【10月12日 AFP】
【懸念される「第3次インティファーダ(民衆蜂起)」】
7月末に起きたユダヤ人入植者によるパレスチナ人親子の放火殺人事件、更にユダヤ教が新年を迎えた9月中旬、エルサレム旧市街にあるイスラム教・ユダヤ教双方の聖地「ハラム・アッシャリフ」(ユダヤ教呼称「神殿の丘」)で起きたパレスチナ人とイスラエル治安当局との衝突に端を発したパレスチナ人とイスラエル当局の緊張は、パレスチナ自治政府とイスラエル政府の和平交渉をめぐる確執も含めて、次第に悪化の様相を呈しています。
これまでの経緯については、下記ブログでも取り上げてきました。
8月4日ブログ「パレスチナ「西岸地区」での幼児焼死事件 イスラエル国内でもユダヤ教過激派への対応で波紋」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150804)
9月15日ブログ「イスラエル エルサレム「神殿の丘」をめぐって再び緊張が高まる 強硬姿勢のネタニヤフ政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150915)
10月4日ブログ「パレスチナ問題 遠のく和平協議 悪化する緊張状態」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151004)
ブログで取り上げる間隔が次第に短くなってきているのも、事態の急速な悪化を反映しています。
その後も、パレスチナ人とユダヤ人・イスラエル当局の間で、報復の応酬・暴力の連鎖が止まりません。
「第3次インティファーダ(民衆蜂起)」の恐れ・・・といった言葉が頻繁に紙面でも見られるようになっています。
「インティファーダ」とは、イスラエルの占領に反発するパレスチナ人による投石などによる抵抗運動ですが、“投石”という言葉からは想像できないほどの犠牲者を生み出します。
2000年9月にイスラエルの右派リクード党のシャロン党首(当時)が、今回も問題となった聖地「ハラム・アッシャリーフ」訪問を強行したことを契機にパレスチナ人の不満が噴出して起きた第2次インティファーダ(2005年頃まで継続)では、イスラエル人1000人以上、パレスチナ人3000人以上が死亡したとされています。
****<イスラエル>パレスチナと衝突激化・・・・第3次民衆蜂起の恐れ*****
イスラエルとパレスチナの衝突が拡大している。
7月末に起きたユダヤ教過激派によるパレスチナ人民家放火事件を契機に、暴力の応酬が激化。パレスチナ赤新月社などによると、7月末以降の死者は計10人を超えた。
今月に入ってから状況はさらに悪化し、パレスチナ人の負傷者は5日までの3日間で約500人に達した。イスラエルのネタニヤフ政権は強硬姿勢を見せており、「第3次インティファーダ(民衆蜂起)」に発展することが懸念されている。
契機となったのは、ヨルダン川西岸パレスチナ自治区ナブルス近郊で7月31日未明、ユダヤ人入植者の宗教過激派がパレスチナ人の民家に放火し、1歳半の男児と両親が死亡した事件だ。
さらにイスラエル政府はユダヤ教の新年入りを前に、9月13日、ユダヤ教の聖地でもあるエルサレム旧市街のイスラム教聖地「アルアクサ・モスク(イスラム礼拝所)」付近を封鎖。猛反発したパレスチナ人と警官隊との衝突に発展した。
パレスチナ側による攻撃も拡大。ナブルス近郊で今月1日夜、ユダヤ人入植者夫婦が射殺され、パレスチナ人5人が逮捕された。3日にも、エルサレム旧市街でパレスチナ人の男が通行中のユダヤ人男性2人を刺殺した。
イスラエル政府は4日、パレスチナ人が外部から旧市街に立ち入ることを2日間、原則禁止するなど異例の措置を決めた。
これに反発したパレスチナ人は同日、西岸トルカレムで抗議デモを行い、18歳の男性がイスラエル軍に射殺された。
5日午後にも、ベツレヘム近郊のアイーダ・パレスチナ難民キャンプでシャディ・ハリル・ムスタファ・アビダラさん(40)の次男、アブデル・ラマンさん(15)が治安当局に胸を撃たれて死亡した。アビダラさんは取材に対し「息子は道で遊んでいただけで投石すらしていない」と怒りをあらわにした。抗議運動は西岸地区や東エルサレム各地に広がっている。
パレスチナ自治政府のアッバス議長は9月30日、国連総会で演説し、イスラエルとの和平を目指す1993年のパレスチナ暫定自治合意(オスロ合意)には「拘束されない」と宣言。イスラエルが合意に反して入植地を拡大させる以上、「我々だけが拘束される必要はない」と訴えた。
自治政府はその後もイスラエルとの治安対策の協力を継続しており、演説は内部のガス抜きが狙いとも言われる。だが、こうした発言に刺激を受けて反イスラエル運動が拡大する可能性もある。
今後は、ネタニヤフ政権の対応が注目される。
パレスチナ側は7月の放火事件への報復として、特にユダヤ人入植者への攻撃を強めている。今年3月の総選挙を経て、現在のネタニヤフ政権では入植地建設を支持する勢力が勢いを増している。
今月5日夜、首相公邸前でユダヤ人入植者が開いた数千人規模の集会には、右派の閣僚も参加し「政府の弱腰対応が治安悪化の原因だ」と批判した。
首相は対応強化を改めて強調しているが、やり方次第ではパレスチナ側のさらなる攻撃を招く恐れもある。
イスラエル・ハーレツ紙は5日付論評で、今後の犠牲者次第では、第3次インティファーダへと向かう「報復の悪循環に一気に転落する」と指摘している。【10月6日 毎日】
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ここ数日も事件が相次いでいます。
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7日午後、イスラエル南部でパレスチナ人の男がバス車内でイスラエル兵を刺し、銃を奪って逃走。男はその後、射殺された。
8日午後には、エルサレムでパレスチナ人の男がユダヤ教の宗教学校に通う生徒を刺し、重傷を負わせた。
9日もイスラエル南部で、ユダヤ人の男がパレスチナ人の男性4人を次々に刺す事件が起きたほか、パレスチナ人によるユダヤ人襲撃事件も各地で相次いだ。【10月9日 毎日】
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エルサレム市では市長が市民に、パレスチナ側の暴力に備えて常時銃を持ち歩くよう指示する事態ともなっています。
****インティファーダを警戒、イスラエル市民に「銃携帯命令」****
イスラエルとパレスチナ間の緊張が高まり15年ぶりの「インティファーダ(パレスチナ人の民衆蜂起)」も懸念されるなか、エルサレムのニール・バルカット市長はイスラエル人住民に、常時銃を持ち歩くよう指示した。
「日増しに暴力が激しくなっていることを考えれば、銃器の所持する住民はそれを持ち歩くのは市民の義務だ」と、今週バルカットはイスラエル軍のラジオ放送で語った。
「予備役の一種と考えて欲しい。イスラエルの強さの1つは、市民のなかに実戦経験をもつ元軍人が多いことだ。全員が銃を持てば、緊急自治に警官隊に協力できるので、町はより安全になる」(中略)
イスラエルでは、事実上アラブ人住民には銃の所有は許されてない。許可されるのは、27歳以上のイスラエルの永住者か住民で、基礎的なヘブライ語の知識があり、経歴チェックをパスした人に限られている。地元紙によると、2012年の時点で、イスラエル全体で17万人が銃の個人使用を許可され、成人30人に1つの銃がある計算になる。(後略)【10月9日 Newsweek】
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一方、ガザ地区を実効支配するハマスはパレスチナ全土での「波状攻撃」を呼びかけており、個人による事件から組織的抵抗に発展することも懸念されています。
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事件の大半は、組織に属さない単独犯によるものだ。
ただ、1日にはパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの犯行とされる事件も起きている。
ハマスなどはソーシャルメディアで9日を「怒りの金曜日」と呼び、イスラエルと占領下のパレスチナ全土で「波状攻撃」を仕掛けるよう呼びかけている。今後、こうした武装組織の関与次第では、混乱が拡大する可能性もある。【10月9日 毎日】
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【混乱はガザ地区へ拡大】
ハマスの呼びかけがどの程度関与しているのかは知りませんが、混乱はガザ地区に拡大しています。
****イスラエル軍発砲で6人死亡、ガザへ衝突拡大****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが蜂起を呼び掛ける中、境界線付近でのイスラエル軍との衝突で9日にパレスチナ人6人が死亡したことから、1週間に及んでいる両者間の戦闘がガザ地区内まで広がっている。
イスラエル軍は「9日に境界のフェンスにパレスチナ人が押し寄せた。緩衝地帯に1000人の暴徒が入り込み、手りゅう弾や医師を投げ、タイヤを燃やした。数発の威嚇射撃を行った後、彼らの前進を阻止し、暴動を散らすため扇動者たちに向けて発砲した」と発表した。
この中で15歳の若者を含むパレスチナ 人6人が死亡、80人が負傷し、14年夏以降では最多の死者を出す衝突となった。
ここ数日、ガザ地区と隣接する東エルサレムとパレスチナ自治区ヨルダン川西岸ではイスラエルの治安部隊とパレスチナ人の衝突などが起きていたが、ガザ地区の大半はこれまで平穏だった。
しかし10日朝、ガザ市東部と、イスラエル境界沿いのハンユニスでも衝突が発生。その数時間後にはガザ地区から発射されたロケット弾がイスラエル南部に着弾した。このロケット弾による負傷者はなかった。【10月10日 AFP】
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ガザ地区からロケット弾攻撃に対し、イスラエルは空爆で応酬していますが、当然ながら犠牲者の増大は事態を更に悪化させそうです。
*****イスラエル軍がガザ空爆 母子2人死亡****
イスラエル軍はパレスチナ暫定自治区のガザ地区からロケット弾の攻撃を受けたとして報復の空爆を行い、パレスチナ人の幼い子どもと母親の2人が死亡するなど、先月から続く双方の衝突が悪化しています。
パレスチナではエルサレムの聖地を巡る対立をきっかけに、先月からパレスチナ人とイスラエル治安部隊の間で衝突が続いており、今月に入ってパレスチナ人20人が死亡、およそ1000人が実弾やゴム弾で撃たれてけがをしています。
こうしたなか、イスラエル軍はパレスチナ暫定自治区のガザ地区からロケット弾による攻撃を受けたとして、ガザ地区北部にあるイスラム原理主義組織ハマスの武器製造拠点とされる2か所を空爆しました。
地元の当局によりますと、この空爆に巻き込まれて、近くに住むパレスチナ人の幼い子どもと母親の30歳の妊婦が死亡したということです。
一方、11日にはヨルダン川西岸にあるイスラエルの検問所でパレスチナ人の31歳の女が爆発物を爆破させ、女とイスラエルの係官の双方がけがをしました。
イスラエルのネタニヤフ首相とパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長は関係者を説得するなどして緊張緩和を図っていますが、先月から続く双方の衝突は日々悪化しています。【10月11日 NHK】
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【イスラエル社会の「弱腰」批判】
イスラエル・ネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長双方が暴力激化の防止に努めているようですが、怒りを募らせ暴徒化する若者たちを止められずにいます。
国際的にはその強硬姿勢への批判も多い保守派ネタニヤフ首相ですが、イスラエル国内には「弱腰」を批判する勢力があります。
****<ヨルダン川西岸>入植地めぐり衝突拡大・・・・恐怖と憎悪の連鎖****
今月1日夜、イスラエルが占領するヨルダン川西岸パレスチナ自治区のナブルス近郊で、車を運転中のユダヤ人夫妻が何者かに射殺された。生後4カ月〜9歳の子供4人が後部座席に乗っていたが無事だった。夫妻はユダヤ人入植地ネリアの住民だった。(中略)
最近、ユダヤ人とパレスチナ人の衝突が拡大している要因の一つに、入植地をめぐる問題がある。今年3月の総選挙で発足したネタニヤフ政権には入植地拡大を支持する閣僚も多く、パレスチナ側は危機感を強めている。
セルマンさんは入植地を見下ろす高台に立ち、こう言った。「ここは(パレスチナ自治区の中心都市)ラマラ(のあるヨルダン川西岸)から(聖地)エルサレムを守るバリアー(防護壁)のような存在。我々がここを死守する意味はそこにもある」
ユダヤ人入植者の統括組織で政治ロビー活動を行う「入植者評議会」は1日から、エルサレムのネタニヤフ首相公邸前にテントを張り、政府の治安対策を「弱腰」などと批判している。
「政府は、ヨルダン川西岸地区に住む入植者が、どこでも恐怖を感じずに安全に歩けるようにすべきだ」。評議会のアビ・ロエ副代表は8日、会見を開いて持論を展開。首相に面会した際、「西岸地区をイスラエルに併合し、入植地も拡大すべきだ」と要求したが、首相は「米国など国際的な圧力もあり、難しい」と答えたという。
ロエ副代表は「(イスラエルにパレスチナとの和平を求める)国際社会は、イスラム教徒のコミュニティーからの圧力などでそう言っているだけで、現実を知らない」と批判。そのうえで「我々は、国際社会の反応など気にせず、イスラエルにとって正しいことをすべきなのだ」と訴えた。【10月11日 毎日】
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【パレスチナ社会を覆う絶望】
一方で、失業率は42%、復興も進まず「2020年までに居住不可能になる」(国連)とも報告されているガザ地区には出口のない絶望が深まっており、容易に怒りへと暴発する土壌があります。
****自殺増えるガザの絶望、パレスチナ自治区****
ムアマル・キデルさんは結婚間近だったが、パレスチナ自治区ガザ地区での生活がもたらす特殊なプレッシャーの中で、限界点に達した。
21歳のパレスチナ人の彼は最近、ねずみ用の毒を飲んで自殺を図った。未遂に終わり、治療を受けたキデルさんは「すべてのドアは閉じていた」と語った。果物を売る屋台を営むキデルさんは、警察の取り締まりを何度も受けて閉店に追い込まれ、収入を奪われたと説明した。
イスラム原理主義組織ハマスが実効支配し、2008年以来イスラエルとの3度の紛争で壊滅的状況にあるガザ地区では、自殺や自殺未遂が増えている。
伝統的、宗教的価値観に支配されたガザで自殺はタブー視されているため、公式な統計を得るのは不可能だ。警察は、自殺はまん延していないと主張する。
しかし、匿名を条件にAFPに語った治安当局筋によれば、その数は「恐ろしいほど」上昇しており、「ほぼ毎日」のように起きているという。(中略)
この危機的状況の下、最近の世論調査では住民の52%がガザからの脱出を希望しているが、境界が封鎖されているために行く手を阻まれている。なかには地中海を渡って欧州を目指す危険な旅に賭ける人々もいる。
エコノミストのオマル・シャバン氏は、自殺が増えている主要因は「絶望感」だという。「人々を傷つけ、抑圧する」社会では「自殺、暴力、過激化が生じる。これらの急増が懸念されている」
「ここでは老いも若きも、誰もが貧困の中で暮らしている」とアブ・アシさんはいう。「生きているよりも死ぬ方がましだという地点にたどり着くときには、本当に何も残されていないということだ」【10月12日 AFP】
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【悲劇からの出口は政治的和平交渉のみ】
今日も暴力のニュースが伝えられています。
****衝突が暴力の応酬に、パレスチナ少年が撃たれて死亡****
・・・11日にはヨルダン川西岸ラマラ近郊で起きた衝突の最中、パレスチナ人の13歳少年(13)がイスラエル軍兵士に撃たれて死亡した。パレスチナ保健省が明らかにした。
この日はヨルダン川西岸各地で衝突があり、医療関係者によるとパレスチナ人数十人が撃たれて負傷した。
さらにパレスチナ少年が銃撃されてから数時間後、イスラエル北部のGan Shmuelキブツ(農業共同体)近くで、アラブ系イスラエル人の男が車で人混みに突っ込み、イスラエル軍兵士2人をはねた。
イスラエル軍によると、このうち19歳の女性兵士は重傷。20歳の男性兵士は軽傷だという。男は車を降りると、さらに14歳少女と45歳男性を刺した。【10月12日 AFP】
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****エルサレム旧市街で警官刺される、アラブ系容疑者射殺****
中東エルサレムで12日、旧市街の入り口にある獅子門でイスラエルの警察官が、アラブ系の男に刃物で刺される事件があった。警察官は防弾チョッキを着ていたためナイフは貫通せず無事だった。男はその場で他の警察官に射殺された。(後略)【10月12日 AFP】【10月12日 AFP】
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パレスチナ人にしろユダヤ人にしろ、互いに自らの生存をかけて争っており、「和平」といった言葉は空虚な絵空事にしか感じないでしょうが、たとえそうであっても繰り返す惨劇の出口は政治的和平交渉にしかありません。