孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州難民問題の現状  ハンガリー首相「欧州だけで重荷を背負うことはできない」

2015-10-02 22:36:44 | 難民・移民

(仮設の難民キャンプと化した、仏パリ北部のポルト・ドゥ・サントゥアン【9月30日 AFP】 フランスは「優しくない国」として、欧州を目指す難民たちも敬遠しています。フランスとしては喜ぶべきか、恥ずべきか・・・)

ドイツ国境審査、ハンガリー「謎の移送」、英仏海峡トンネルの恐怖
欧州へ押し寄せる難民・移民らは、年初からで50万人を超えています。

****地中海渡る難民50万人超=国連****
国連難民高等弁務官事務所は29日、中東やアフリカから地中海を渡って欧州に入った難民らの数が年初からこれまでに約51万4000人に上ったと明らかにした。過去最多を大きく更新し増え続けている。

ギリシャに約38万3000人、イタリアに約12万9000人が押し寄せた。全体の54%がシリア人で、アフガニスタン人(13%)、北東アフリカのエリトリア人(7%)が続いている。地中海を渡る途中で2980人が死亡または行方不明になっている。【9月29日 時事】
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世間の興味も薄れたせいもあってか、ひところのパニック状態を伝える報道は最近は少なくなりましたが、事態が改善した訳でもありません。今後、次第に寒くなるなかで、行き場を失った難民たちの問題が深刻化することも懸念されます。

難民らの多くが目指すドイツでは、先月13日からシェンゲン協定で廃止された国境審査を特例措置として再開しています。

****夢のドイツ」50時間待ち 難民、入国審査殺到****
紛争地から欧州にやってきた難民や移民らが今、オーストリアからドイツに渡る国境の橋で長蛇の列を作っている。大量流入で国内の混乱を恐れるドイツ政府が国境審査の再開に加え、付近の列車の運行も止めたからだ。難民らの入国までの待ち時間は50時間以上にも達している。

26日午後、ドイツ南東部フライラッシング。約6キロ東のオーストリアの観光地ザルツブルクの駅からバスやタクシーに乗った難民らが次々国境の橋にやってくる。

長さ100メートルの橋の歩道は、入国審査を待つ数百人で埋め尽くされていた。気温10度前後。冷たい小雨が降り始めると、難民たちは頭上を巨大なシートで覆い、風雨をしのいでいた。(中略)

9月前半、オーストリアから連日1万人以上が列車で直接南部ミュンヘンに到着した。ドイツ政府が、移動の自由を保障するシェンゲン協定で廃止された国境審査を再開したのは13日。

22日には、ドイツ鉄道が来月4日までの予定でザルツブルクからの国境越えの列車の運行を止めた。難民らにとって、今はこの橋がドイツの「正面玄関」だ。

百数十人の警官らが24時間態勢で審査にあたる。難民らは入国後、バスで数キロ離れた展示場に開設された一時宿泊所へ。食事や衣服を受け取った後、専用列車で国内各都市の保護施設へと運ばれていく。【9月28日 朝日】
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“入国審査を待つ数百人で埋め尽くされていた”・・・・何千にも滞留にならず「数百人」ですんでいるということは、50時間以上審査にかかるにせよ、フライラッシングまで到達した難民らはドイツへの入国がほぼ認められているということでしょうか。そこらはよくわかりません。

受入国ドイツでは、「もし緊急事態に(難民に)優しい顔を見せたことについて、私たちが謝罪を始めなければならないとしたら、そんな国は私の国ではない」と怒るメルケル首相の積極的な難民受け入れ対応、その結果増える難民に、世論の拒否反応も強まっているようです。

****メルケル首相の支持率低下****
欧州が直面する第2次世界大戦後最悪の移民危機に緩和のきざしが見えない中、戦争や貧困を逃れようする移民たちの目的地となっているドイツでは、移民歓迎策を取るアンゲラ・メルケル首相の支持率が最新の世論調査で急降下した。

26日の誌面で支持率を発表した独ニュース週刊誌シュピーゲルは、メルケル首相の「難民問題に対する精力的な取り組みがそれほど支持を得ていないのは明らかだ」と述べている。

メルケル首相の歓迎政策に励まされてドイツを目指す移民の数は、年末までに最大100万人に上るとみられている。【9月27日 AFP】

ドイツ国境までたどり着いた難民らはまだいいですが(ドイツ世論が“いい”と考えているかどうかは別にして)、多くの難民らがハンガリー、セルビア、クロアチアなどに残留しているものと思われます。

特に、国境にフェンスを設置したり、難民らに催涙ガスや高圧放水を浴びせるなどの“非人道的対応”で国連をはじめとする国際世論の批判の的になっているのがハンガリーですが、どうも完全に難民らをブロックしている訳でもなく、秘密裡にオーストリアに移送しているとも報じられています。

****ハンガリー、謎の移送 押し返された人々、オーストリアへ****
紛争地から欧州を目指してオーストリアに到着する難民や移民が、この1週間で大幅に増えている。

ハンガリーが力ずくで自国への流入を阻止し、多くの人が隣国クロアチアへ。
(クロアチア当局によってハンガリー国境へ)押し返されてきた難民らを、今度はハンガリー自身が非公式に(専用列車で)自国領を通しオーストリアへ移送しているからだ。ハンガリーの意図は謎に包まれている。(中略)

 ■「回廊」作り関係回復図る?
ハンガリーは15日に一連の「反移民法」を施行。クロアチア国境では新たな流入を阻止するフェンス建設も続けている。

ハンガリー政府は、専用列車について一切コメントしていない。強硬策で混乱が拡大し、多くの周辺国と関係が険悪化。国内向けには強硬姿勢を強調する一方、こっそり難民らの「回廊」を設け、関係回復を図っているとの見方もある。

列車が出発するハンガリー南部ベルメンドのクロアチア国境付近は厳戒態勢だ。国境検問所では軍兵士や警官が厳重に警備し、クロアチア側からバスで運ばれてきた難民らは、ハンガリー側バスに乗り換える前に検問所手前で身体検査や所持品検査を受けていた。

駅構内では百数十人の警官が警備。担当者は取材に応じず、駅員は「行き先は言えない」と話した。【9月26日 朝日】
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行き場を失って滞留するのに比べればずっとましですが、関係国による難民の押し付け合いにしても、“専用列車で移送”といった事態にしても、ホロコーストなどの暗い歴史を連想させる嫌なものがあります。

イギリスを目指し英仏海峡トンネルを渡ろうとする難民・移民らの状況も、おさまっていないようです。

****移民の死「怖くて仕事できない」、英仏海峡鉄道の運転士ら悲鳴****
英仏海峡トンネルの運営会社ユーロトンネルに勤務するフランス人鉄道運転士たちが1日、渡英を試みる移民を死なせてしまう恐れと不安から、もはやこれ以上は勤務を続行できないと訴える公開書簡を送り、当局に対策を求めた。

書簡を送ったのは、仏最大労組の労働総同盟(CGT)に加入している運転士ら。英仏海峡トンネルではこの5か月間に少なくとも移民13人が命を落としており、先月30日にも30代のエリトリア人男性が列車にひかれた遺体で見つかっている。

「今、私たちは恐れている。勤務を始めるのも、終えるのも、列車を運転するのも、(移民を)はねてしまうのも、衝突するのも、感電死させるのも、不幸・不遇・不運のどん底にある人をひき殺してしまうのも恐ろしい」「我々は、このようなストレスや不安や恐怖で胃が痛くなるような状態で仕事を続けたくはないし、なにより続けられない」と、AFPが確認した公開書簡は訴えている。

英仏海峡トンネルの入口がある仏北部カレー近郊には現在も、アフリカやアフガニスタン、シリアなどからの移民約4000人が野宿している。【10月2日 AFP】
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それでも欧州を目指す人々
最大の難民発生源であるシリアの状況は、相変わらずと言うか、ロシア・プーチン大統領の空爆開始によって変化が出ていると言うべきか、いずれにしても戦乱はおさまっていません。

難民・移民らはシリアだけでなく、アフリカからも、それも灼熱のサハラ砂漠を超えて移動してきます。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の調べでは、今年に入り、地中海などを渡って欧州に到着した難民・移民の半数は内戦下のシリア出身者ですが、貧困にあえぐアフリカ出身者も約2割に上る。

****<サハラ砂漠>生きるため縦断・・・アフリカから欧州へ*****
アフリカ大陸の北部を覆うサハラ砂漠の中核都市、ニジェール中部アガデスから何台ものトラックが砂ぼこりを巻き上げて走り去っていく。

セ氏40度以上の炎天下、荷台にはすし詰め状態の若い黒人たち。各地からこの町にたどり着いた人々は、砂漠の向こう側にあるリビアや、その先の欧州を目指す。

猛暑と渇きに耐えて砂漠を縦断しても、眼前には多くの密航者をのみ込んできた地中海が横たわる。

それでも彼らはサハラ越えを狙う。「他に選択肢はないんだ」。灼熱(しゃくねつ)の大地には、貧困に打ちのめされた人々の嘆きが漂っていた。(後略)【9月27日 毎日】
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困難は灼熱の砂漠という自然だけでなく、むしろ、密航業者や強盗など人間による危険の方が大きいように思われます。

“ギニアから来たセフラエさん(24)とアマドゥさん(18)の兄弟は8月中旬、首都コナクリを出発。マリなどをバスで乗り継いできたが、手持ちの現金は運賃や検問所通過時の賄賂などで尽きてしまった。持ち物は3、4着の着替え程度。飲食は物乞いに頼っている状態だが、欧州行きを諦めていない。

セフラエさんは溶接工などで食いつないできたが、「一部の有力民族に属していないと安定した職には就けない」と話した。権力者の周辺だけで富を独占する「縁故主義」のまん延が、社会的格差をますます拡大させていると言う。”【同上】

こうした者を、いわゆる“難民”にはあたらない経済移民であるとして追い返すのが、はたして妥当な対応なのか?

欧州からは国際社会の負担共有を求める声
EUでは難民の加盟国分担をめぐり、ハンガリーなど中東欧とドイツなど西欧の間で軋轢がありましたが、ひとますは落ち着いた感もあります。

****難民分担、反発表面化せず EU首脳会議、支援1300億円増へ****
中東やアフリカの難民が欧州に押し寄せている問題で、欧州連合(EU)首脳会議は23日、紛争地シリアからの難民が経由するトルコなど周辺国との連携を強化し、難民を支援する国連機関への拠出を少なくとも10億ユーロ(約1340億円)増やすことで合意した。

難民12万人を加盟国で分担する措置が決まったことについて、今回の会議で表だった反対の議論はなかった。(後略)【9月25日 朝日】
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国際社会から“悪者”扱いされたハンガリーのオルバン首相は、国連・潘基文事務総長の主宰の会合で、「欧州だけで重荷を背負うことはできない」と述べ、欧州以外の国々を含めた難民受け入れ態勢の構築を話し合うよう事務総長に求めています。

****<難民問題>責任共有と紛争解決求める 国連会合****
第二次大戦後最悪とされる難民問題の対応を話し合うハイレベル会合が9月30日、国連本部で開かれた。

中東などから難民が押し寄せている欧州の閣僚からは、「欧州だけの問題ではない」と国際社会の負担共有や、難民発生の主因であるシリア内戦の解決を求める声が相次いだ。

潘基文(バン・キムン)事務総長は、紛争などで家を追われた人々が6000万人に上っており、対処への「世界の団結力」が問われていると強調した。難民の命を救うことを最優先に、差別禁止などを盛り込んだ8項目の原則を提示した。

経由国の一つ、オーストリアのフィッシャー大統領は、シリア内戦を終結させることが国際社会の「政治的、道義的な責任」であり、「前提条件を放棄することになるとしても、最優先で取り組むべきだ」と主張。アサド政権退陣にこだわる欧米諸国に譲歩を促した可能性がある。

ギリシャのチプラス首相も、同国を通過する難民の8割以上がシリアなど紛争地から来ていると指摘。さらに「経済危機、難民危機、周辺国の不安定化に伴う安全保障上の危機に見舞われている」とギリシャの現状にも理解を求めた。

国境閉鎖などの対応が非難を浴びたハンガリーのオルバン首相は「欧州だけでは負担できない。現状のままでは欧州は不安定化する」と警告。「世界全体で負担を共有する交渉の開始を事務総長に求める」と述べ、世界の主要国の受け入れ割り当てを提案した。

難民たちの目的地になっているドイツのシュタインマイヤー外相は、「国連の人道支援機関は危険なほどに財源不足」と指摘し、国際社会の支援を求めた。その一方で、「共通の人道的な基準に基づいた欧州の難民保護のシステムが必要だ」と述べ、受け入れを巡って生じた欧州連合(EU)加盟国間の亀裂に懸念を表明した。
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こうした国際社会の負担共有を求める声に応える方向で、アジアからはマレーシアが手を上げています。

****シリア難民3000人受け入れ=マレーシア****
マレーシアのナジブ首相は1日、米ニューヨークで開かれた国連総会の一般討論演説で「難民を取り巻く危機を軽減するため、今後3年間で3000人のシリア難民を受け入れる」と表明した。【10月2日 時事】 
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複合民族国家でもあり、イスラム教のマレー族が中心でもあるマレーシアは、イスラム難民を受け入れやすい素地があるとも言えます。

難民問題には“湾岸のトラウマ”は反応しないのか?】
日本・安倍首相も資金提供を表明しています。

****中東の難民支援などに1800億円拠出、安倍首相が国連で表明****
安倍晋三首相は29日、米ニューヨークで開かれている国連総会で演説し、シリアとイラクの難民に対する支援と、中東および周辺域の危機的状況に歯止めをかけることを目指した平和構築努力への協力のため、合わせて15億ドル(約1800億円)を拠出する方針を表明した。(中略)

首相が同日発表した支援金の内訳は、シリアとイラクの難民や国内避難民の支援に昨年の拠出額の3倍に当たる8億1000万ドル(約970億円)、中東とアフリカの平和構築活動に7億5000万ドル(約900億円)。

加えて、110万人以上のシリア難民を受け入れているレバノンの支援に200万ドル(約2億4000万円)、また欧州連合(EU)を目指す難民らの途上にあるセルビアとマケドニアにも250万ドル(約3億円)を拠出することを明らかにした。(後略)【9月30日 AFP】
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現実に多数の難民を受け入れている国々への経済的支援は非常に意義あることといえます。
ただ・・・・。

****首相「移民受け入れより女性活躍」 難民問題で発言、海外メディアも反応****
安倍晋三首相は29日(日本時間30日)、訪問先の米ニューヨークでの記者会見で、日本がシリア難民を受け入れる可能性を問われ、「移民を受け入れるよりも前にやるべきことがある。女性、高齢者の活躍だ」と述べた。

首相の発言は複数の海外メディアで取り上げられ、ロイター通信電子版は「首相はシリア難民を受け入れる前に、自国の問題を解決しなければならないと発言」などと報じた。

首相は会見の冒頭で「(国連総会の)今年の最大のテーマは難民問題だ」と強調した。ただ、その後の質疑で難民受け入れの可能性について問われると、「国際社会で連携して取り組まなければならない課題だ。人口問題で申し上げれば、移民を受け入れるよりも前にやるべきことがある」と述べ、女性の活躍など政権が掲げる政策の必要性を訴えた。【10月1日 朝日】
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女性、高齢者の活用が重要な社会課題であることは間違いないのですが・・・。

日本外交及び政治指導者には、1990年の湾岸戦争において、“日本は多大な資金的負担をしたにもかかわず、人的貢献をしなかったことで、アメリカや関係国から評価されなかった”という「湾岸のトラウマ」が深く存在するということですが、難民問題について資金提供で事足れりとするのには異論はないのでしょうか?

もっとも、それは政治の問題というより、難民・移民の受け入れを現実の問題としては全く考えていない日本社会の問題でしょう。

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難民受け入れを巡っては様々な問題があり、現実的にとれる方策にも制約がありますが、議論の出発点には困難な境遇にある人々への思いやりがあってしかるべきでしょう。

敵意をむき出しにして最初から問題点をあげつらい、実際に困難な状況になれば「それみたことか」というのでは、単なる偏狭な排外主義に過ぎません。難民・移民問題への対応を困難にしているのは、異質な人々を疎外して共存を難しくしている、そうした偏狭な人々の存在です。【9月25日ブログより再録】
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