孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾総統選挙  与党・国民党、洪候補の不人気と「中台統一発言」で混乱状態

2015-10-06 22:58:18 | 東アジア

(中国・西安の華清池に残る「西安事件」当時の弾痕 中国共産党と国民党及び台湾の関係は紆余曲折を経ていますが、依然として東アジアにおける重大かつ微妙な問題です。)

野党・民進党の蔡英文氏の当選は確実
台湾では来年1月に総統選挙が行われます。
与党・国民党の洪秀柱(ホン・シウチュー)氏、野党・民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)氏、そして国民党から分派した小政党、親民党の宋楚瑜(ソン・チューユイ)氏の3人の争いとなっていますが、おそらく野党・民進党が政権を奪還すると予測されています。

****台湾総統選まで4カ月、政権交代ほぼ確実****
小笠原 欣幸/東京外国語大学大学院准教授(台湾政治)

来年1月の台湾の総統選挙の投票まで、あと4カ月となった。

選挙戦は、与党・国民党の洪秀柱(ホン・シウチュー)氏、野党・民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)氏、そして小政党、親民党の宋楚瑜(ソン・チューユイ)氏の3人の争いであるが、すでに蔡英文氏の当選は確実ということで台湾内部の見方は一致している。

関心は、同時に行われる立法委員(国会議員)選挙で民進党が過半数を確保できるかどうかに移っている。

昨年末の地方選挙での国民党の敗北は、馬英九(マー・インチウ)政権に打撃を与えた。
それだけではなく、国民党と民進党という2大政党間の力関係を変える「地殻変動」とも言うべき意味深い変化をもたらし、総統選挙に向けて民進党有利、国民党不利の流れが早い段階でできた。

民進党、蔡英文主席の下に団結
国民党は勝ち目が薄いので実力者がみな立候補を見送り、結局、主力級ではない洪秀柱氏を擁立せざるを得なかった。

一方、政権奪還の可能性が高まった民進党は蔡英文主席の下に党内が団結し、安定した選挙支援態勢を構築した。

国民党の内部が洪秀柱支持でまとまっていないのを見越した親民党の宋楚瑜主席も出馬を表明した。以前は、国民党の友党であった親民党が候補を立てたことで、国民党はさらなる苦境に陥った。

民進党は、独立を志向する台湾ナショナリズムが強い政党であるが、蔡英文氏は6月の訪米で穏健な「現状維持」路線を打ち出し、中間派に支持を広げている。

国民党は中国ナショナリズムの政党であるが、馬英九氏は2008年と2012年、穏健な「台湾化」を掲げ中間派の支持を確保することに成功した。しかし、今回、洪秀柱氏は中国ナショナリズムに回帰した政策を掲げ、中間派の支持を失った。

ナショナリズムと距離置く中間派
台湾の選挙市場における台湾ナショナリズムと中国ナショナリズムはどちらも少数で、中間派が多数である。ただし、「中間」とは無色の「中間」ではない。それはナショナリズムとは距離を置くが、台湾への愛着が強い台湾アイデンティティー(台湾意識)をベースにしている。

中国の影響力の高まりは台湾においてもますます明確に感じられるが、「台湾は台湾、中国とは別」が人々の自然な感覚になっている。昨年のヒマワリ学生運動はその現れである。4年に1度の総統直接選挙を20年にわたって実施してきたことが台湾意識を育んだ。

中国は表面上台湾の選挙を静観している。
中国側が台湾との交流の前提条件とし、4年前の総統選挙で馬英九氏の再選に一定の効果を発揮した「1992年コンセンサス」は、今回は決定打にはならないだろう。

中国が、強硬な言動などで選挙に介入しても蔡氏当選の流れを変えるのは難しいし、反発を買うだけである。
むしろ中国は、選挙後に台湾への圧力を強めて来るであろう。

蔡英文氏を「反中国」と決めてかかる必要はないが、蔡政権は馬政権よりは日米との関係を重視するであろうし、中国にとって面白くない政権になることは間違いない。

中国は蔡氏の得票率が50%を超えるかどうか、そして立法院で民進党が過半数を取るかどうかを注視している。

中台関係がギクシャクするのは避けられないが、それがどの程度の摩擦になるのかは、今後の民進党と中国・共産党との駆け引きによる。

中台間で摩擦が発生すれば、中国が日米に圧力を強めることも予想される。日米にとっても非常に関心の高い選挙である。【9月24日 AJWフォーラム】
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国民党 “洪秀柱氏降ろし”表面化
“国民党は勝ち目が薄いので実力者がみな立候補を見送り、結局、主力級ではない洪秀柱氏を擁立せざるを得なかった。”・・・・という経緯で擁立された国民党・洪秀柱氏、当初は蔡英文氏との「女性対決」とも言われていましたが、ここに来て大混乱の様相を呈しています。

もともと洪秀柱氏は中国とのつながりを重視する姿勢で、その点が問題視されていた人物です。

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国民党は、中台が「一つの中国」の原則を確認しつつ、その中身はそれぞれが述べ合うと台湾側が主張した1992年の中国とのやりとりを「92年コンセンサス、一中各表」として対中政策の核心に据える。

ところが洪氏は当初、「一中同表」という言葉で、中台はともにより大きな全体中国に属するという考えを訴えた。党の立場を超えた「統一派」だとみる警戒感が強まった。

党内からも反発が出て、洪氏は「一中同表」と言わなくなった。今回の党大会では92年コンセンサスを盛り込んだ政策綱領を採択し、洪氏も順守を表明した。

だが、国民党立法委員の一人は「指導者にふさわしいか疑問。このままだと大変なことになる」と語る。国民党は大会直前、党批判を繰り返していた立法委員ら5人を除名。不満の押さえ込みに躍起だ。【7月20日 朝日】
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敗戦はある程度覚悟・・・とは言え、第3の候補・宋楚瑜氏にも及ばないような不人気のなかで、「このままだと大変なことになる」という懸念が現実のものとなっています。

洪氏は9月2日深夜、フェイスブックで「反省と沈思」のためとして当面の選挙運動の中止を発表。あわてた選挙対策本部の報道官らが出馬取りやめを否定するなど混乱しましたが、このときは洪氏が9月6日の記者会見で「信念のために徹底的に戦い、絶対に後退しない」と述べ、選挙戦を続行することになりました。

しかし、持論の「最後は(中国との)統一が必要だ」という中国重視の考えを発言したことで、さすがにこれでは戦えない・・・という声が国民党内で表面化しているようです。

****台湾・総統選】 与党・洪氏「最後は中国との統一必要」 「憲法の精神を分析」と弁明****
台湾の与党、中国国民党の総統選候補者、洪秀柱氏(67)は2日放送のラジオ番組で、憲法の規定上、台湾は「最後は(中国との)統一が必要だ」と述べた。

洪氏は同日、「憲法の精神を分析しただけだ」と弁明したが、世論の約6割が中台関係の「現状維持」を望む中、厳しい選挙情勢にさらに悪影響を及ぼす可能性がある。

洪氏は番組で、馬英九総統の「統一せず、独立せず、武力行使せず」の方針についても「役割を終えた」とし、中国当局との統一交渉を意味しかねない「政治対話」の必要を改めて訴えた。一方で、統一の主導権を握るのは台湾側だとも強調した。

政治大の今年6月の世論調査によると、「現状維持」が59・5%に対し、「統一」支持は9・1%。洪氏は7月の指名前にも、統一を目指していると取られかねない発言で支持率を落としたことがある。【10月2日 産経ニュース】
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選挙戦もあと2か月という段階にもかかわらず、候補者の交代を求める動きも出ています。

****台湾・総統選】与党・国民党がまさかの女性候補すげ替え? 「統一」爆弾発言で我慢も限界・・・・****
台湾の与党、中国国民党の執行部が、来年1月の総統選候補者を現在の洪秀柱立法院副院長(国会副議長に相当)=(67)=から朱立倫主席(54)に交代させる方針であることが5日、分かった。複数の台湾メディアが同日夜に報じ、国民党幹部も産経新聞の取材に大筋で認めた。

事実上、初の女性対決になるとみられていた総統選の構図は、届け出まで2カ月を切り、新たな局面を迎えた。

中央通信社など複数のメディアは5日夜、朱主席ら党執行部が9月中旬以降、選挙の劣勢を理由に複数回にわたって洪氏に立候補辞退を求めたが、洪氏に拒否されたと報じた。

洪氏が今後も辞退しない場合、中央常務委員会で臨時党大会の開催を決定。臨時党大会で朱氏を候補者に「徴召(強制指名)」するという。

朱氏の出馬方針は自由時報(電子版)が報じた。記事は、新北市の党関係者の話として、このまま洪氏が総統選に臨んだ場合、党や朱氏自身の政治的前途も失われると朱氏が判断。新北市長を辞任して総統選に出馬する方針が「ほぼ固まった」とした。朱氏の出馬は馬英九総統も了承済みであることも示唆した。

支持率で野党に遅れ
・・・・有力テレビ局TVBSの8月末の世論調査によると、洪氏の支持率は23%で、野党、民主進歩党の蔡英文主席(59)の40%を下回る。差し替え論はこれまでも総統選と同日に行われる立法委員選の候補者を中心にくすぶっていた。

だが、最終的に後押ししたのは、2日放送のラジオ番組での洪氏の発言とみられる。洪氏は、台湾は憲法上「最終的には(中国との)統一が必要だ」と主張。夕刊紙、聯合晩報などは5日夕、朱氏が3、4日の両日、洪氏に対し「統一発言は受け入れられない」と出馬辞退を迫ったと報じた。

中央常務委員の一人も4日、洪氏を候補者として支持し続けるかを議論するため、臨時党大会の開催を求めると公言していた。

中台関係に対する台湾の世論は、政治大の今年6月の調査で、59・5%が「現状維持」を支持する一方、「統一」支持は9・1%にすぎない。

中間層への配慮を欠く洪氏の「統一発言」は、有権者の多数派を意識する小選挙区制の立法委員の候補者にとっては死活問題で、不満が限界に達したとみられる。

党規約違反の恐れも
ただ、党規約は党大会の開催には2カ月前の通知が必要とし、立候補届け出に間に合わないとの指摘もある。洪氏もこれまで「最後まで戦う」と訴えており、引きずり下ろす形になれば、かえって党勢に悪影響を及ぼす可能性もある。【10月6日 産経】
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朱立倫主席に候補者差し替え・・・という話ですが、洪氏に出番が回ってきたのは、もともと次回を狙う朱立倫主席が今回の「負け戦」を嫌って立候補しなかったことによるものです。ただ、洪氏のあまりの不人気と「統一発言」で、朱立倫主席としては自分が出て負けた方がまだいい・・・という判断でしょうか。

もっとも、朱立倫主席自身は、差し替え出馬を否定しているとの報道もあります。表向きの話でしょうか。

****総統候補交代か、朱氏「ナンセンス****
与党・国民党の朱立倫・主席は5日、兼任する新北市長を辞職し、同党の次期総統候補になるとの言い方に対し、「ナンセンス」と一蹴。(後略)【10月5日 RTI台湾中央放送局】
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洪秀柱氏も「出馬の初志を貫徹する」と交代を拒否しています。

****台湾・総統選】与党・国民党の洪秀柱氏、候補者交代を拒否****
台湾の与党、中国国民党内で、次期総統選の候補者交代を迫る動きが表面化した洪秀柱・立法院副院長(国会副議長に相当)は6日、台北の選挙本部で記者会見、「出馬の初志を貫徹する」と述べ、新たな候補者として浮上した朱立倫党主席への移譲を拒否する姿勢を示した。

これにより、「換柱(柱を換える)」と呼ばれる洪秀柱氏降ろしの舞台は、7日に開かれる党中央常務委員会に移る。朱立倫氏ら主流派は、候補者の更迭を決める臨時党大会の開催を議決する構えだ。【10月6日 産経】
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なんとも“ドタバタ劇”としか言いようのない状況ですが、台湾にとって最大の問題である中国との関係において異論のある者を候補に据えたことから生じた混乱です。

細心の注意を要する「現状維持」 今後は民進党と中国・共産党との駆け引き
一方の民進党の蔡英文氏は、アメリカに続き日本も訪問、着々と総統への道を固めています。

****台湾・民進党の蔡英文主席が来日 次期総裁有力 日本の超党派の議員と意見交換****
台湾の野党、民主進歩党の蔡英文主席は6日、来日し、東京・永田町の衆院議員会館で、超党派の議員連盟「日華議員懇談会」の役員約15人と会談した。同日夜には日本在住の台湾人ら主催の歓迎会で講演する。

蔡氏は来年1月の総統選の候補者。世論調査で優位に立っており、8年ぶりの政権交代の可能性が高まっている。

日本と台湾は外交関係がないため、台湾の総統選の候補者は就任前に訪日するのが慣例だが、今回は蔡氏以外に訪日の予定はない。(後略)【10月6日 産経】
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国民党が「現状維持」と「中台統一」で揺れるように、民進党も「現状維持」と「台湾独立」で揺れる問題を抱えています。

蔡氏の日本訪問について、中国外務省の洪磊・副報道局長は9月25日の記者会見で「重大な懸念と断固とした反対」を表明、日本に対し「『一つの中国』原則を順守し、いかなる人にもいかなる口実でも『台湾独立』をまき散らす空間を与えない」よう求めたとのことです。【9月25日 時事より】

独立志向が強い民進党ですが、民進党政権で中国との対立が先鋭化することにはアメリカも強い懸念を抱いています。
蔡氏は6月に訪米し、そのあたりのアメリカの不安払拭にも務めています。

****<台湾>民進党の蔡主席、米の懸念払拭に腐心****
来年1月の台湾総統選に向け、米国の支持獲得を目指して訪米していた野党・民進党の蔡英文主席(58)が9日深夜、台湾に戻った。蔡氏は、米政府高官との会談で対中政策の「現状維持」を強調したとみられる。

独立志向の強い民進党政権に戻ると中台関係が不安定化するかもしれないという米国の懸念を払拭(ふっしょく)しようとした模様で、米側も厚遇で応じた。

蔡氏は、米側の肯定的な評価を得て総統選への関門を一つ乗り越え、8年ぶりの政権奪還を目指して弾みをつけそうだ。(中略)

中国は、中台が「一つの中国」の原則を確認したとされる「1992年合意」を交流の基礎とするが、民進党は認めていない。

中国国務院(政府)台湾事務弁公室の馬暁光報道官は10日、蔡氏の訪米について「国際的に『台湾独立』の分裂活動を行うことに断固反対する」とけん制した。【6月11日 毎日】
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日本もアメリカも「一つの中国」の原則順守を求める中国に配慮し、台湾総統の公式訪問を受け入れていないので、就任前に訪問する・・・・台湾の置かれている苦しい国際環境です。

また、経済的には関係を強めざるを得ないなかで、政治的には距離を保つ、ただし、“独立”志向ということで中国を刺激しないようにしながら・・・なんとも難しい舵取りです。

民進党政権成立で「中台関係がギクシャクするのは避けられないが、それがどの程度の摩擦になるのかは、今後の民進党と中国・共産党との駆け引きによる。」【冒頭記事 小笠原欣幸氏】という話です。
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