【10月19日 AFP】
【合法的就労は困難 二流市民のように扱われることへの不満 「失われた世代」の懸念】
欧州を目指す難民・移民の問題は、冬が迫るなかで今も続いています。
****<難民問題>迫る冬、また迂回 クロアチア国境が閉鎖****
中東のシリアなどから難民や移民が欧州に押し寄せている問題で、ハンガリー政府が人々の通り道だったクロアチア国境を閉鎖したのを受け、クロアチア政府は17日、「特別列車」やバスで難民らをスロベニア国境へ運び始めた。冬が迫る中、西欧諸国を目指す人々に新たな迂回(うかい)路が開かれた格好だ。(中略)
欧州を目指す人々がたどるルートは、この1カ月でめまぐるしく変わった。元々、バルカン半島を北上してきた人々は、セルビアからハンガリーに入国していた。
しかし、9月14日にハンガリーがセルビア国境を閉じると、人々は隣国クロアチアへ。たまりかねたクロアチアは人々をハンガリーへ送り出した。
そして今回、ハンガリーがクロアチア国境も封鎖すると、難民らの向かう先はスロベニア国境となり、第1波はすでにオーストリアに達した。(中略)
(クロアチア)チャコビッツ駅では、警察の厳重な警戒の中で人々がスロベニア国境行きのバスに乗り込んでいた。
地元メジムリエ県のマティア・ポサベチ知事は「クロアチアもスロベニアも経由地に過ぎない。混乱を最小限にとどめるため、距離や時間を最短にしたいということだ」と解説した。「迂回路」は、わずか1日でスロベニアへ送り出すための道なのだ。【10月18日 毎日】
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これら難民・移民は中東・アフリカ・アジアの多くの国々から押し寄せていますが、その中核がシリア難民とされています。
****シリア難民はどこに行くのか****
UNHCRよれば10月初め現在、国外に逃れたシリア難民は全体で405万人に上る。また国連人道問題調整事務所(OCHA)は、シリア国内に留まっている国内避難民(IDPs)は760万人に達していると推定している。シリアの全人口が2240万人程のため、実に国民の半数以上が国内か国外で避難生活を強いられている。
国外に出た難民が最も集中しているのはシリアに隣接するトルコ(8月下旬現在194万人)、レバノン(9月末現在108万人)、ヨルダン(10月初め現在63万人)の3カ国だ。この3か国が難民の90%を受け入れている。(後略)【10月14日 立山良司氏 SYNODOS】
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トルコ・レバノン・ヨルダンなど周辺国へ逃げた難民らの生活が成り立っていれば、敢えて危険を冒して欧州を目指す必要もありませんが、現実に欧州に向かってあふれ出しているということは、欧州側の難民らを引き寄せる要因以外に、これら周辺国における受け入れが限界状態にあり、人々を欧州へと押し出している要因が想像できます。
****プッシュ要因1:難民の経済的困難*****
中東諸国側のプッシュ要因として最も大きく作用しているのは、シリア難民が直面している厳しい現実だ。
「難民」というと難民キャンプで生活しているというイメージを持つかもしれない。だがヨルダンの場合、難民キャンプは冒頭で紹介したザアタリともう1カ所しかなく、キャンプ居住者は難民全体の15%程度に過ぎない。一方、レバノンには難民キャンプは存在しない。
つまりヨルダンではほとんどの難民が、レバノンでは難民すべてが「ホスト・コミュニティ」と呼ばれる普通の町や村に住んでいる。特にシリアに地理的に近いヨルダン北部やレバノンのベカー高原北部には多くの難民が押し寄せ、人口が2倍から3倍に急増した地域もある。
この結果、アパート代などの家賃も高騰しており、ヨルダン北部では平均で3倍、一部は6倍にまで跳ね上がったとの報告もある。家賃が払えず、工事中のビルや空き地にテントを張って住んでいる難民も多い。ただ空き地といっても無料ではない。テントを張るための土地使用料を地主に支払わなければならない。
ヨルダンの貧困ラインは月98ドルだが、シリア難民の86%は貧困ライン以下の生活をしている。この数字に表れているように、家賃の高騰を含めシリア難民の生活状態は極めて厳しい。もともと貧しい層が難民となっている上に、ヨルダンでもレバノンでもほとんど仕事に就けないからだ。
そもそも、シリア難民が流入する前から、両国では失業者が多かった。国際労働機関(ILO)によればヨルダンの場合、失業率は難民流入前の2011年ですでに14.5%あった。そこに難民が入ってきた結果、2014年には22.1%にまで上昇した。また、英国の王立国際問題研究所の調査によれば、難民を多く受け入れている地域の若者の失業率は42%にも達している。
このため多くの一般国民は「難民に仕事を奪われた」という意識を持っている。こうした国民感情、さらに後に述べる政治的な理由から、両国政府とも原則としてシリア難民に対し労働許可を出していない。
結局、シリア難民が合法的に就労することはほとんど不可能だ。一家の大黒柱である成人男性が働けないとなると、結果的に児童労働や売春、口減らしのために女の子を早期結婚させるケースなどが増えているという。成人男性の不法就労もあるようだが、法的保護がないためかなりの低賃金など過酷な労働条件を強いられている。
なお今回は調査していないが、シリア難民の最大の受け入れ国であるトルコも同様の問題を抱えている。世界銀行の報告によると、インフォーマル・セクターで働いていたトルコ人労働者のほとんどすべては、低賃金のシリア難民に取って代わられたという。ちなみにトルコ政府もシリア難民に労働許可を出していない。【同上】
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トルコのシリア難民の現状については下記のようにも。
****貧困や就学・・・・問題山積、トルコに逃れたシリア難民の子たち****
■「トルコ人に歓迎されていない」
トルコには200万人超のシリア難民がいるが、その多くが低賃金労働を強いられ、生活は苦しい。
ハリルさん(15)は、エセニュールト地区に住む同年代の子どもたちと同じように、家計を助けるため働きに出た。この地区では衣料品や靴、化粧品などの工場で働き口がある。だが、2か月続けていた靴の縫製の仕事を辞めざるを得なかった。雇い主が給料1250トルコリラ(約5万円)の支払いを拒んだのだ。「居住許可証を持っていなかったから、警察に届け出ることはできなかった」という。
カフェのカウンターでハリルさんの近くに座っていた年上の男性は「ここも祖国と同じようなもの。戦争だ。トルコ人は我々を歓迎していない」と言葉を挟んだ。
トルコで「訪問者」という扱いのまま数か月、もしくは数年が経ち、働く権利もなければ、基本的な社会サービスの利用も限られ、この男性と同じように感じているシリア人がますます増えている。
イスタンブールの目抜き通り、イスティクラル通りでも、シリア難民の窮状に対して一般のトルコ人が次第に無関心になっていることが、はっきりと見てとれる。
シリア人の少年が衣料品店の入り口で、小銭を恵んでもらうためにプラスチックの皿を置き、体を丸めて横たわっていても、買い物客たちは皆、目もくれずに通り過ぎて行く。
■「失われた世代」を生まないために
二流市民のように扱われることに、難民たちは不満を募らせている。彼らの多くはこれまで祖国の紛争が終わるのをひたすら待ちながら、トルコで暮らしてきた。だが今は、地中海経由で欧州へ渡るため、密航業者に渡す資金を貯めている。
国連児童基金(ユニセフ)トルコ支部代表のフィリップ・デュアメル氏はAFPに「シリア人の家族たちが望んでいることは、世界中の家族と同じだ。つまり安全に暮らし、子どもを養い学校に通わせることができる仕事に就く、医療を受け、未来を手にできるといったことだ」と話した。
トルコにいる難民の子どもたちへの教育の提供は、トルコ政府だけでなく、自国への難民流入を何とか食い止めたい欧州各国にとっても最優先課題となっている。
トルコで暮らす学齢期のシリア難民60万人のうち、学校に通うことができている子どもはわずか3分の1だ。難民の親たちは、子どもを就学させようとする際の障害として、入学資格として求められることの多い居住許可証の取得の困難さなどを挙げている。
欧州連合(EU)による1250万ユーロ(約17億円)の追加支援を受け、ユニセフは難民の子どものための学校建設のほか、既存の学校の設備拡充なども支援する計画だ。(中略)
ユニセフのデュアメル氏は、子どもたちが可能性を十分に発揮できないことは「悲惨なこと」だと述べ、今の国際社会は、シリアの子どもたちを失われた世代にしてしまうリスクをはらんでいると警告する。そうなれば、難民の子どもたち本人だけでなく、シリアや中東、さらにそれを越えて破滅的な影響が及ぶだろうと話した。【10月19日 AFP】
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【最大受入国トルコの欧州への不満】
欧州側の難民受け入れには現実的には限界がありますので、欧州へ押し寄せる難民の発生を抑えるために、シリア内戦の停止と併せて、トルコなど周辺国における難民の状況を改善させる必要があります。
また、よく言われているように、欧州まで行く資金を工面できた人々は難民のなかでも恵まれた方で、そうした資金も工面できない貧しい人々がトルコなど周辺国に滞留しているとも言えます。
欧州云々を脇に置いても、トルコ等において厳しい生活を強いられている難民生活の救援が必要ですし、「失われた世代」の発生という「問題の拡大再生産」にストップをかける必要があります。
シリア難民の最大受入国となっているトルコには、かねてより欧州への強い不満があります。
****トルコ大統領、難民「知らんぷり」と欧州批判=早大、名誉博士号授与****
トルコのエルドアン大統領は8日、東京都内の早稲田大で講演し、地中海などを通じて欧州に殺到する難民問題について、「(欧州は)あまり門戸を開いていない。地中海で誰が死んでも知らんぷりを決め込んでいる」と述べ、欧州の対策が不十分だと批判した。
大統領は、シリアとイラク両国からの難民をトルコが220万人受け入れ、78億ドル(約9350億円)の難民対策を実施したと説明。
その上で「世界はこの半分しか難民対策に(費用を)掛けていない」と指摘し、世界全体で取り組むべき問題だと訴えた。ロシアが開始したシリア空爆には言及しなかった。(後略)【10月8日 時事】
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トルコにおける難民対策に問題がないのか、1兆円近い資金をどのように使ったのか・・・といった話はさておき、また、トルコの欧州への不満の背景には、EU加盟がいつまでもたなざらしにされる一方で、いつも人権問題などで欧州から“上から目線”の批判を受けることへの反発もあると思われますが、そのこともさておき、最大の受入国なのに、ないがしろにされているという批判には一定の真実があります。
【メルケル首相「トルコとの協力なしに、欧州への難民流入は止められない」】
EU側もトルコとの連携に力を入れ始めています。
****EU、トルコとの「行動計画」承認 移民流入抑制で協力、見返りにビザ免除も****
欧州連合(EU)は15日、ブリュッセルで首脳会議を開き、北アフリカや中東の難民・移民の流入抑制のため、トルコとの協力強化を図る「行動計画」を承認した。トルコに対しては協力の見返りとして資金支援にとどまらず、EU域内に渡航する同国国民への査証(ビザ)免除の早期実現などを図るとしている。
EUによると、今年9月までに欧州に渡った移民らは約71万人に上り、トルコはその主要経由地。流入抑制にトルコ側の協力は不可欠で、支援などをテコに国境管理の強化などの対応をトルコに促す狙いだ。
支援額は未定だが、トルコの求めに応じ、EUが想定した10億ユーロ(約1360億円)から30億ユーロに増額することも議論された。トルコはかねて査証免除を求めており、首脳会議の総括文書は停滞しているトルコのEU加盟交渉を「再活性化」する必要性も指摘した。
ただ、EUにはトルコのエルドアン大統領の強権的な政治に懐疑的な見方が強く、トルコ側の行動も慎重に見極める考え。EUのトゥスク大統領は会議後、見返り措置について「難民流入が抑えられてのみ、意味をなす」と強調した。【10月16日 産経】
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更に、EUを事実上牽引する、また難民問題への寛容姿勢に対しEU内及び国内での批判もあるドイツ・メルケル首相がトルコを訪問し、両国は協力をアピールしています。
****難民越境、規制強化で一致 ドイツ・トルコ首脳会談****
ドイツのメルケル首相は18日、トルコを訪問し、欧州への難民流入問題をめぐり、ダウトオール首相、エルドアン大統領とそれぞれ会談した。
ドイツでは難民受け入れで混乱が広がり、メルケル首相の支持率は急落。難民の経由地トルコに越境規制強化などで協力を求めた。
トルコ側は協力姿勢を見せることで、宿願の欧州連合(EU)加盟につなげたい構えだ。
ダウトオール氏「不法移民を防ぐことは最優先課題だ。トルコはドイツと協力し、(越境規制に)最善を尽くす」
メルケル氏「我々はトルコのEU加盟プロセスの迅速化を支援する」
首脳会談後の共同記者会見で、両首脳は相手国が自国に最も望むことを発言する協調ぶりを見せた。ただし、ダウトオール氏は「シリア問題の解決なしに、難民問題を解決することは困難だ」とも強調した。
メルケル氏は15日のEU首脳会議で、「トルコとの協力なしに、欧州への難民流入は止められない」と述べていた。今年、欧州へ渡った難民は60万人以上。その多くはトルコを経由したシリア難民だ。トルコが越境規制などで協力しなければ、欧州の難民問題の解決は難しい。
EU内では、強権をふるうエルドアン氏への抵抗感は根強い。それでも、メルケル氏が率先して協力強化を探るのは、ドイツ国内で難民受け入れに伴う混乱が広がり、反発が高まっていることが背景にある。
ドイツでは9月だけで昨年1年を上回る最大28万人が入国したとされる。各地で難民を保護する施設の不足が問題化。異なる文化や宗教から難民同士でいさかいを起こし、警察が出動する事態も起きている。
厳しい現実が明らかになり、国民の歓迎ムードは不安に変わりつつある。直近の世論調査では、難民急増を「恐怖に感じる」と答えた人は51%。「そう思わない」(47%)を上回った。メルケル氏の支持率も前月比9ポイント減の54%で、過去4年間で最低になった。
■EU加盟に前進期待 トルコ
一方、エルドアン、ダウトオール両氏にとっては、今回のメルケル氏訪問は「追い風」だ。トルコは協力する見返りとして、(1)30億ユーロ(約4千億円)の資金支援(2)EU諸国にビザなしで行けるよう渡航を自由化(3)EU加盟交渉の促進を求めており、会談で協議した。
エルドアン氏が事実上の指導者の与党・公正発展党(AKP)は、6月の総選挙で2002年の政権発足以来初の過半数割れに追い込まれた。野党との連立交渉が失敗し、11月1日の再選挙となったが、直近の世論調査によれば単独過半数の回復は容易ではない。
さらに、今月10日に首都アンカラで100人以上が死亡したテロを巡って、治安対策が不十分だったことが事件を招いたとして、追悼デモではエルドアン氏が名指しで批判されている。
メルケル氏はトルコのEU加盟には反対の立場だ。だが今回、トルコ側は、EUの盟主メルケル氏から、資金支援、EU諸国への渡航自由化、EU加盟の促進を「支援する」という言質を引き出した。AKPにとっては総選挙でのアピール材料を得た形だ。
トルコ―ドイツ関係に詳しいトルコの中東工科大学のフセイン・バージ教授は、「今の状況は、トルコがドイツを必要とする以上に、ドイツがトルコを必要としていると、エルドアン氏はみていた。会談では、シリア問題はトルコなしに解決できないと印象づけ、政治的成果を得るのに成功した」と指摘した。【10月19日 朝日】
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“トルコのEU加盟交渉を「再活性化」”“EU加盟の促進を「支援する」という言質を引き出した”云々については、現在のエルドアン大統領への欧州側の評価を考えると、EU加盟が現実味を帯びることは難しいように思われます。
ただでさえ、今回難民問題で西欧と中東欧の亀裂も表面化していますし、イギリスのEU離脱問題もあります。
内部がゴタゴタしているときに、さらに“異質”なトルコを加盟させるという話は現実的ではありません。
トルコ国内もEU側が本気になっているとは思っていないでしょうから、AKPの選挙対策としてどこまで有効か?
そういう話はともかく、欧州にとって難民問題への対処にトルコの協力が必要であり、また、難民の生活状況を考えたとき、その改善が必要なことも事実ですから、両者が連携をとって対策にあたることは重要でしょう。
日本も、難民受け入れ姿勢に問題がないとは思いませんが、それはともかくトルコへの支援を表明しています。
****シリア難民問題で支援=安倍首相、トルコ大統領に表明****
安倍晋三首相は8日、トルコのエルドアン大統領と首相官邸で会談し、シリア情勢をめぐり協議した。
大統領は「難民を大勢受け入れており、財政負担が大きい」と説明。首相は約3.7億ドル(約440億円)の円借款を既に決定していることに触れ、トルコの負担軽減に協力していく考えを表明した。(後略)【10月8日 時事】
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