孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリアでの空爆開始で、キープレーヤーの座を狙うロシア・プーチン大統領

2015-10-07 23:22:51 | ロシア

(ロシア国営テレビの朝の天気予報で「シリアは10月、晴天続き。絶好の空爆日和でしょう」と伝える女性キャスター【10月7日 時事】)

主要な国際問題はロシア抜きで解決できないことを誇示する狙い
シリア情勢に関してロシア・プーチン大統領は、アメリカ主導の有志連合にロシア、アサド政権、イランなどを加えた「大連合」構想を提案し、シリア・アサド政権への軍事支援を強めていました。

一方、アメリカは昨年9月からシリア内でISへの空爆を実施するとともに、ISと戦う反体制派を支援。年間5400人をシリア国外で訓練する計画を立てましたが、実際に戦っているのは現在わずか4~5人とされ、シリア政策は行き詰まっています。

ニューヨークの国連本部で9月28日に行われた米ロ首脳会談では、オバマ大統領が「アサド(大統領)が政権を維持する限りシリアの安定はない」と述べてアサド氏の退陣を求めたのに対し、プーチン大統領は、「ISとの戦いで、シリアの政権や軍と協力しないのは大きな間違いだ」と主張、「根本的な見解の相違」が浮き彫りになりました。

国連総会の一般討論演説でも、“オバマ氏は「無実の子どもたちに爆弾を落とす暴君」と、強い言葉でシリアのアサド大統領を非難。一方で、プーチン氏は「シリアでISなどのテロ組織と実際に戦っているのはアサド大統領の軍だということを認めるべきだ」と強調し、軍事支援を続ける考えを表明。イラクやリビアの例を挙げて、政権を転覆させることの危険性と違法性を強調した”【9月30日 朝日】と、米ロとも互いの協力が必要なことは認めているものの、協調の糸口が見つからない状況でした。

この時点では、プーチン大統領はシリア空爆について初めて「検討中」であると明らかにしましたが、その2日後の30日には早くもシリア空爆に踏み切っています。

このあたりの即断即決はいかにもプーチン流です。意思決定が実質的にプーチン大統領の判断に委ねられている政治状況、プーチン政権が国民の圧倒的な支持を得ていることなどが背景にあって可能となることです。

****プーチン政権の空爆は「外交孤立」脱却がねらいか 体面最優先の行動は「泥沼」のリスクも****
ロシアのプーチン政権がシリアでの空爆作戦に踏み切ったのは、自らが後ろ盾となっているアサド政権の崩壊を阻止し、中東地域での橋頭堡(きょうとうほ)を守り抜くためだ。

主要な国際問題はロシア抜きで解決できないと誇示し、ウクライナ危機以降の外交的孤立を脱却する思惑もある。ただ、国際政治上の体面を最優先するプーチン政権の軍事行動にはリスクもつきまとう。

ロシアは旧ソ連時代からシリアを軍事支援しており、同国西部タルトゥースには旧ソ連圏外で唯一の海軍基地を擁する。プーチン政権は、やはり友好国だったリビアのカダフィ政権が2011年、欧米の軍事介入で崩壊した事態の再来を防ごうと躍起だ。

プーチン政権は、「イスラム国」への米国主導の空爆にアサド政権などを加えた「大連合」を形成し、同政権存続の保証を得ることを狙った。その提案が事実上拒否され、すかさず自ら実力行使に出た形だ。

ロシアがシリアに軍事介入すれば、同国の反体制派やそれを支援する米国など有志連合との衝突に発展しかねない。米オバマ政権が調整に歩み寄ることを見越し、米国との対話の窓口を開くことにも成功した。

国際的孤立から脱却するとともに、ロシアが「勢力圏」と考えるシリアやウクライナに関する問題での発言権を米国に認めさせたい意向だ。

ロシアは、軍事介入はイスラム国への空爆に限定されると主張。だが、アサド政権軍の戦闘地域はスンニ派の反体制勢力なども入り交じる複雑な構図だ。

シーア派を基盤とするアサド政権側に立った軍事行動は、スンニ派諸国との決定的対立につながりかねない。ロシアが地上戦の「泥沼」に足を踏み入れることへの懸念も識者からは出ている。【10月1日 産経】
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ロシアとしては軍事的に劣勢になっているアサド政権を空爆で支え、その間にアサド政権を存続させる形での関係国・勢力の合意をとりつけ、それによってロシアのシリアにおける影響力を維持しようという狙いと思われます。

****シリア空爆の深遠なる打算****
アサド政権を支援する大国がついに軍事作戦を開始 過激派掃討を口実にキープレーヤーの座を狙う

・・・・ロシアに言わせれば、アサドはISISに立ち向かい、シリアを完全崩壊から救うことができる唯一の人物。それに対して欧米や多くの中東諸国は、アサドをシリア問題の解決に不可欠の要素ではなく、問題を生んだ原因そのものと見なしている。

根本的に食い違う2つの見方が災いし、和平交渉は遅々として進まない。

こうした現状を変えるべく、ロシア政府は今や二重路線で事に当たる構えだ。

ロシアは今年の春以降、外交努力を強化し、欧米やペルシヤ湾岸諸国をはじめとする中東の国々に、和平協定をめぐる自国の主張の受け入れを追っている。

その一方で、交渉を自らに望ましい方向へ進展させるまでの時間稼ぎとして、軍事的支援を通じてアサド政権の延命を図っている。・・・・【10月13日号 Newsweek日本版】
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仮に、アサド政権が追い込まれたとしても、ロシアとしては参戦して軍事力を置いていれば、重要プレーヤーとして〝アサド後”に関する発言権を確保でき、損はないとも言えます。

【“効果的”なロシア空爆 アサド政権にとっては頼みの綱
アサド政権は、敵対する勢力を「テロリスト」とひとくくりにしており、欧米は自らが支援する穏健派の反体制派までロシア空爆で攻撃される事態を懸念しており、実際、ロシア空爆はISに限らず、アルカイダ系ヌスラ戦線などに及んでいます。

ただ、欧米が支援する「自由シリア軍」については対象としていないとしています。

****露「有志連合と標的同じ」・・・・空爆の正当性強調****
ロシアのラブロフ外相は1日、国連本部での記者会見で、露軍のシリア空爆について「(米主導の)有志連合の空爆の標的と基本的に同じだ。見解は一致している」と述べ、イスラム過激派組織「イスラム国」に加え、アル・カーイダ系の過激派組織「ヌスラ戦線」などを標的にしていることを明らかにした。

米国が非公式に支援する反体制派「自由シリア軍」については「テロ組織とは考えていない」と強調。空爆の標的にはしておらず、シリア安定化のための政治プロセスに参加すべき勢力だとの見方を示した。【10月2日 読売】
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「ヌスラ戦線」に関してはアメリカも空爆しており、その限りにおいては米ロの差はないとも言えます。

その後もロシアは空爆を強化しています。

****ロシア軍 シリアで空爆強化の方針****
中東のシリアで空爆を続けるロシア軍の参謀本部は、これまでに過激派組織IS=イスラミックステートの拠点50か所以上を破壊したとして成果を強調するとともに、さらに空爆を強化する方針を示しました。

内戦が続くシリアで、アサド政権への軍事支援を拡大するため過激派組織ISの拠点を標的にするとして、先月30日から空爆に乗り出したロシア軍の参謀本部は、3日、モスクワで記者会見を行いました。

このなかで参謀本部の作戦担当者は、「シリア北西部のラタキア近くの空軍基地から24時間態勢で各地に出撃し、これまでにISの拠点50か所以上を破壊した」と述べ、成果を強調しました。さらに、「ISの内部では、混乱や脱走が始まり、陣地に残されたISのメンバーおよそ600人が、出身地のヨーロッパへ脱出しようとしている」として空爆がISの弱体化につながっていると主張しました。

そのうえで、「ロシア軍は空爆を続けるだけでなく、回数を増やす」と述べ、さらに空爆を強化する方針を示しました。ロシアは、軍事衛星に加えて、アサド政権と関係の深いイラン、それに隣国のイラクから得た情報を基にISの拠点を絞り込んで空爆していると説明しています。

しかし、アメリカは、ロシアがISだけでなく、アサド政権に対抗している反政府勢力も空爆の対象にしているとして批判を強めています。【10月4日 NHK】
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シリア反政府勢力からは、ロシア空爆で民間人犠牲者が多く出ているとの批判もあります。ロシア側はこれを否定しています。
空爆には民間人被害がつきまといますが、民間人犠牲者を気にするアメリカに比べるとロシアは“容赦ない”爆撃を行っていそうです。

仮に民間人犠牲者が出ているにしても、アフガニスタンで「国境なき医師団」の病院を誤爆して多大な犠牲者を出したばかりのアメリカとしては、この点でロシアを強く批判するにはためらわれるタイミングです。

そうしたロシアの“容赦ない空爆”とアサド政権の地上軍が連携すれば、劣勢になったアサド政権にとってはカンフル剤となることが期待できます。アサド政権にとっては、ロシア空爆が最後の頼みの綱となっています。

****失敗なら「中東崩壊」=ロシア軍事協力でシリア大統領****
シリアのアサド大統領は4日放送されたイラン国営テレビのインタビューで、ロシアなどとの軍事協力が失敗に終われば「(中東)地域全体が破壊される」と述べ、強い危機感を示した。

大統領は欧米諸国によるシリア反体制派支援を非難。アサド政権を支える「イラン、ロシア、シリア、イラクによる連合が成功を果たさなければならない」と強調した。また、「中国はロシアによるテロとの戦いを後押ししている」と語った。

シリアで内戦が4年以上続く中、アサド政権は国土の多くで支配権を失った。自力での国家再建が困難な中、ロシアが9月30日にシリア領内で開始した空爆作戦に、政権延命の望みを託しているようだ。【10月4日 時事】
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衝突防止で米ロ調整も
ロシアの空爆開始で懸念されているのが、この地域で同じく活動している米軍などとの偶発的衝突の危険です。
実際に、ロシア軍機がトルコ龍空を侵犯し、トルコ側が迎撃する事態にもなっています。

ロシア側は「悪天候のせい」としていますが、領空侵入は2回あったとのことで、ロシアが意図的に侵入しているとも批判されています。

****トルコ領空侵犯「事故でない」=ロシア、シリアで地上部隊も増強―NATO総長****
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は6日、ブリュッセルで記者会見し、ロシアの戦闘機によるトルコの領空侵犯は「事故ではなさそうだ。(侵犯は)2度あった」と述べ、意図的だったとの見方を示唆した。

事務総長はまた、ロシアがシリアで空軍のほか、地上部隊も「大規模に増強している」と指摘し、「重大な懸念」を表明した。一方、米国とロシアがシリア情勢に絡み接触を図っていることは、歓迎する意向を示した。(後略)【10月6日 時事】
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ロシアの意図が何であったかは定かではありませんが、偶発的衝突を防ぐための米ロの調整が今後行われるようです。ある意味では、ロシアが確実にシリアにおけるプレーヤーとしての立場を固めつつあるとも言えます。

****ロシア国防省、シリア空爆で有志連合との調整を示唆****
ロシア国防省のイーゴリ・コナシェンコフ報道官は7日、同国によるシリア空爆について、米国主導の有志連合との調整を求める米国の提案の受け入れを示唆した。(中略)

米露両国は先週、ロシアの提案により、事故防止のため軍用機をシリア上空の同一空域で同時に飛行させないことについて協議した。

6日にはロシアの戦闘機がシリア領内のISの基地12か所を空爆するなど、ロシア政府は1週間前に開始したシリアへの空爆作戦を拡大させている。だが一方で、ロシア機がトルコの領空を侵犯したことを受けて、トルコとの緊張が高まっている。【10月7日 AFP】
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義勇兵の地上戦参加言及も
ロシア側からは、空爆強化に加え、ウクライナでも“活躍”した義勇兵による地上戦参加も言及されています。
ロシア政府は公式にはこれを否定していますが。

****ロシア、シリアに義勇兵か 地上戦、関係者が可能性示唆 内戦泥沼化の恐れも****
過激派組織「イスラム国」(IS)や反体制組織との地上戦に、ロシア軍が加わるのではないかという観測が広がっている。プーチン大統領は地上戦参加を否定しているが、政府関係者からは、正規兵ではない「義勇兵」が自発的に戦闘に参加する可能性を認める発言が相次いでいる。

こうした「義勇兵」がシリアの地上戦に参加すれば、ロシア兵が事実上、シリア政権軍の一部となってシリアの反政府勢力と戦う構図になる。内戦の激化と泥沼化は避けられない。

ロシア下院の国防委員長でロシア黒海艦隊元司令官のコモエドフ氏は5日、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力に加わっていたロシアの「義勇兵」がシリアの政権軍に加わる可能性があるとの考えを示した。(中略)

ロシア政府が否定するなかでロシアからの兵がシリアでの地上戦に参加することになれば、内戦の政治的な解決はいっそう困難になる。シリアでは米ロ双方の空軍が空爆を続けており、米ロの偶発的衝突の危険も高まる。

コモエドフ氏は6日、戦闘に加わるためにシリアに入国しようとするロシア人を阻止していると一転して説明。「シリアでロシアが地上戦を行うことは検討されていない」と強調した。前日の発言が波紋を広げたため、軌道修正を図ったとみられる。

しかし、国際社会の懸念は払拭(ふっしょく)できそうにない。ウクライナでの前例があるうえ、ロシアの空爆はIS攻撃よりもアサド政権の延命が目的とみられるためだ。

ロシアの国内世論は、アサド政権のために戦うことには批判的だ。「ロシア系住民を守るため」という理解しやすい説明がついたウクライナへの軍事介入とは事情が違い、政府も慎重に判断せざるを得ないとみられる。【10月7日 朝日】
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ロシアにとっても危険な賭け
これまでのところは、大筋においてロシアのペースで事が運んでいるように見えます。
アサド政権に対する見方も、イギリス・キャメロン首相が、移行期であれば政権が継続することを容認する考えを示唆したように、以前と比べると容認する流れが強まっています。

****シリア反体制派に焦り 露のシリア介入は「政治解決を不可能にする****
シリア反体制派を構成する約40の武装勢力などは5日、インターネット上に共同声明を出し、シリア領内でのロシアの軍事行動は、国際社会が求めるシリア内戦の「政治解決を不可能にするものだ」と強く非難した。

もともと反体制派の多くはアサド政権の完全排除を主張し、当事者間の合意に基づく内戦終結を模索する「政治解決」路線には懐疑的だ。

にもかかわらず反体制派側が政治解決の可能性に言及したのは、ロシア側を牽制(けんせい)する方便であり、政権の後ろ盾であるロシアの“参戦”によって戦況が不利になっていることへの焦りの裏返しともいえる。

一方で声明は、アサド政権とそれを支えるロシア、イラン両国に対抗する連合勢力の結成を主張。周辺国からのさらなる支援を取りつける狙いのほか、「イスラム国」掃討を優先する米欧がアサド政権の存続容認に傾かないようくぎを刺す意図もあるとみられる。

ロシアはアサド政権と同様、反体制派を「テロリスト」と認識しているとみられ、反体制派には、ロシアがシリアでの存在感を増せば政権側に内戦の主導権を握られるとの危機感がある。

ただ、反体制派の支援国であるサウジアラビアなど湾岸アラブ諸国は、ロシアのシリア介入についておおっぴらな批判は避けており、反体制派の立場は今後、ますます苦しいものとなる可能性がある。【10月6日 産経】
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ただ、ロシアとしてもシリアへの軍事介入は危険な賭けでもあります。
経済制裁やウクライナ東部への介入で経済的には相当疲弊しているロシアにとって、長期的にシリア介入を続けることは大きな負担となります。

国民世論もシリア介入については消極的です。
“ロシアの世論調査機関「レバダ・センター」が9月18〜21日にかけてロシア国内で実施した世論調査結果によると、「シリアへの軍派遣」について「断然賛成」「どちらかといえば賛成」と答えた人は計14%。「どちらかといえば反対」「絶対反対」の計69%を大きく下回っている。”【10月6日 毎日】

1979年のアフガニスタン侵攻がソ連の弱体化を招き、91年の連邦崩壊の大きな要因ともなった“トラウマ”もあります。

また、シリアのイスラム過激派がロシア兵を待ち構えている状況もあります。

****ロシア兵を待ち構えるシリアのアルカイダ****
シリアを拠点に活動するアルカイダの下部組織ヌスラ戦線は、ロシア兵一人につき300万シリア・ポンド(1万5900ドル)の懸賞金をかけた。ロシアがシリアのISIS(自称イスラム国、別名ISIL)に対して初の空爆を行った翌日のことだ。(中略)

ロシア介入に色めき立つ過激派
・・・ロシアがシリア内戦に介入してきたことで、ヌスラ戦線は恐れるどころか色めき立っている。懸賞金をエサに旧ソ連諸国から聖戦士を募ろうとしている可能性が強いと、イスラエルのリスク管理会社レバンティン・グループの安全保障担当アナリスト、マイケル・ホロウィッツは言う。

対ロシアでまとまるテロリストたち
シリア北部には、旧ソ連からきたイスラム過激派グループが2つある。1つは旧ソ連のウズベキスタン系で、もう1つはロシアからの独立を目指すチェチェン共和国系。ロシアが軍事介入に備えてシリアでの軍備増強を始めた数週間前、両グループとも公式にアルカイダに加わった。(中略)こうしたロシア人テロリストの帰国を恐れたからこそロシアは軍事介入に踏み切ったとも言われるが、実際にはアルカイダやISISに追いやってしまったとすれば、皮肉だ。【10月5日 Newsweek】
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ロシア・プーチン大統領の賭けがどうなるかは、ロシアの空爆開始でアサド政権がどの程度態勢を立て直せるかにかかっています。

個人的には、プーチン大統領も主張しているように、単にアサド政権を倒すだけでは権力の空白を生み、結果的にイスラム過激派の更なる台頭と、今以上の混乱を招くだけのように思えますので、アサド大統領存続を移行期間において容認することは止むを得ないことと考えています。
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