
(スウェーデンで急きょ建設された難民用テント村 “flikr”より By askyog
厳しい北欧スウェーデンの冬の寒さに対応できるのか・・・とも思えますが、35㎡の内部は電気で暖房もなされているとか。それでも、当局としても苦肉の策であることは認めており、できるなら使いたくないと。【http://www.thelocal.se/20151016/sweden-to-erect-tents-for-hundreds-of-refugees】
なお、下の内部写真と上のテント村写真が同一のものかはよくわかりません。

【「そしてその変化は、良い方向への変化ではない」】
戦乱のシリアなど中東やアフリカ・アジアなどから「安全で豊かな国」欧州を目指す難民・移民の大波は未だ収まっておらず、受け入れ側欧州の社会・政治体制を揺るがす状況となっています。
****地中海渡った移民ら70万人超、欧州政情変化を危惧****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は27日、地中海を渡って欧州に到着した移民・難民の数が、今年に入って70万人を超えたと発表した。
今年、紛争や貧困から必死に逃れようとしてギリシャ沿岸にたどり着いた人々は56万2355人に上り、またイタリアには約14万人が到着したという。
UNHCRは、欧州の他の国々に入った人々も考慮すると、欧州大陸沿岸に到着した人々の総数は70万5200人以上で、うち2割が子どもだとしている。
国際移住機関(IOM)は、欧州諸国が危機対応に苦慮するなか、移民・難民の流入の勢いは天候の悪化などにもかかわらず弱まる気配を見せていないと指摘している。
■EU大統領、政情の大規模な変化を危惧
欧州理事会のドナルド・トゥスクEU大統領(常任議長)は、フランス・ストラスブールの欧州議会で、「ロシアの空爆を受けているシリアのアレッポやその他の地域から(到着する)難民の新たな波」を警告し、「状況はさらにもっと悪化するだろう」と述べた。
さらに、「(今回の移民・難民危機は)もっと危険なことに、欧州の政情に大規模な変化をもたらす可能性をはらんでいる。そしてその変化は、良い方向への変化ではない」と述べた。【10月28日 AFP】
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欧州側では、ドイツなど一部の国に集中する難民・移民を各国で広く分担しようとしていますが、中東欧の反対などでうまくいっていません。
また、最大のシリア難民受け入れ国であり、欧州への出発窓口となっているトルコとの協力で、難民・移民の流入を抑えようともしていますが、これも現段階では効果を上げるには至っていません。
そうした困難な状況が続くなかで、国境にフェンスを設置するなど欧州各国の分断が進み、国内にあっては反移民感情を背景した政治勢力が台頭するなどの動きが見られます。
****スイス総選挙、移民規制を訴える右派政党が躍進****
4年に1度のスイス連邦議会の総選挙が18日、投開票された。下院(定数200)では、難民や移民が欧州に押し寄せている現状を背景に、移民規制などを訴える右派政党の国民党と急進民主党が躍進した。スイス公共放送協会が伝えた。(中略)
欧州連合(EU)に入っていないスイスは、欧州への難民や移民の主要な目的地にはなっていないが、人口約830万人の小国の国民が抱く不安が、選挙結果にも反映された格好だ。【10月19日 朝日】
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****<ポーランド>上下院選右派過半数 欧州に増幅する難民警戒****
25日に実施されたポーランド上下院選挙で、欧州に押し寄せる難民・移民の受け入れに反対する右派の最大野党「法と正義」が過半数を獲得し、8年ぶりに政権に返り咲く見通しとなった。
中道右派「市民プラットフォーム」を中心としたコパチ政権は、欧州連合(EU)の難民受け入れ案に応じたが、新政権下で方針が変更される可能性も出ている。欧州では難民らへの市民の警戒感を追い風に、右派政党が躍進する流れが鮮明になってきた。(後略)【10月26日 毎日】
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スイスは以前から移民排斥的な傾向の強い国ですから、予想された動きです。
2010年11月30日ブログ「スイス 国民投票で、外国人犯罪者の強制送還を厳格化」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101130
2014年12月9日ブログ「移民増加に揺れる欧州 イギリス:移民規制強化をEUに求める、実現できなければ・・・離脱?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141209
ポーランドも、ウクライナ難民をすでに受け入れてうることなどを理由に、当初EUからのシリア難民受け入れ要請に消極的だったように、イスラム系難民には強い抵抗のある地域であり、これも想定内の動きです。
問題は、これまで難民受け入れ姿勢をリードしてきたドイツの動向ですが、ドイツにおいても相次ぐ移民施設に対する放火・襲撃、ケルン市長選挙候補者が政府の難民政策への不満持つ男性に刺される事件、移民受け入れに反対する団体「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人(PEGIDA)」の大規模デモ、ドイツそして欧州を難民受け入れの方向でリードしてきたメルケル首相の支持率低下などが報じられています。
難民受け入れの最前線に位置するバイエルン州では、メルケル政権の連立パートナーであるキリスト教社会同盟(CSU)のゼ―ホーファー州首相が、今度の日曜日までに事態の改善を図るようにメルケル首相に強く警告する事態ともなっています。
【スウェーデン:人口比では最多の難民申請を受理】
メルケル首相も「正念場」を迎えているといった状況ですが、そのあたりの話は多くのメディアに取り上げられているところでもありますので、今日はスウェーデンの状況を。
スウェーデンはドイツと共に難民受け入れに前向きに対応し、人口当たりでみるとドイツを遥かに上回る難民をすでに受け入れています。
しかし、そのスウェーデンでも、あまりの急変・大量流入に“軋み”が表面化してきています。
****19万人の難民に悲鳴を上げるスウェーデン****
今年、難民認定を求めてスウェーデンにやって来る人々は、移民局の当初の予測の2倍以上に膨れ上がり、約19万人に上ると見られている。今週、移民局が発表した今回の予測によると、そのうち4万人は保護者のいない子供だという。
さらに来年2016年には、10万〜17万人の難民申請者が押し寄せ、そのうち最大で3万3000人が保護者のいない子供だと予想されている。
移民局では今年7月、今年の難民申請の総数を7万4000人と予測していた。しかし現時点ですでにその2倍以上の難民申請が出されている。移民局長アンデシュ・ダニエルソンは、新たな予測と同時に発表した声明で、「これまでで最多の難民がヨーロッパとスウェーデンで難民申請を行っている。前例のない事態だ」と述べている。
さらに声明では、移民局が難民申請に対応しきれない窮状を訴えている。「難民申請の急増によって、移民局がスムーズに申請を受け入れられないのが現状だ」。今年末までに、2万5000人〜4万5000人分の収容施設が不足すると見られている。
難民対応に必要な予算も膨大なものになる。16年には約70億ドル、17年には約86億ドルの負担がスウェーデンにのしかかってくる。
これまでと同じ待遇は無理
移民局では現在、難民収容の緊急対策を検討している。仮設テントや教会、軍の兵舎などの他、「刑務所の施設利用」や古い防空壕の活用も視野に入れている。
移民局次長のミカエル・リベンビクは、「収容施設に関して言えばすでに非常事態だ。毎日1500人が難民を申請しているが、移民局も毎日1000人分を遥かに超える収容施設を探さなければならない」と話している。「努力はするが、従来のような対応はできない」
リベンビクは、ヨーロッパに難民が押し寄せる現状では、まったく新しい形のEUの協力体制とスウェーデンの受け入れ態勢が必要だ、と言う。
スウェーデンの難民問題担当相モーガン・ヨハンソンも、難民急増に関する地元メディアの取材に対して、「今はなんとか屋根だけは提供できているが、今後も難民が増え続ければ、スウェーデンでは対応しきれなくなるのは明白だ」と、答えている。
ヨーロッパの統計情報サイト「ユーロスタット」によると、スウェーデンは昨年以降、人口100万人あたり8365人と、人口比では最多の難民申請を受理している。同様の統計では、ドイツの受け入れ数は100万人あたり2513人だった。今年の4〜6月期では、スウェーデンはドイツ、フランス、イタリアに次ぐ数の1万100人の難民申請を受け入れている。【10月23日 Newsweek】
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【相次ぐ襲撃・テロ】
難民受け入れ施設への襲撃事件も、ドイツ同様に相次いでいます。
****スウェーデンの難民施設で火災相次ぐ 放火か****
難民を積極的に受け入れてきた北欧のスウェーデンで、難民の受け入れ施設などが燃える火災が相次いでいて、警察は放火とみて捜査しています。
スウェーデン南部のムンケダルの難民の受け入れ施設で、20日の朝、火災が発生しました。施設では14人の難民が生活をしていて、けが人はありませんでしたが、地元の警察は、燃え方に不自然な点があるとして放火の疑いで捜査を始めました。
スウェーデンでは、ほかにも、この1週間で、身寄りのない難民の子どもたちなど難民の受け入れを予定していた3つの施設で火災があり、いずれも警察が放火とみて捜査を進めています。
スウェーデンでは、ことし1月から先月までに7万3000人以上の難民申請が出されていて、EU=ヨーロッパ連合の加盟国の中では、人口比で最も多くの難民を受け入れていますが、政府の難民政策に強く反発する極右勢力の存在も指摘されています。(後略)【10月21日 NHK】
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10月22日には、映画「スター・ウォーズ」の悪役ダース・ベイダーに似た黒いマスクとヘルメット姿で学校に現れた男性が、刃渡り約1メートルの剣や大型ナイフで難民・移民の生徒らを襲うという特異な事件も発生して話題となりました。
****<スウェーデン学校襲撃>動機「人種差別や移民排斥」に衝撃****
スウェーデンの地方都市で起きた学校襲撃事件が、スウェーデン社会に衝撃を与えている。同国は移民や難民を積極的に受け入れてきたが、警察当局が容疑者の襲撃動機を人種差別や移民排斥とほぼ断定したためだ。ロベーン首相は「暗黒の日だ」と語り、移民や難民を排斥する動きを非難した。
地元メディアによると、警察当局は警官に撃たれて病院で死亡した容疑者の自宅から、犯行を示唆する文書を押収し、動機をほぼ解明した。22日に起きた事件では教師や子供の4人が死傷。死亡した生徒は3年前にソマリアから来た難民で、重傷の生徒はシリア難民だという。
ロベーン首相は事件当日の夜、学校があるトロルヘッタンを訪れ、犠牲者に哀悼の意を示すと共に「互いにいたわり、共にスウェーデンを守ろう」と、移民や難民との共存を呼びかけた。
また、フリドリン教育相は地元メディアに「単なる学校への攻撃ではなく、国全体への攻撃だ」と話し、移民や難民排斥の動きを非難した。23日には、現場の学校前で人種差別や移民排斥に反対するデモがあった。
スウェーデンは第二次世界大戦以降、労働力不足解消と人道的見地から多くの移民や難民を受け入れてきた。
1980年以降、186万人に滞在許可を与えており、同国統計局によると全人口963万人の約2割が外国生まれか、両親が外国生まれだ。今年だけでもシリアなどからの難民19万人を受け入れるとしている。
一方、反発も起きている。難民が一時的に住居として使っているテントなどへの放火事件が今年に入って多発。自治体によっては、襲撃を避けるため難民を収容する場所を公表しないケースもある。
反移民を掲げる政党の支持率は20%で、昨年より7ポイント支持を伸ばしている。
トロルヘッタンは同国第2の都市イエーテボリの北約72キロにある人口約5万の工業都市。同国の自動車メーカー「サーブ」の本社機能や工場があったが、3年前に閉鎖された。
他の都市と同様に移民や難民を受け入れており、昨年は外国出身者3046人が移り住んだ。襲撃された学校も約400人の生徒の半数以上が移民系だという。【10月24日 毎日】
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【移民反対の極右政党、与党を上回る支持率】
政治情勢で言えば、今年8月には極右野党のスウェーデン民主党の露骨な移民排斥ポスターが物議を醸しています。
****スウェーデン極右の「物乞い排除」広告、撤去へ****
スウェーデンの首都ストックホルムの地下鉄構内に最近掲示された、「物乞い排除」を呼び掛ける政治広告について、交通公社が撤去することを決めた。あまりに露骨なスローガンに対して約1000人の反対派が抗議行動に出たためだ。
問題となった政治広告を仕掛けたのは、移民反対を政策として掲げる、極右野党のスウェーデン民主党。広告の文言は、海外からの観光客に向けて、物乞いが引き起こす「迷惑」を謝罪する内容だった。
市中心部にある地下鉄「エステルマルム広場」駅のエスカレーターの天井には、「スウェーデンでご迷惑をかけて申し訳ありません」と英語で書かかれていた。
「強引な物乞いが深刻な問題になっています! 国際的なブローカーが金と引き替えに送り込んできた移民たちです。スウェーデン政府は必要な対策を講じません。しかし我々はやります。――我々はスウェーデン民主党! 2018年の見違えるようなスウェーデンに、またお越しください!」。2018年は、スウェーデンの次の総選挙の年だ。
また別の広告では、通りで寝ているホームレスの写真の上に「スウェーデンはこれよりもっとましなはずだ」というスローガンが大書されている。(中略)
スウェーデンの放送局SVTの調査による推計では、国内で物乞いをするEU圏内からの移民は約4000人いて、そのほとんどがルーマニアかブルガリア出身だという。この一年でその数は倍増している。
スウェーデン民主党は、スコットランドの日刊紙「ザ・スコッツマン」の取材に対し、広告のスローガンは「人種差別」ではなく、法と秩序の欠陥を糾弾したものだ、と弁明している。【8月7日 Newsweek】
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その極右野党・スウェーデン民主党の支持率は、移民受け入れに寛容な与党・社会民主党を上回る勢いにあるとか。
****世論調査で極右政党が最大支持 スウェーデン****
前回の欧州議会選挙では反移民・反EUを掲げる右翼政党が躍進するなど、近年の市民の右傾化を示す動きはヨーロッパ各地で見られる。これまで移民に対する寛容な態度で知られた北欧諸国も例外ではない。
世論調査会社YouGov の調査結果によると、過激な反移民思想で知られるスウェーデン民主党が、同国与党で移民受け入れに寛容な社会民主党(23.4%)を上回る25.2%の支持を集め、トップとなった。
民主党は2010年に初めて議席を獲得。昨年9月の総選挙では12.9%の得票率で第3党になるなど、急速に支持を集めている。同党はスウェーデンへの移民数を大幅に減らすことを政策の中心に掲げている。
同党は今年、首都ストックホルムの地下鉄構内に移民の物乞いを謝罪する広告を張り出して大規模な抗議を受けるなど、その過激な反移民キャンペーンが問題視されている。(中略)
YouGovの世論調査については、参加者の選出がランダムではないとの批判がある。この調査ではオンラインで集めた1527人にインタビューを実施したが、これは参加者自らが登録して参加するものであった。(中略)
また同国の別の世論調査会社Novusも今月中に調査結果を発表することを予定しているが、その結果はYouGovとは異なったものになるという。
YouGovの結果の正当性には疑問が残るものの、国民の間で政府およびEUの移民政策に対する不満が高まっているのは確かではないかと思われる。
スウェーデンの次の総選挙は2018年9月に予定されているが、それまでに政府とEUが何らかの対応を取らなければ、過激な右翼政党の更なる躍進を許しかねない。
もちろんこれは他のEU諸国にも言えることであり、EUの移民・難民政策は本格的な見直しが迫られている。【8月20日 THE INDiv JOURNAL】
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YouGovの世論調査の妥当性についてはわかりませんが、別の調査で、スウェーデン民主党は26.5%、社会民主党が24.1%という数字もあるようですので【自動翻訳ページで不自然な日本語ですが、http://www.apg29.nu/index.php?hl=ja&artid=21521】、あながち見当はずれな数字でもないようです。
一方で、スウェーデンに移送された移民・難民からは「寒すぎる」との不満が出ているとか。
****「寒すぎる」、移民がバス降車拒否 スウェーデン****
スウェーデンに渡った移民が、移送された村が「寒すぎ」て孤立した場所にあると主張し、一部が移送されたバスから降りることを拒否するなど、当局との間でこう着状態にあることが27日、明らかになった。
25日夕方、ノルウェーとの国境に近いリメツフォシェンにバスで移送された約60人のシリア人とイラク人は、難民申請の審査が行われる間、木造家屋が建ち並ぶ村に滞在することになった。
しかし、自分たちが移送された場所が、一番近い町から数十キロ離れた森の中だと知ると、3分の1はバスから降りることを拒否。多くが、大都市かドイツに連れていってほしいと要求した。
「ここに住むように言われたが、全員には不可能だ。子どもたちや妊娠した女性もいる。ここは寒すぎるし、店もなく、医者もいない」と、シリア移民の1人はテレビ局SVTに語った。
スウェーデン移民庁(MV)は、週に1万人もの難民らを受け入れているため、関係施設などでは対応が追い付かなくなってきていると述べた。
AFPの取材に応じたMVの報道官によれば、代わりの解決策はないものの、27日夕方、移民らのうち約15人と話し合いを進めたという。また、移民が移送先を拒否するケースはまれだという。
人口980万人のスウェーデンは、今年だけで最高19万人の難民申請があると予測しており、1人当たりの移民受け入れ率は欧州連合(EU)諸国の中で最も高い。
気温が氷点下30度まで下がることもあるスウェーデンの長く暗い冬は、温暖な国々から渡航してきた移民たちにとっては大きな試練となっている。【10月28日 AFP】
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「寒さ」だけが問題ではないのでしょうが、難民受け入れに苦慮しているスェーデン国民の不興を買うかも。
【・・・・だからと言って門を閉ざしていいのか?】
いずれにしても、あまりに急激な大量流入にとまどい、反発も高まるスウェーデン・その他の欧州各国ですが、個人的には、そういう困難な状況にありながらも、なお受け入れ姿勢を堅持しようとする人々も少なくないことの方にむしろ関心がもたれます。
難民・移民の受入が多くの問題を伴うことであることは言うまでもないことですが、だからと言って門を閉ざしていいのか?
固く閉ざした門の内側での「それみたことか!難民受け入れなんて土台無理なんだよ!」といった類の議論と言うのは、「闘う君の歌を 闘わない奴等が笑うだろう」といった感も。