孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ラオス  メコン川本流でのダム建設を強行 強まる中国の影響力 対中依存軽減の取り組みも

2012-11-11 21:28:25 | 東南アジア

(10月25日 「サイニャブリ・ダム」建設予定地  建設地の木々は伐採され、建設用道路が作られています。 “flickr”より By International Rivers http://www.flickr.com/photos/internationalrivers/8159560991/in/photostream/

経済成長を図るうえで背に腹は代えられない
ラオスがメコン川に建設を計画している「サイニャブリ・ダム」について、下流域のベトナム・カンボジアなどからの強い反対で建設計画が中断していることは、12年5月16日ブログ「ラオス メコン川ダム建設を延期 東南アジア国際関係の縮図」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120516)で取り上げました。

観光資源にも見るべきものは少なく、地下資源も未開発なアジア最貧国ラオスにとって、現在利用できる唯一の資源はメコンの水資源であり、ダム建設で可能になる電力をタイに輸出しようとの計画です。

“メコン本流へのダム建設は環境や生態系に大きな影響を与えると域内外の環境団体は強く反対している。漁業や農業に深刻な被害がおよび、下流域の住民6千万人の生活が脅かされると専門家は警告する。
反対の輪にはベトナムも加わった。ダム建設は、ベトナム最大の穀倉地帯であるメコン・デルタへの影響がとくに大きいとベトナムは懸念する。今年に入って国内メディアには「上流からの土砂の流入が妨げられ、海水の浸入でデルタが大打撃を受ける」などという専門家の指摘が相次いで紹介された”【11年6月23日 産経】

抗仏・抗米戦争をともにした「戦闘的団結」によりラオスと「特別な関係」で結ばれていたベトナムが公然とラオスを批判するのは“異例中の異例”だとか。

その中断していた「サイニャブリ・ダム」建設の着工をラオスが強行しました。
このままでは建設が難しくなることを考えての判断だそうです。

****ラオス 我田引水、ダム建設強行 「農業・漁業に影響」 下流域国は反対****
電力輸出・経済成長に活路
ラオス政府は10日までに、延期していたメコン川でのダム建設に着工した。水資源の確保と環境への影響をめぐりラオスと対立し、建設中止を求めてきたベトナムなど流域国の反対を押し切り強行した格好だ。ベトナムなどは直ちに反発し、水資源の係争は新たな局面を迎えている。

ダムは、北部サイニャブリ県に建設される水力発電用の「サイニャブリ・ダム」で、7日に着工式が行われた。出力126万キロワット、総工費35億ドル(約2780億円)。2019年に稼働する予定だ。サイニャブリのほかにも、メコン川沿いに9基を建設する。

人民革命党の一党独裁による社会主義体制を堅持し、1人当たり国民所得が880ドル(約7万円、09年)と貧しいラオスは、20年までに後発発展途上国から脱却することを目指している。ダム建設の狙いは、国内の電力需要をまかなうこと以上に、電力を近隣諸国に輸出することで経済成長の活路を見いだす点にある。

その顧客が、同じメコン川流域国であり、電力需要が増大しているタイだ。サイニャブリの電力の大部分を買い取り、タイの建設大手チョーカンチャンが、ダム建設も手がけている。

これに対し、ベトナムとカンボジアは(1)ダムが建設されればメコン川下流の水量が減少し、農業や漁業に深刻な被害がおよぶ(2)とりわけ、年間2300万トンのコメの収穫量を誇り、最大の穀倉地帯であるメコン・デルタが水不足になる(3)下流域の住民6千万人が影響を受ける-とし、建設に強く反対してきた。

このため、メコン川流域国で構成するメコン川委員会(MRC)は、ダムの建設による環境と水資源への影響に関する調査結果が判明するまで、工事には着手しないことで合意していた。ベトナムは調査に少なくとも10年を費やすよう主張し、ラオスも5月、工事の延期を発表していた。

にもかかわらずラオスが着工に踏み切ったのは、ラオスに不利な調査結果が導き出される可能性が高く、経済成長を図るうえで背に腹は代えられない、と判断したためだとみられる。

一方、ベトナム外務省は8日、「自然資源、メコン川については、公正な開発が死活的に重要で、流域国に共通の利益をもたらすものでなければならない。ラオスは調査に協力すべきだ」と、強く反発した。【11月11日 産経】
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雲南省昆明とビエンチャンを結ぶ鉄道建設プロジェクト
今回のダム建設はタイ資本で、電力売却先もタイですが、近年ラオスへの影響力を強めているのが中国です。
その中国と南シナ海で対立するのがベトナムです。

****ラオスに鉄道建設支援=中国、影響力拡大を誇示****
アジア欧州会議(ASEM)首脳会議出席のためラオス・ビエンチャンを訪れている中国の温家宝首相は5日、ラオスのトンシン首相との間で、雲南省昆明とビエンチャンを結ぶ鉄道建設プロジェクトに調印した。
中国側は70億ドル(約5600億円)の資金を提供する予定で、経済援助による周辺国への影響力拡大を誇示した形だ。

これに先立ち、両首相は、中国の支援でASEM首脳会議の会場として建設された大規模な国際会議場をラオス側に引き渡す式典に出席。中国は総工費7200万ドル(約58億円)などを支援した。両首相はこの日、会談も行い、経済や貿易の拡大に向けて協力していくことを確認した。【11月5日 時事】
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日本 ナムグムダム拡張工事へ円借款
こうした中国のラオスやミャンマーなどへの影響力拡大、いわゆる“南進”を警戒しているのが、これまで東南アジアへ支援で影響力を保ってきた日本です。

****55億円の円借款表明=ラオス首相と会談-野田首相****
野田佳彦首相は4日夜(日本時間同)、ラオス・ビエンチャンのワッタイ国際空港で同国のトンシン首相と会談し、水力発電所の拡張事業向けに約55億円の円借款を供与すると表明した。また、ラオスのインフラ整備を引き続き支援する考えも伝えた。

これに対し、トンシン首相は「日本の政府開発援助(ODA)は長年にわたりラオスの発展に大きく貢献している」と述べ、謝意を示した。

一方、野田首相は沖縄県・尖閣諸島をめぐり悪化している日中関係について「日本にとって最も重要な2国間関係だ。(中国には)冷静に対処している。引き続き地域の繁栄と安定のために貢献していく考えだ」と説明し、日本の対応に理解を求めた。日本政府関係者によると、トンシン首相からは一定の理解が得られたという。 
両首脳は会談に先立ち、日本の無償資金協力による同空港拡張事業の引き渡し式典に出席した。【11月5日 時事】
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金額だけでみると、中国の鉄道建設資金提供70億ドル(約5600億円)に対し、日本の“水力発電所の拡張事業向けに約55億円”というのは、やや小ぶりではありますが、現在の勢いの差でしょうか。
もちろん、支援は金額の多寡で決まるものではありません。

日本が拡張工事への円借款を表明したのは、メコン支流のナムグム川に建設されたナムグムダムです。
ナムグムダムは、1971年に日本などの援助により完成し、このダムで作られる電力はタイに輸出されており、ラオスの貴重な外貨獲得源となっています。
その意味では、現在問題となっている「サイニャブリ・ダム」と同じです

下流域への影響は、メコン本流に建設するサイニャブリ・ダムとは異なる・・・・のでしょう。よくわかりませんが。
なお、ダム建設で沈んだ村や消えた補償金につて【http://kuin.jp/fur/tai-3.html】にレポートがあります。
日本でも“脱ダム”の議論が一時なされましたが、最近はあまり見なくなりました。

中国依存度の軽減を目指すラオス
なお、中国の影響力が強まるラオスですが、ラオス自身がそのことを懸念しており、対中依存を軽減する方向で模索しているようです。
中国が資金提供する鉄道建設にしても、中国以外からも投資を集めたい意向のようです。

****WTO、ラオス加盟を承認 対中依存の軽減目指す ****
世界貿易機関(WTO)は26日、一般理事会の特別会合を開き、ラオスの加盟を承認した。国内の批准手続きを経て2013年前半までに正式加盟する見通し。ラオスは加盟を機に投資・貿易相手国の多角化を図り、経済の中国依存度の軽減を目指す構えだ。

ラオスは1997年にWTO加盟を申請。国内の制度改正などの準備を経て、9月のラオス加盟作業部会で加盟承認の合意がまとまった。26日の特別会合で加盟157カ国が承認した。
小国ラオスにとって、WTO加盟は「世界経済での認知度が高まり、海外投資を呼び込みやすくなる」(ラオス計画投資省・上級顧問の鈴木基義氏)との利点がある。

ラオスは11年の実質国内総生産(GDP)は83億ドルで、前年比伸び率は8%を記録。経済は好調だが、銅など鉱物資源や電力輸出に頼っており、雇用を生む製造業など裾野の広い産業は育っていない。そこで同国は縫製業や自動車部品産業など輸出加工産業の誘致を進める。経済開発特別区(SEZ)と呼ばれる工業団地を20年までに国内25カ所に整備。09年に投資奨励法を整備するなど投資環境も整えた。

ラオスが外資誘致を急ぐ背景には、同国で圧倒的な存在感を持つ中国への依存度を軽減する狙いがある。11年の外国直接投資(FDI)は中国が6億9320万ドルでトップ。00~11年の累計でも投資件数で1位、投資額で2位を占める。

ビエンチャン市は「中国色」が強まる一方だ。11月初旬に同市で開催予定のアジア欧州会議(ASEM)のため、中国が4.5億元(約56億円)を援助して国際会議場を建設。首脳らの宿泊施設やホテルは中国の建設会社が受注した。
昨年11月に中国工商銀行がビエンチャン支店を開設。中国企業や中国人向けに人民元建て預金や決済サービスの提供を始めた。市中心部では中国資本による大型商業施設の建設も進む。

ラオス政府にとって中国マネーは魅力だが、同国の鉱物事業のうち4割弱の権益を中国系企業に握られるなど、国内では警戒感が高まっている。中国系労働者の流入や開発に伴う環境破壊への懸念も根強い。
そこで同国は米国や日本などの投資受け入れを拡大する考え。日米も南進を続ける中国をけん制するために、ラオスへの関与を高めている。

米国は7月、国務長官として約60年ぶりにクリントン氏がラオスを訪問。9月にはラオス初の米国商工会議所を開設。WTO加盟後、ラオスに一般特恵関税の供与も表明している。日本も今年、7年ぶりに円借款再開を決め、共同歩調をとる。

ただ、ラオスにとって対中依存を軽減するのは容易ではない。中国国境とラオスをつなぐ全長約420キロメートルの高速鉄道建設計画はいったん延期されたが、このほど特別国会で承認。中国から約70億ドルの借款を受けて建設に踏み切る見通しだ。WTO加盟後、中国以外の投資をどれだけ集められるかが試されそうだ。【10月26日 日経】
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コメント
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