孤帆の遠影碧空に尽き

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イエメン内戦  イランはサウジの「誤爆」批判 サウジはイランの武器供与批判 戦況は「泥沼」化も)

2015-10-03 23:08:59 | 中東情勢

(9月29日、イエメン南部タイズでの衝突で、砲弾により負傷した少年を運ぶ市民ら(ロイター=共同)【9月29日 産経ニュース】)

サウジアラビア・ハディ暫定大統領派は南部を奪還したものの・・・
シリアやリビア同様に、中東アラビア半島先端に位置する「アラブ最貧国」イエメンでも内戦が続いています。
これまでの経緯を簡単にまとめると以下のとおりです。

2011年1月 、「アラブの春」の影響を受けて市民による反政府デモが発生してサレハ大統領は退陣し、ハディ副大統領が翌2012年2月の暫定大統領選挙で当選。

2015年2月、サウジアラビア国境に近い北部を地盤とするイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」が事実上のクーデターで首都サヌアを掌握。ハディ暫定大統領は南部アデンに逃れましたが、翌3月には「フーシ派」の勢力がそのアデンにも迫り、後ろ盾のサウジアラビアへ逃れました。

「フーシ派」をシーア派の地域大国イランが後押ししていると言われ、イラン及びシーア派の影響力拡大を嫌うスンニ派の地域大国サウジアラビアは他の湾岸諸国と共同でイエメンに軍事介入、空爆を継続しています。

なお、失脚したサレハ前大統領は「フーシ派」と共闘していおり、イランが支持するシーア派の「フーシ派」とサレハ前大統領の連合勢力と、サウジアラビアが空爆支援するハディ暫定大統領・政府軍という内戦構図となっています。

その後の戦況については、サウジアラビアなどの激しい空爆が一定に奏功し、7月17日、ハディ大統領支持派がシーア派系武装組織「フーシ派」から南部アデンを奪回したと発表されています。

また、9月22日には、ディ大統領が事実上の亡命生活を送っていたサウジアラビアから南部アデンに帰還したことが明らかにされています。

サウジアラビアに支援されたハディ大統領支持勢力は、今後首都サヌアの奪還、更には全土の奪還を目指して攻勢を強めていますが、戦闘地域が北上すれば「フーシ派」が地盤とする山岳地帯ともなり、このままサウジアラビア・ハディ大統領支持勢力が支配地域を拡大できるかは不透明です。

サウジアラビア・イランの非難合戦
イエメンの内戦は、サウジアラビアとイランの代理戦争とも言われていますが、犬猿の仲の両国間で起きたサウジラビアの聖地巡礼者大量圧死事故については、9月29日ブログ「イラン 聖地巡礼事故 国連総会でサウジアラビア政府を「無能」と指弾 懸念される両国の関係悪化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150929)でも取り上げました。

イラン側報道によれば、この事故によるイラン人死亡者は464人に増加したとのことで、事故を防ぐことができなかった、また、事故後の対応が適切でなかったとするサウジアラビアを激しく非難しています。

まあ、例えば中国で、当局の安全管理が不十分ななかで日本人観光客が事故に巻き込まれ400人以上が死亡したのに、事故の詳細、犠牲者の数すら一向に明らかにされない、果たして適切に救護されたのかもわからない、遺体も戻ってこない・・・というようなケースを想定すれば、イラン側の怒りもわからない話ではありません。

****イラン最高指導者、巡礼事故でサウジに「容赦ない」対応示唆****
イランの最高指導者ハメネイ師は1日までに、サウジアラビア西部のメッカ郊外で巡礼者ら700人以上が折り重なるなどして死亡した事故について、遺体の帰国の遅れを非難するとともに、サウジに対し「容赦なく厳しい」報復を行う用意があると述べた。

イラン国営プレステレビによれば、ハメネイ師は軍の学校で「サウジは義務を果たしていない」と述べたという。
またハメネイ師は「もし何らかの反応を見せることを決断するとすれば、われわれの反応は容赦なく厳しいものになるだろう」と発言したという。

先月24日の事故後、イランとサウジは非難合戦を繰り広げている。

サウジのジュベイル外相は28日、中東の衛星テレビ局アルアラビーヤとのインタビューで、イランが事故を政治利用していると非難。
また、イランが内戦状態にあるイエメンに武器を供給したり、シリアのアサド政権に肩入れをして中東の混乱をあおっていると述べた。

これに対しイラン外務省は29日声明を出し、サウジによるシリアやイエメンへの軍事介入を非難した。
外務省報道官は声明で「イスラム教国の数千の巡礼者が(サウジ側の)慎重さの欠如の犠牲になっていたちょうどそのころ、イエメンでは結婚式場での空爆で何百人もの市民が殺された」と主張した。

サウジ主導の有志連合軍はイエメンのイスラム教シーア派武装組織「フーシ」への空爆を行っている。フーシ側のメディアは28日のサウジ側の空爆で結婚式に出席していた131人が死亡したと報じているが、サウジは関与を否定している。

また30日にサウジ主導の有志連合軍は声明を出し、イエメンに武器を密輸しようとしていたイラン船を拿捕(だほ)したと発表した。【10月1日 CNN】
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上記のように、両国の非難合戦はイエメンの状況と連動しています。

【「サウジアラビア側の誤爆」問題 増加する民間人犠牲者
イランが非難しているは「サウジアラビア側の誤爆」問題

****イエメンの結婚式場 死者131人に サウジ連合軍が誤爆の疑い****
イエメン南西部モカで28日、サウジアラビア主導の連合軍の戦闘機が結婚式場を誤爆したとみられる問題で、現地の医療関係者は29日、女性と子どもを含む少なくとも131人が死亡したと語った。

近隣の住民らは、空爆したのはサウジアラビア主導の連合軍だったと話している。連合軍は今年3月下旬からイスラム教シーア派系反政府武装勢力フーシ派に対する空爆を行っている。

この空爆による死者は当初40人程度と伝えられていたが、匿名を条件にAFPの取材に応じた現地のある医療関係者は「一夜のうちにさらに多くの遺体が病院に運び込まれた。爆撃で受けた傷がもとで亡くなった人も多かった」と語り、爆撃による死亡者は少なくとも131人になったと述べた。

モカにある病院の医師マヤズ・ハマディ氏も、女性と子どもを含む131人の遺体が運び込まれてきたと述べた。

国連は犠牲者の人数を確認中だとしている。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のルパート・コルビル報道官スイス・ジュネーブで記者団に対し、「犠牲者数が本当にそれだけの数に上ったとすれば、イエメンで紛争が勃発して以来、単一の事例としては最悪のものである恐れがある」と語り、イエメンでは、橋やハイウエーを狙った空爆が増える中、民間人の犠牲中も増えていると懸念を示した。【9月29日 AFP】
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なお、「フーシ」側がハディ大統領派を支援するサウジアラビア主導の連合軍による「虐殺だ」と主張しているのに対し、サウジアラビア側は、事故が起きた地域ではではいかなる作戦も遂行していないと関与を否定しています。

国連人権高等弁務官事務所が“民間人の犠牲中も増えていると懸念を示した”とのことですが、ユニセフもイエメンの内戦で2300人余りの市民、なかでも500人以上の子供が死亡していると報告しています。

****イエメン 子どもの犠牲500人超える****
内戦状態に陥っている中東のイエメンで、空爆や戦闘による犠牲者が増えるなか、ユニセフ=国連児童基金は、これまでに500人以上の子どもが死亡したと発表し、強い懸念を示しました。

イエメンでは首都サヌアを掌握した反体制派とハディ政権による激しい戦闘が続くなか、政権側を支援するサウジアラビアなど周辺のアラブ諸国が反体制派に対する空爆を続けていて、国連によりますと、空爆が始まったことし3月以降、これまでに2300人余りの市民が死亡しました。

こうしたなか、ユニセフは2日、18歳未満の子どもについて、これまでに少なくとも市民の犠牲者のおよそ2割に当たる505人が死亡し、702人がけがをしたと発表しました。(中略)

米 調査行うよう求める
中東のイエメンで、ハディ政権側を支援するサウジアラビアや周辺のアラブ諸国が空爆を続けるなか、先月28日には、南西部モカ近郊の村で、結婚式のために多くの人が集まっていたテントが攻撃を受け、130人以上が死亡するなど、市民の犠牲が増え続けています。

アメリカのホワイトハウス、国家安全保障会議のプライス報道官は、2日、声明を発表し、「深く懸念しており、アメリカ政府は、民間人が死亡していることを非常に深刻に受け止めている」と述べました。

そのうえで、「民間人の犠牲に対する調査を行い、公表することを求める」として、空爆を行っているサウジアラビアなどに、調査を行うように求めました。

アメリカは、イエメンでの空爆には参加していませんが、同盟関係にあるサウジアラビアなどに対して、武器や燃料などの支援を行っています。

イエメンで市民の犠牲が増え続けるなか、アメリカとしても、これ以上、戦闘が拡大することに対して懸念を強めており、政権側と反体制派との停戦に向けて働きかけたい考えです。【10月3日 NHK】
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サウジアラビアを支援しているアメリカとしても捨て置けない事態ということですが、イエメンにおける人権侵害に関するアメリカ等も含めた国連の対応については、下記のようにも伝えられています。

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国連の人権理事会で、オランダがイエメンにおける人権侵害を調査するために、国際的委員会を設置する案は、サウディを中心とするアラブ代表団との交渉で取り下げられ、代わって調査のための国内委員会を設置するとの決議案に統一された

(イエメンでは以前からhothy側も政府側も人権侵害をしているとの批判が強かったところ、それを踏まえてオランダが国際的調査機関設立の決議案を用意したところ、これを嫌うサウディ等が国内委員会・・・と言うことは政府側には甘く、hohy側に厳しい・・・の設置に換骨奪胎したものと思われる。国際的な人権擁護は未だ未だ長い道のりがありそうです)【10月2日 野口雅昭氏 中東の窓】
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野口氏は、今回の当事国に委ねる対応を、“「臭いものにふた」式”とも評しています。

イランによる「フーシ派」への武器支援の問題
一方、サウジアラビア側がイランを批判しているのが、イランによる「フーシ派」への武器支援の問題

****<イエメン内戦>イラン漁船から武器押収 サウジ連合軍****
内戦状態のイエメンでハディ大統領派を支援するサウジアラビア主導の連合軍は9月30日、イエメンに近いインド洋上で、イランの漁船から対戦車砲など大量の武器を押収したことを明らかにした。

連合軍は、イランが大統領派と敵対するイスラム教シーア派武装組織フーシ向けに武器の密輸を図ったとみている。

連合軍の声明によると、9月26日、イエメンの隣国オマーン沖約240キロの海上で、イラン漁船を拿捕(だほ)したところ、対戦車砲54基や誘導システムなどが見つかり、連合軍はイラン人乗組員14人を拘束した。イラン当局が発行した漁の操業許可証も見つかったという。

イエメン周辺では連合軍が制海権を握り、フーシへの支援物資が海路で搬送されないよう警戒している。

連合軍は、シーア派国家イランがフーシを支援していると主張しているが、イランは軍事的な関与を否定している。【10月1日 毎日】
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サウジアラビアなど連合軍側はこれまでも、「フーシ派」にイランが武器を供与していると繰り返し非難していますが、連合軍は過去6か月間の海域と空域の封鎖にもかかわらず、イランによるフーシ派への武器供与の証拠を示していませんでした。
今回、ついにその証拠をつかんだ・・・ということのようです。

イランの武器供与が問題なら、サウジアラビアの軍事介入はどうなるのか?・・・という件については、“。「決意の嵐」作戦と銘打った空爆に始まったこの戦争は、明白な第三国への軍事介入であるが、これが「内政干渉」に当たらないのは、シーア派武装組織側の兵力撤収や交渉による解決を求める国連安保理決議第二二〇一号他があるからだ。四月には、同派への武器禁輸と即時停戦を求める新たな安保理決議も成立した。”【選択 10月号】という話のようです。

要は、現政権であるハディ暫定大統領の要請を安保理決議という形で国際的に承認したという形のようです。

もっとも、シリアでロシアが空爆を開始した件では、ロシア側は「(ロシアの空爆は)シリア側の要請を受けており、合法的」「米、オーストラリア、フランスによるシリア空爆は、アサド政権や国連安保理の承認を得ておらず国際法違反」(プーチン大統領)との主張を強調して、ロシアの軍事行動の正当性をアピールしています。

ハディ暫定大統領の要請に基づくサウジアラビアの軍事介入が是とされるなら、アサド大統領に要請されたロシアのシリア介入もプーチン大統領の主張するように正当・・・という話にもなります。もちろんサウジアラビアは国連安保理決議に基づいているという違いはありますが、実態としては似たようなもの・・・と言えるかも。

【「泥沼」化の懸念も
イエメン情勢ついては、冒頭でも簡単に触れたように、一応サウジアラビア側が空爆で攻勢をかけており、勢力圏拡大を図ってはいますが、今後については不透明で、8月10日ブログ「内戦が続くイエメン情勢  軍事介入でサウジアラビアの財政事情悪化 原油価格動向とロシアの対応」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150810)でも取り上げたように、長引く内戦の泥沼はサウジアラビアにとっても大きな負担となってきています。

仮に首都サヌアを奪還しても、内戦は更に長引くことも予想されます。

****湾岸産油国が沈むイエメンの「泥沼****
・・・・イエメンの大半は三千メートル級の山が連なる山岳地帯で、戦闘には部族の力が大きな役割を果たす。
したがって、根本的な対立解消がない限り、また、特にイランがフーシ派を支援する限り、ゲリラ戦がくすぶり続ける危険がある。

アラブ同盟軍側がどれほどの近代兵器を持ち込もうとも、米軍がイラクで失敗したように、人的・物的な被害を積み重ねる泥沼が待っているのである。

今後戦況有利となり、フーシ派が本拠地サアダ州に退却したとしても、サレハ前大統領派を迎え入れイランの支援が続くようではサウド家は夜も安心して眠れない。

国境守備隊はイエメン側から散発的に撃ち込まれる砲撃を防げず、既に数十人の戦死者を出している。(後略)【選択 10月号】
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サウジアラビアには、イエメン内戦の「泥沼」にはまる危険が待ち受けています。
サウジアラビアとしては、イランの勢力拡大を抑えるべくイエメンでの軍事行動をアメリカに支援してもらうために、アメリカが進めるイラン核問題合意を不本意ながらも了承し、結果的にイランの台頭を許すという、やや矛盾した流れにもなっています。
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