孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア・アサド大統領がロシア訪問  プーチン大統領と話し合われた内容は?

2015-10-21 23:18:36 | 中東情勢

(モスクワで会談したプーチン大統領とシリアのアサド大統領【10月21日 WSJ】)

プーチン大統領「軍事行動だけでなく政治解決の道も積極的に探っていく」】
シリアのアサド大統領がモスクワを急きょ訪問し、プーチン大統領と会談しました。

****シリアのアサド大統領、モスクワを電撃訪問*****
シリアのアサド大統領は20日、予告なしにモスクワを訪問した。ロシア政府が21日明らかにした。2011年3月にシリアで内戦が始まって以来、アサド大統領の外遊が伝えられたのは初めて。

プーチン大統領はロシア政府が発表した声明の中で、シリア政府は多くの反政府勢力との戦いで「極めてポジティブな結果を達成」したとの見方を示した。

ロシアは9月下旬に、シリア政府軍支援のためシリアで空爆作戦を開始。プーチン大統領は、ロシアはシリア内戦の終結に向け、「テロに対する戦いで、軍事行動だけでなく政治解決の道も積極的に探っていく」考えを表明していた。

プーチン大統領はさらに、「旧ソ連諸国から最低でも4000人前後が政府勢力に対抗して武器を持ち、シリア国内で戦っていることはロシアにとっても気掛かりだ」と述べた。

ロシア政府の声明によると、アサド大統領はロシアの支援に対する感謝を表明した。
アサド大統領は、「軍事行動は一段の政治措置を示唆していると誰もが理解している」と述べ、「もちろん、われわれ全ての共通の目標は、わが国の将来が国民の望む姿となることだ」と続けた。【10月21日 WSJ】
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****アサド大統領のモスクワ訪問は、プーチン大統領側からの強い「政治的一撃****
ロシアの首都モスクワで実施されたロシアのプーチン大統領とシリアのアサド大統領の会談は、「シリアに対するロシアの立場の真剣さを反映した、ロシアによる強い政治的一撃だ」。作家で政治評論家のファディ・アクム氏は、ラジオ「スプートニク」のインタビューで、このような見解を表した。

アクム氏は、次のように語った。
「シリアのアサド大統領のモスクワ訪問が、ウラジーミル・プーチン大統領側からの強い政治的一撃であることは確実だ。これは、地域で近いうちに何が起こるかについての、国際社会に向けられたメッセージだ。
このメッセージは、ロシアのミサイルよりも威力を持っており、シリアやアサド政権に対するロシアの真剣さを物語っている」。

アクム氏は、アサド大統領とプーチン大統領の会談の政治的側面については、「ロシアは、この歴史的段階、特にシリア問題に関して、ロシアとゲームをしてはならないというメッセージを国際社会に送りたいのだ」と指摘したほか、シリアとロシアの首脳会談は、「シリア危機に対するロシアの変わらぬ立場を示した」と述べた。

シリアのアサド大統領は20日にモスクワを訪問し、翌21日にシリアへ帰国した。2011年にシリアで紛争が始まって以来、アサド大統領が外国を訪問するのは今回が初めてだった。【10月21日 Sputnik】
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ミサイルよりも威力を持った「強い政治的一撃」・・・・何でしょうか?

とにかく“内戦が始まって以来、アサド大統領の外遊が伝えられたのは初めて”ということですから、相当に重要な目的があったのでは・・・とも推察されます。単に、“ロシアの支援に対する感謝”を示すだけのものではないでしょう。

「軍事行動だけでなく政治解決の道も積極的に探っていく」(プーチン大統領)
「軍事行動は一段の政治措置を示唆していると誰もが理解している」(アサド大統領)

こうした発言を考えると、今後のシリアの政治体制・枠組みについて、もっと端的に言えば、アサド大統領を含めた移行体制をとるが、しかるべき時期にアサド大統領は退陣する・・・といった類の枠組みについての話があったのでは・・・・とも思えます。

****シリア情勢****
アサド大統領は20日夕、モスクワを訪問し、プーチンと会談し、ロシアの軍事介入が、シリアでのテロの拡大を防いでいると述べた由。
今回のアサドのモスクワ訪問は突然の訪問で又会談終了後、シリアに帰国した由。

(恐らく今回の訪問はロシアの軍事介入に対するシリア政府の感謝の意を伝えるもんかと思われるが、それにしても極めて短時間の突然の訪問、ということの裏には、もう少し切迫した事情があった可能性もあるかもしれない。

トルコ首相が、6月間の暫定期間内であれば、アサドの留任を受け入れる用意があるなどと発言していることを踏まえると、アサドがロシアもプーチンがそのような解決策に傾く可能性があると懸念して、急遽会談した可能性が考えられるが、それを示す具体的証拠はなく、単なる推測です。(後略)【10月21日 野口雅昭氏 中東の窓】
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「短期的」アサド存続という考えにアサド大統領が反対しているのか、ある程度の合意があるのか、プーチン大統領がアサド大統領に引導を渡したのか・・・そのあたりは全く知りません。

ただ、アサド政権を支援する形でシリアへの軍事介入を強めたロシア・プーチン大統領としても、いつまでもアサド政権を軍事的に支援し続けるつもりもないでしょう。アフガニスタン侵攻のトラウマもあります。

軍事的介入で劣勢にあったアサド政権をやや立て直すことができても、その先の展望がなく、泥沼にはまってしまう危険があります。

アメリカが反体制派を支援するなかで、「米ロの代理戦争」といった危険な状態を続けるのもリスクが大き過ぎます。
ロシア国内世論も、シリアへの深入りには懐疑的です。

ロシアのアサド政権支援は、あくまでもポスト・アサドを有利に運ぶための手段ではないでしょうか。
ロシア外務省は下記のようにもコメントしています。

****露外務省:ロシアが支持するのはアサド氏ではなく、シリアの国家性****
ロシアはシリアのアサド大統領を支持しているのではなく、シリアの国家性の維持が重要だとみなしている。ロシア外務省のザハロヴァ報道官は14日のブリーフィングで次のような声明を表した。

「我々がアサド大統領を支持しているという点だが、以前からコメントを出し、語ってきたが、我々が支持しているのはアサド氏ではない。我々にとって重要なのはシリアの国家性が維持されることだ。」(後略)【10月14日 Sputnik】
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ロシアの権益が保持される形で「シリア国家」が存続するなら、別に「アサド大統領」でなくてもいい・・・と理解できます。

アサド大統領も参加した「移行期間」】
人権無視のアサド大統領を排除するという観点で始まったシリアの反政府運動、その後の内戦状態ですが、このままでは出口が見いだせず、犠牲者だけが増大します。

更に、大量の難民を発生することで欧州を揺るがしています。
また、アメリカがアサド以上に嫌う「イスラム国(IS)」などイスラム過激派の台頭を招いていますが、アメリカのシリア戦略は破綻しています。

アサド大統領も参加した「移行期間」を設けるという考え方について、国際的に容認姿勢が広がっているという話は、9月26日ブログ「シリア  ロシアのアサド存続を前提とした「大連合」構想を支持する気運も国際的に拡大」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150926)でも取り上げました。

“(イギリス)キャメロン首相はアメリカのニュース番組で、アサド政権が長期に継続することは認めないものの、移行期であれば政権が継続することを容認する考えを示唆しました。

また、キャメロン首相は、アサド政権に近いロシアやイランに働きかける必要があるという認識を示しており、イギリスはISとの戦いを優先させるため、アサド政権に対して即時退陣を求めてきたこれまでの姿勢を軟化させています。”【9月30日 NHK】

“フランスのオランド大統領は27日、ニューヨークの国連本部で記者会見し、シリア情勢打開に向け、「すべての当事者」と話す用意があるとして、アサド政権と対話する可能性をにじませた。”【9月28日 産経】

“ドイツのアンゲラ・メルケル首相は24日、協議にはアサド大統領も関与すべきだと述べた。”【9月26日 AFP】

欧州としては、難民発生を止めるためには、アサドだろうが何だろうがかまわない・・・というところでは。

“元も強硬であったトルコも、交渉、移行期間へのアサドの参加を認めるにいたった。”【9月26日 野口雅昭氏 中東の窓】

アサド政権打倒を強く求めるトルコですが、最大の関心事はトルコ国境沿いに拡大するクルド人勢力でしょう。
このまま内戦を続けて、クルド人支配地域が独立国家状態で既成事実化するよりは、何らかの形で「シリア国家」の枠組みを作った方が・・・といったところでしょうか。

“オーストラリア政府はシリア政府およびアサド大統領をいちがいに否定的に評価する見方を改める構えだ。ジュリー・ビシュップ外相が述べた。”【9月26日 Sputnik】

米ロ間には深い溝も
アメリカがどう考えているのか・・・・。

****シリア内戦終結について米露が「暗黙の合意」、アサド大統領顧問****
シリア内戦の終結についてロシアと米国は「暗黙の合意」に達していると、バッシャール・アサドシリア大統領の顧問ブーサイナ・シャアバン氏が23日夜、シリア国営テレビのインタビューで語った。

シャアバン氏は「現在の米政権はシリア危機の解決策を見出すことを望んでいる。この解決策に到達するため、米国とロシアの間に暗黙の合意が存在する」と述べた。

「今や米国は、ロシアはこの地域(=シリア)について深い知識を持っており、状況の評価も優れていると認識している」、「現在の国際情勢は緊張緩和に向かっており、シリア危機の解決に向かっている」(シャアバン氏)

シャアバン氏は2011年以降24万人以上が死亡し、数百万人が避難を強いられたシリア内戦について「欧米の姿勢に変化」が起きたと指摘した。

数十年前からシリアの政権を支援してきたロシアは、アサド大統領退陣をシリアでの和平協議開始の前提条件として受け入れることはないと表明している。

米国は4年以上前からアサド大統領の退陣を主張してきたが、ジョン・ケリー(John Kerry)米国務長官は先週、「(アサド大統領退陣が解決への)第1日目や1か月目などである必要はない」と発言した。(後略)【【9月26日 AFP】】
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米ロ間の「暗黙の合意」がどういうものか・・・よくわかりません。

ただ、米ロ首脳会談の直後にロシアがシリア空爆に乗り出したことを考えると、アサド政権打倒よりIS対策を優先させる方向での合意はあったのでしょう。

しかし、ロシアのあまりに露骨なアサド支援・反体制派叩きにアメリカとの関係もこじれているようにも見えます。

****シリア情勢】米国防長官、「ロシアと協力せず****
カーター米国防長官は14日、米陸軍協会年次総会で、ロシアがシリアのアサド政権を武力で支援していることについて、「誤った戦略を追求する限り、ロシアと協力するつもりはない」と強調した。

カーター氏は「ロシアはイスラム国(イスラム教スンニ派過激組織)、ヌスラ戦線などのテロ組織と戦っていると主張している。だが、これらのいかなる組織も攻撃の標的ではなかった」と述べ、米国が支援する穏健な反体制派などを無差別に攻撃していると改めて批判した。

そのうえで「ロシアは孤立という帳に覆われている」とし、米側が求めるシリアの政権移行へ路線を転換するよう促した。

また、ロシア軍の巡航ミサイルが米軍の無人機と“ニアミス”を起こすなど、「プロ意識に欠ける行為が増加している」と述べ、米露間の衝突回避措置の早急な合意を改めて要求した。【10月15日 産経】
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****米が首相訪問拒否」=ロシア大統領****
ロシアのプーチン大統領は15日、過激派組織「イスラム国」に対する共同戦線構築のため、メドベージェフ首相を訪米させる提案が拒否されたことを明らかにし、米政府の対応は「非建設的」と不満を表明した。訪問先のカザフスタンで記者団に語った。【10月15日 時事】 
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懸念される米ロ間の衝突を回避する措置については合意がなされています。

****<シリア空爆>米露が衝突回避策合意 「安全な距離」確保****
米国防総省のクック報道官は20日の定例会見で、内戦中のシリアで米国主導の有志国連合とロシアがそれぞれ実施している空爆作戦に参加する航空機の衝突回避策について米露国防当局が正式に合意し、覚書を交わしたと発表した。

ロシアが9月末に空爆を開始して以来、米露の航空機が接近する事例が複数回発生しており、不測の事態を避けるための協議が行われていた。(後略)【10月21日 毎日】
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米ロ間の溝は未だ深いようにも見えますが、これも政治解決の道を模索するうえでの綱引きでしょうか。

仮にアサド大統領も含んだ形での「政治解決」という話になると、肝心の自由シリア軍など反政府勢力をどのように納得させるか・・・・という難しい問題もあります。

難しい問題ではありますが、シリアの現状を改善するには、短期的にアサド大統領を容認する形での移行体制を作るしかないように思います。

ロシアが「アサド抜き」で同意し、アサド大統領を説得するというなら話は早いでしょうが・・・今回のプーチン・アサド会談においても“会談の冒頭、プーチン大統領は「シリア危機の解決は全政治勢力が参加する政治プロセスによって可能だ」と述べ、アサド政権の排除を前提とする欧米をけん制した。”【10月21日 時事】とのことですから、それはないのでしょう。
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