孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア情勢 存在感を強めるロシアが「和平案」を提示 今後の協議の軸に

2015-10-26 22:51:39 | 中東情勢

(23日ウイーンで行われた4か国外相会談 左からトルコ外相、アメリカのケリー国務長官、サウジアラビア外相、ロシアのラブロフ外相 【10月24日 ANNニュース】)

シリア情勢を巡って主導権を握ろうとするロシア
シリア・アサド大統領が20日、急きょモスクワを訪問し、プーチン大統領と何やら重要な話をしたのでは・・・という件は、21日ブログ「シリア・アサド大統領がロシア訪問 プーチン大統領と話し合われた内容は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151021)で取り上げました。

その後、ロシアの積極的な動きが目立ちます。

23日には、ロシアはアメリカ、トルコ、サウジアラビアの関係国との4か国外相会談をウィーンで行い、停戦や移行政権の在り方などについて協議したものと思われます。

空爆でシリアにおける存在感を強めたロシアが、今後のシリア情勢についてもイニシアティブをとっていこうとする思惑が見て取れます。

****シリア情勢 4か国外相会談 隔たり埋まらず****
内戦が続くシリア情勢の事態打開に向けて、アメリカとロシア、それにトルコとサウジアラビアの4か国の外相による会談が行われましたが、アサド政権への対応を巡って立場の隔たりは埋まらず、来週にも再び協議を行うことになりました。

アメリカとロシア、それにトルコとサウジアラビアの4か国の外相は23日、激しい内戦が続くシリア情勢を巡って、オーストリアのウィーンで会談を行いました。

会談はおよそ2時間にわたりましたが、アサド政権への対応を巡って立場の隔たりは埋まらず、アサド大統領の退陣を求めるアメリカのケリー国務長官は記者会見で、「30日にも、より広範な会議の開催を目指すことで一致した」と述べて、協議を継続する方針を示しました。

一方、ロシアのラブロフ外相は記者団に「アサド大統領への対応について、われわれの立場をはっきりさせた」と述べ、アサド政権を支持する姿勢に変わりがないことを強調しました。そのうえで、事態打開のために、協議にイランやエジプトも加えることを提案したと述べました。

また、ラブロフ外相は、4か国の外相会談に先立ち、シリアの隣国で親米国家のヨルダンの外相と会談し、シリア上空でのロシアの軍事行動について両国が連携していくことで合意したと明らかにしました。

ロシアとしては、親米国の切り崩しを図ることでシリア情勢を巡って主導権を握ろうというねらいもあるものとみられます。【10月24日 NHK】
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アサド政権はロシアの軍事介入が功を奏して危機を脱した感がありますので、欧米・反政府勢力が求めていた速やかなアサド退陣は遠のいています。

逆に、短期的にはアサド大統領が移行政権に関与することは止む得ない・・・という空気が、欧州各国やトルコなどにも広がっています。

今回の協議、そして今後の協議においては、そこらのアサド大統領の処遇、「延命」条件が問題となります。

****米ロ外相、シリア情勢で会談=和平プロセスを議論―ウィーン****
・・・・ロシアのプーチン大統領は20日、モスクワでアサド大統領と会談。シリア危機打開は「全政治勢力が参加する政治プロセスによって可能だ」と述べ、アサド大統領退陣を要求する欧米をけん制した。

政治解決への貢献の用意も表明し、親ロ政権の存続を見据えながら、交渉を主導したい意欲をうかがわせた。

ロシアの関与拡大でアサド政権の勢力が回復に向かい、早期退陣のシナリオは後退してきた。反アサド政権を鮮明にしてきたトルコは、アサド大統領が政権移行過程に一定期間関わることを容認する姿勢を見せ始めている。

米ロをはじめ関係国にとっては、アサド大統領に即時退陣は求めないものの、最終的に政権を手放させる手順で一致できるかが当面の課題。その際、アサド氏の「延命」を認める条件が焦点になりそうだ。

一方、米国はロシアによる軍事介入について「内戦を悪化させる」と批判。過激派組織「イスラム国」ではなく、穏健な反体制派が主な攻撃対象になっていることを問題視している。

米国はロシアとの間で、共通の敵は「イスラム国」という認識も共有したい考えだ。【10月23日 時事】 
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当然ながらすぐに話がまとまるのでもありませんが、シリアに軍事展開し、アサド大統領自身への影響力を有するロシアがリードする形で今後の継続協議を進める形も予想されます。

また、これまでISだけでなく反政府派を攻撃対象としていると批判されていたロシアですが、“『自由シリア軍(FSA)』と呼ばれる組織を含む、愛国的な反体制派”も空爆支援する用意があるとのことです。

****ロシア、シリアの反体制派に航空支援申し出****
シリアで空爆を続けるロシアは24日、欧米諸国が支援し、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」やバッシャール・アサドシリア大統領の政府軍と戦闘を続ける穏健派の反体制派組織に航空支援をする用意があると述べた。

ロシアを電撃訪問したアサド大統領とウラジーミル・プーチン露大統領の会談後、セルゲイ・ラブロフ露外相は、内戦で疲弊したシリアにおいて、大統領及び議会選挙実施に向けた動きを呼びかけた。

ロシアの提案に対し、シリアの反体制派は不信感を露わにし、ロシアがまず反体制派への空爆を止めるべきで、選挙の可能性を語るのは早過ぎるとし、現在の状況下から支援を拒否した。

ラブロフ外相は、ロシア1テレビのインタビューで、「われわれは、『自由シリア軍(FSA)』と呼ばれる組織を含む、愛国的な反体制派も支援する用意がある」と話した。

専門家らは、ロシアからのISとの戦闘におけるシリア反体制派への航空支援の申し出が、ロシア政府の政策転換を意味する可能性があると語る。【10月25日 AFP】
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欧米の支援を受ける自由シリア軍(FSA)は軍事的には存在感を弱めており、その実態も統一性に欠けるとも言われています。
また、ロシアなどは、穏健派などというものが存在するのか?イスラム過激派との境があるのか?と怪しんでいます。

そうしたロシアの自由シリア軍(FSA)への疑念・皮肉が“『自由シリア軍(FSA)』と呼ばれる組織”というもってまわった表現に込められているようにも見えます。

ロシアとしては間口を広げることをアピールして、アサド政権側だけでなく、シリア全体に関与していく姿勢を国際社会に印象付けたいところでしょう。

いずれにしても、打倒目標のアサド政権を強力に支えているのがロシアですから、自由シリア軍(FSA)としても「じゃ、お願いします」とはおいそれとは言えない話で、上記のとおり“支援を拒否した”とのことです。

一方、反体制派を標的にしている、民間人犠牲が大勢でている・・・との批判があるロシア空爆ですが、ロシアがシリアで拠点にしている空軍基地をメディアに公開して、その透明性と存在感をアピールしています。

****ロシア軍 シリア国内の基地を初公開****
内戦が続くシリアで過激派組織IS=イスラミックステートを対象に空爆を行っているとするロシア軍は、シリア国内の空軍基地を、NHKなど外国のメディアに初めて公開し、ロシアがISへの対応で重要な役割を果たしていることをアピールしました。

ロシアは、シリアのアサド政権の要請を受けて、先月30日から、シリア国内で空爆を続けていますが、欧米などは、過激派組織ISだけでなく欧米側が支援する反政府勢力に対しても、ロシアが空爆して、アサド政権へのてこ入れを図っていると批判しています。

こうしたなか、ロシア軍は、空爆の拠点としているシリア北西部ラタキア郊外の空軍基地を、このほどNHKなど外国のメディアに初めて公開しました。(中略)

今回の基地公開には、アメリカのIS対策が行き詰まりを見せるなかで、ロシアが重要な役割を果たしていることを内外に強く印象づけるねらいがあるとみられます。【10月25日 NHK】
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ロシア提案「アサドが立候補しないことに関するプーチン大統領の保証」】
このように随分と活発に動いているロシアですが、25日にはロシア提案の「和平案」も報じられています。
“議会選挙と大統領選を実施して移行政権を樹立する内容で、合意成立から1年半以内の実現を目指す”という内容とか。

****シリア内戦:露が和平案、1年半で移行政権****
アラブ紙アッシャルク・アルアウサトは25日、シリア内戦終結に向けたロシア政府の和平案の概要を報じた。

議会選挙と大統領選を実施して移行政権を樹立する内容で、合意成立から1年半以内の実現を目指す。アサド大統領は25日、将来的な大統領選への出馬に意欲を表明した。

アサド氏はロシア和平案に沿って政権延命を図る構えとみられるが、米欧や反体制派は移行政権からのアサド氏排除を求めており、反発は必至だ。

シリアへの軍事介入をてこに存在感を増したロシアは、和平に向けた動きでも主導権を握りそうだ。

シリアの首都ダマスカスで25日にアサド氏と会談したロシア国会議員らによると、アサド氏は「もしシリア国民の求めがあるのならば、大統領選への参加は否定しない」と発言、権力維持に意欲を表明した。ロシア通信が報じた。

アサド氏は議会選と大統領選の時期について憲法改正して早期に実施することを検討する可能性も示した。

同紙によるとロシア和平案では、まずアサド政権軍と穏健な反体制派「自由シリア軍」の戦闘を停止。移行政権樹立の後、政権軍と自由シリア軍を統合し、共通の敵と戦うことを目指す。

ロシアのラブロフ外相は24日に放送された国営テレビのインタビューで、シリア情勢正常化に向けた政治プロセスの一環として大統領選と議会選の実施を呼び掛けた。【10月25日 毎日】
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上記記事では、和平案の内容がいまひとつわかりません。
特に、アサド大統領が大統領選挙に出馬して権力を維持することもあるというのでは、まとまりそうもない話です。

23日のウイーンでの4か国外相会談では、まず米ロ2か国の会談が行われていますが、【10月26日 野口雅昭氏 中東の窓】によれば、このときロシア・ラブロフ外相がアメリカ・ケリー国務長官に対して、シリア問題の政治的解決に関する詳しい提案を含んだペーパーを手渡したとal qods alarabi (ロンドン発行のアラビア語日刊紙)が報じているそうです。

その提案骨子は以下のとおりだそうです。

****ロシア提案の骨子*****
1、ロシア、米国と有志の空爆の対象を再検討し、総ての政治解決に反対する勢力を対象のリストに加える

2、政府軍と反政府軍の総ての戦線における停戦

3、自由シリア軍及び国内反政府派を含む対話会議の準備。その結果、総ての逮捕者の釈放、議会及び大統領選挙の準備、恩赦、憲法改正のための国民一致内閣の設立,大統領権限の首相への移管に合意すること

4、アサドが立候補しないことに関するプーチン大統領の保証、然し、アサド家又は政権の他の者の立候補は可能なこと

5、政府軍及び自由シリア軍、さらにその下にある部隊や治安部隊の統一

6、総ての反政府派、活動家、内外の反政府軍に対する恩赦に関するロシアの保証、これと引き換えにアサドの裁判の免除に関する保証

7、総てのアサド支持者に対する制裁の解除、総ての国、勢力の総ての勢力に対する軍事援助の停止、戦闘の停止

8、合意が安保理で法的根拠を得た後も、合意履行の保証としてのロシア軍のシリアにおける存在の維持
【10月26日 野口雅昭氏 中東の窓】
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“4、アサドが立候補しないことに関するプーチン大統領の保証”というのがポイントになりますが、【10月25日 毎日】にもあるように、アサド大統領は大統領選への参加は否定していません。

このあたりについて、アサド・プーチン両大統領の間でどのような話になっているのかは知りません。
“落としどころ”とは別に、アサド大統領としても一応主張してみた・・・という話でしょうか。
20日、アサド大統領がモスクワに急行したのも、このあたりの話ではないでしょうか。

提案骨子のあちこちに“ロシアの保証”という文言がでてくるように、現地に強力な軍を展開しており、また、アサド政権の命運を預かる立場にあるロシアの存在があって初めてシリアでの停戦・和平が成立することを感じさせるものとなっています。

ただ、このままではあまりに“ロシア色”が強いので、今後、アメリカなどは、アメリカやトルコ・サウジアラビアなど周辺国の関与を含めた内容に持っていこうとするのかも。

言い換えれば、そういう形で話が進み、米ロのバランスがとれれば、シリア停戦の現実味も増します。

まだ“提案がなされた”段階で、今後について詮索するのは早すぎますが、これを契機に和平に向けた協議が本格化するのであれば、プーチン大統領としてはシリアでなかなかうまく立ち回った(アメリカ・オバマ大統領の存在がかすむぐらいに)とも評価できます。

上記【中東の窓】の野口雅昭氏などは、“卓越した外交手腕で、戦略なきオバマの政策と比較すると月とすっぽん位の差があるような気がします”とも。

まあ、そこまで言ってはオバマ大統領が気の毒にも思えます。いたずらに存在を競うのではなく、ロシアなどの提案も受け入れて和平を現実のものとしていく、そうした度量も重要です。
ただ、「またしてもロシア・プーチンにしてやられた」との批判がアメリカ国内外で出そうですが・・・。

いずれにしても、これからの話ですが。
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