月13日撮影)【9月13日 AFP】

(ガザ地区のイスラエル境界で今も続く「祖国への帰還の権利」デモ【9月15日 Pars Today】 写真右上でしっかり撮影しているのはハマスの宣伝部でしょうか?)

【「2国家共存」崩れゆく25年
1993年のオスロ合意で、イスラエルが占領したガザとヨルダン川西岸にパレスチナ国家を樹立し、イスラエルとの「2国家共存」へ道が開かれました。

その後の経緯は省略しますが、ヨルダン川西岸や東エルサレムではユダヤ人入植地が拡大して、オスロ合意が調印された当時の入植者数は約20万人だったが、現在は60万人以上に増加しているという現在のパレスチナの状況を見れば、挫折の歴史であったことは明確です。

ただ、それでもパレスチナ問題をなんとか解決するためには、オスロ合意の道筋に沿って「2国家共存」を実現するしかない・・・というのが国際的共通認識で、アメリカもオバマ前政権まではその線で動いてきました。

しかし、トランプ政権になって以来、アメリカの対応が明らかに変わり、エルサレム首都宣言にみられるように、パレスチナの主張を切り捨て、イスラエルの主張に沿った形で強引に推し進める方針となったことは、これまでもたびたび取り上げてきたところです。(9月9日ブログ“中東パレスチナで踊る荒ぶる破壊神トランプ”など)

トランプ流「世紀のディール」なるものが世間に流布されてもいます。中身はわかりませんが、これまでも触れてきたように、ほぼイスラエルの言い分を丸呑みし、パレスチナ側に力ずくで無理やりのませる類のものでしょう。

つい2週間ほど前は、オスロ合意から25年が経過したということで、上記のような情勢を受けて、オスロ合意や「2国家共存」の将来に悲観的な記事が各紙に並びました。

「2国家共存」崩れゆく25年 イスラエルとパレスチナのオスロ合意【9月13日 朝日】
オスロ合意から25年、希望を見いだせないパレスチナの若者たち【9月13日 AFP】
<オスロ合意25年>中東和平遠く 米、イスラエル寄り鮮明【9月13日 毎日】
米政権、パレスチナに圧力攻勢 「2国家共存」風前のともしび【9月14日 産経】

****和平実現、あきらめムード=米政権がパレスチナに圧力―オスロ合意25年****
中東和平への道筋を定めた「パレスチナ暫定自治宣言」(オスロ合意)の調印から13日で25年。

トランプ米政権は「世紀のディール」として和平実現に意欲を示しているが、聖地エルサレムをイスラエルの首都と認定するなどし、パレスチナは「オスロ合意は崩壊した」(アッバス自治政府議長)と宣言した。市民の間でも和平実現への期待値は低く、あきらめムードがまん延している。
 
歴代米政権はイスラエルと将来のパレスチナ国家の「2国家共存」による解決を目指してきたが、トランプ大統領は昨年12月、エルサレム首都宣言を出し、エルサレムの帰属問題を和平交渉の「議題から外した」と主張。

米政府はパレスチナ支援中止を次々と打ち出して圧力をかけているが、「米国は公平な仲介者ではなくなった」と断じたパレスチナは米側との接触を拒否したままだ。
 
イスラエルの占領地ヨルダン川西岸や東エルサレムではユダヤ人入植地が拡大している。オスロ合意が調印された当時の入植者数は約20万人だったが、現在は60万人以上に増加した。
 
パレスチナでは、アッバス議長が率いる主流派ファタハと、自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの対立が続き、統一政権づくりも危うい。
 
双方の市民も和平に懐疑的だ。8月中旬に公表されたイスラエルとパレスチナの合同世論調査結果によれば、「2国家解決策」を支持するイスラエル人は約49%、パレスチナ人は約43%と、過去約20年で最低となった。【9月12日 時事】 
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トランプ政権によるパレスチナへの圧力の最たるものが国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出停止です。

“背景には「UNRWAの存在がパレスチナ難民の帰還権問題を生き永らえさせている」とするイスラエル右派の考え方があると指摘し、「トランプ政権はUNRWAを解体し、難民の認定数を減らそうと狙っているのだろう」と危惧する。”【9月13日 毎日】

エルサレム首都宣言・米大使館移転でエルサレムの帰属問題を和平交渉の議題から外し、UNRWAを締め上げることで難民帰還問題をまた議題から外そう・・・との思惑のようです。

過去にこれほど人道支援を政治的に利用したケースはない
その思惑の是非は別にしても、そうした交渉を有利に運ぶために、500万人もの難民の生活を支え、50万人もの児童の学校教育を担ってきた資金を停止に追い込むことが許されるのか?という疑問があります。

交渉のためなら何をやってもいいというものでもないでしょう。

2010年に尖閣諸島(中国名:釣魚島)近海での漁船衝突事故をめぐって日中関係が緊張した際に、中国は日本の経済産業に不可欠なレアアースの輸出制限を行いました。そして、中国のそうした手法に日本では激しい批判が起きました。

難民から生活を、児童から学校を奪うトランプ政権の手法は?

****トランプ政権は人道支援を政治利用」国連機関トップが批判****
(中略)530万人に上るパレスチナ難民に食糧や教育などの人道支援をしているUNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関は、イスラエル寄りの立場を取るアメリカのトランプ政権が先月、今後、一切資金を拠出しないと表明したため、活動停止に追い込まれる懸念が高まっています。

これについてUNRWAを率いるクレヘンビュール事務局長が26日、ニューヨークでNHKの単独インタビューに応じ、「人道支援の打ち切りはパレスチナに圧力をかけるためだ。過去にこれほど人道支援を政治的に利用したケースはないだろう」と述べて、トランプ政権を強く批判しました。

一方、27日に開かれる日本を含む支援国による緊急の閣僚会合について、クレヘンビュール事務局長は、「数か国が追加の資金拠出を表明してくれることになったので、来月も活動を続けられるだろう」と述べ、活動停止に追い込まれる事態は当面、回避できるという見通しを明らかにするとともに、国際社会にさらなる支援を呼びかけました。【9月27日 NHK】
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しかし、トランプ政権のパレスチナへの圧力は続いており、ワシントンにあるパレスチナ総代表部(大使館に相当)も閉鎖に追い込まれています。

****パレスチナ大使家族のビザ無効=米政権、総代表部閉鎖で****
パレスチナ解放機構(PLO)は16日、トランプ米政権がPLOのゾムロット駐米代表(大使に相当)の家族の米国ビザ(査証)を無効にしたと明らかにした。

ワシントンにあるパレスチナ総代表部(大使館に相当)の閉鎖に続く動きで、パレスチナ側は「懲罰的措置」と強く反発している。
 
PLO幹部のハナン・アシュラウィ氏は声明で「米国はパレスチナ人への圧力や脅迫の試みを新たなレベルに引き上げた」と指摘。「米政権は和平の機会を壊し、自らの信頼を傷つけている」と批判した。家族は2020年まで有効のビザを持っていたが、今回の措置を受けて既に米国を離れたという。
 
トランプ政権は10日、中東和平をめぐり、パレスチナ指導部が「イスラエルとの直接かつ意味のある交渉に踏み出していない」ことを理由に、総代表部の閉鎖を発表。PLOによれば、職員は10月13日までに立ち退くよう命じられたという。
 
パレスチナ自治政府のアッバス議長は5月、米国が在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転したことに抗議し、ゾムロット氏を召還。同氏はそれ以降ワシントンに戻っていなかったが、夫人と2人の子供はワシントンに残っていた。【9月17日 時事】
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【「2国家解決が一番うまくいくと思っている」】
ただ、突然にこれまでとは全く違うことを平然と言い放つのが“トランプ流”(性格破綻か一種の病気ではないか・・・との見方もありますが)でもあります。

****トランプ氏、中東「2国家解決」を初めて支持 年内に和平計画提示へ****
ドナルド・トランプ米大統領は26日、国連総会に合わせ米ニューヨークでイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談し、中東和平に向けた計画を年内に提示すると明言するとともに、イスラエルとパレスチナの「2国家解決」への支持を初めて表明した。

同大統領は引き続きイスラエル側を支持する一方で、パレスチナ側の和平交渉復帰に自信を見せた。
 
トランプ大統領は計画を提示する日程について、「今後2、3か月の間だろう」と語った。また、同大統領はこの会談で初めて「2国家解決」への支持を明言し、「それが一番うまくいくと思っている」と発言。

「本当に何かが起こると信じている。それを1期目の任期終了(2021年1月)までに達成することが私の夢だ」と続けた。
 
中東和平プロセスは昨年、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都として認定し、それに抗議したパレスチナ側がトランプ政権との接触を遮断したことを受け、実質的に停止。

さらに、米・パレスチナ関係はここ数週、米政府がパレスチナ難民向けの資金援助を削減したことを受けて悪化している。
 
しかしトランプ大統領は会談で、「彼らは絶対に交渉に戻ってくる」「絶対に、100%だ」と述べ、パレスチナ側が近く交渉に復帰することへの確信を示した。
 
また、同大統領は「良いことがたくさん起きている」と述べる一方、「イスラエルは何か相手側にとって良いことをしなければならない」と語り、イスラエル側の譲歩を促した。【9月27日 AFP】
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強引に一方的に物事を進める“トランプ流”への関係国の消極姿勢も関係している?】
「良いことがたくさん起きている」・・・なんのことでしょうか?

ここにきて、突然「2国家解決が一番うまくいくと思っている」というのは、どういう思惑でしょうか?

トランプ大統領の頭の中など、だれも知るすべはありませんが、関連する状況などについて下記のようにも。

****トランプの2国方式解決支持発言****
(中略)haaretz net などが、トランプが2国間方式支持を言明するのは初めてのことだと評していますが、確かにトラン政権、特に彼の発言を見てくると、彼が2国間方式は歴代米大統領が支持してきた、実現性のない非現実的でパレスチナを甘やかす方式だと非難し、ユダヤ人の国家を追及するネタニアフ政権を全面的に支持してきたことは明らかです。

米報道などでしょっちゅう出てくる所謂「世紀の取引」という言葉も中身は不明なるも、一国方式による解決方式ではないかと理解されてきたかと思います。

それがここにきて、一転して、明確に各国の記者の前で、2国間方式を支持する(もっとも、記事によれば、彼は2国間方式でも2国方式(原文のまま)でも、当事者が合意すれば、それでいいが、どうやら2国間方式の方が実現性がありそうで、これを支持すると言った模様)と明言した背景には何があったのでしょうか?

基本的にはこのようなトランプの政策にパレスチナ人自身が激しく反対し、米代表との会談さえ拒否しているために、交渉なるものが全く進んでいないことがあるでしょう。

しかし、報道等からは、トランプとしては、このようなパレスチナを切り捨てることとし、米大使館のエルサレム移転、UNRWAやその他のパレスチナ人支援を削減または中止することとし、PLOの事務所を追放する等、パレスチナ人抜きで、サウディやUAEなどと組んで、強引に一方的に物事を進める方向で動いていたように思われます。

然るに、このような動きに対しては、中東和平では常に大きな影響力を有しているヨルダンが明国に反対の姿勢を示し、その様な解決はハシミート王国の崩壊を招くと反発しました。

また地理的にも隣接し、ロルダン以上にパレスチナ問題に深く関係してきたエジプトも、トランプ方式に対しては低姿勢を貫いてきたうえに、エジプトは2国間方式を支持しているとの立場をとっていたように思います。

更に、アラビア語の報道などでは出ていませんが、おそらくはサウディやUAEでさえ、王族や一部の為政者を除いては、パレスチナ人切り捨てのトランプ方式に対する支持は、極めて少なく、両国政府なども次第にこの解決方式に対する熱意が冷めて、と言うか、その結末が自分たちの権力に対する脅威となり得ることを薄す薄す感じて、熱意が冷めていったように思われます。

特にサウディでは皇太子の内政外交に対する独断専行に対する根強い反発があり、皇太子としてもこの問題で強力な指導力を発揮できる立場にはなくなってきたのではないでしょうか?

このためか「世紀の取引」の内容は固まらないままに今日まで来ましたが、トランプは記者会見で、「世紀の取引」は2~3月の間に発表されるとして、パレスチナ人は100%交渉に帰ってくると語ったとのことです。

そして、トランプはパレスチナ問題は、彼の第1期目の大統領職の間に解決したいと述べた由!

しかし、物事がこれだけこじれてくると、トランプ流で、上手くいかない物事はそ知らぬふりをして、別の問題を提起して、逃げ切りを図ることになる可能性が強くなってきた感じがします。

他方、トランプとの間でどのようなやり取りがあったかはもちろん不明ですが、ネタニアフは記者会見では(haaretz net などによると外交的な顔を見せて)、彼も2国間方式を支持するとした由。

但し、彼はそのためにはイスラエルがパレスチナ全土(表現を使えばヨルダンの西から地中海まで)に完全な安全保障の権限と責任を有することが条件であるとした由

(ということは、要するにパレスチナ国家ができても、その権限はいわば地方自治的なものに限られる…要するにパレスチナ自治区にすぎない・・・ということで、問題の解決にならないことは自明の理かと思います)

またネタニアフ政権の連立政党の反応としては、彼らが政権にある限りは、2国間方式など実現させないという意見表明がある良由。(後略)【9月27日 「中東の窓」】
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交渉の停滞は、「武器を持って闘わなければ、最後には何も得られない」との考えを助長
まあ、明日になれば、また違ったことを言い出すかもしれませんおで、あまりまともにとりあっても仕方がないかも・・・・とは言いつつも、やはりアメリカ大統領の発言となると一定の重みがあります。

エルサレム問題や国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への対応を見る限り、トランプ大統領が「2国家解決」といっても、それはパレスチナ側の権利はほとんど認めない形だけの2国家共存であり、パレスチナ側が了承できるようなものではないでしょう。

****オスロ合意から25年、希望を見いだせないパレスチナの若者たち****
(中略)政府統計によると、ガザ地区およびヨルダン川西岸に住むパレスチナ人の約30%は15歳から29歳だ。
 
オスロ合意の頃に生まれた若者の間では、自らの世代が最も恵まれない環境に置かれているとの考えも根強く、反故(ほご)にされる約束に疲れ果て、政治への関心が低い人もいる。
 
一方、オスロ合意に希望を見る若者もいる。アッバス議長率いるファタハ派の活動家、ジハード・マナスラさんもその一人だ。
 
ヨルダン川西岸ラマラ近くのビルゼイト大学の学生であるマナスラさんは、オスロ合意が失敗だったのなら、それはイスラエル側が合意に違反し続けているからだと語る。
 
マナスラさんは「2国家解決」の実現に希望を持っている。だが、彼は少数派だ。
 
ただ、パレスチナでの最近の世論調査では、「2国家解決」を支持すると回答した人は43%で、パレスチナ国家実現のために武装抵抗が必要との意見は34%だった。
 
これについて、オスロ合意に批判的なズガイエさんは、「もしわれわれが黙って交渉したとしても、占領は続く」と述べ、「武器を持って闘わなければ、最後には何も得られない」と主張した。
 
他方で、パレスチナ国家の実現を今では信じていないという意見もある。28歳女性のマジドさんは、「わたしにとって唯一の選択肢は教育だ。教育を通じて、パレスチナと呼ばれる国があること、その土地がわれわれのものであるということを忘れないよう、世代から世代へと引き継ぐことだ」と語った。【9月13日 AFP】
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“唯一の選択肢は教育だ”・・・・その教育もアメリカのUNRWA拠出金停止で奪われようとしています。
残る道は「武器を持って闘わなければ、最後には何も得られない」ということにもなりかねません。

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