孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  制裁解除に向けた動き イラン国内では国産品買い控えも

2015-10-13 23:04:56 | イラン

(12日、テヘランで記者会見を終え、イランのザリフ外相(右)と握手する岸田外相=AP 【10月13日 読売】)

イラン国会もクリア 概ね順調に進む手続き
欧米など6カ国とイランによる核問題の「最終合意」に関して、アメリカ国内では「合意」破棄を目指して野党共和党が不承認決議案を提出し、その行方が注目されていました。

オバマ大統領は「拒否権」行使で乗り切る意向を示していましたが、結局、不承認決議案は9月中に廃案となり、「合意」実現に向けて一歩前進しました。

一方、イラン国内でも、これまで核交渉を支持してきた最高指導者ハメネイ師が「国会に関与させないのは適切でない」と述べ、保守派が主導する国会が合意について徹底審議するよう求めていました。

「合意」に不満を持つ保守派の“ガス抜き”とも思われますが、こちらもハードルをクリアしたことが報じられています。

****イラン国会、核合意を承認=履行へ大きな一歩****
イラン国会は13日、同国政府と欧米など6カ国によるイラン核問題の最終合意をめぐる決議案を賛成多数で承認した。国営イラン通信が伝えた。国会承認は合意履行への大きな一歩となる。

国会決議を審査する護憲評議会が承認を覆さなければ、7月の最終合意に盛り込まれた核開発の大幅な制限や、欧米の対イラン経済制裁解除といった措置が実現に向け動きだす。

採決では、賛成が161票だったのに対し、反対59票、棄権13票だった。国会では合意に懐疑的な保守強硬派が反対し続けたものの、賛成票が大きく上回った。

国際社会との関係改善を進めるロウハニ政権の外交姿勢に対する支持の強さが浮き彫りとなった形だ。

最終合意をめぐっては、米議会でも反対論が根強く、履行が危ぶまれた。ただ、米国では最終的に不承認決議案が採決されず、イラン側の対応が焦点となっていた。【10月13日 時事】 
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制裁解除の条件とされている国際原子力機関(IAEA)による調査も、その実効性への疑問も示されてはいますが、一応進展しているようです。

****IAEA、イランのウラン濃縮の有無など調査へ****
国際原子力機関(IAEA)は21日、核兵器の起爆実験が行われた疑いがあるテヘラン郊外のパルチン軍事施設で採取された試料の提供を受けたことを明らかにした。

20日に天野之弥事務局長が同施設を訪問。今後、放射性物質の有無などを調べる。

国営イラン通信によると、試料採取はイラン側が先週、IAEAの立ち会いなしで実施したが、天野氏は発表文で「試料の信頼性は確証できる」と説明した。

7月の核合意では、イランによる過去の核兵器開発疑惑の解明が、欧米の対イラン制裁解除の条件だった。IAEAは12月15日までに調査の最終報告をまとめる。【9月22日 読売】
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制裁解除については、国際原子力機関(IAEA)がイランの合意履行を確かめ、安保理に報告書を提出し次第、一部を除き解除されることになっています。

具体的な手順についても協議が行われていますが、“制裁は来春以降に解除される見通し”とのことです。

****イラン制裁解除の手順協議 核問題で外相会合****
欧米など6カ国とイランは28日、ニューヨークでイラン核問題をめぐる外相会合を開いた。7月の最終合意後、初めての会合で、合意に基づいて対イラン制裁を解除する詳しい手順などを協議。

最終合意では、イランがウラン濃縮などの核開発を大幅に制限するのを条件に、欧米が制裁を解除すると規定された。

遅くとも10月中旬に発効する予定で、双方が履行に向けた手続きを急いでおり、制裁は来春以降に解除される見通しだ。【9月29日 共同】
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日本も制裁解除後のビジネスチャンスを狙って・・・
制裁解除後のイランとの経済取引については、各国が強い関心を示しており、「合意」直後から欧州各国のアプローチが行われています。
(7月19日ブログ“イラン核協議合意後の商機を狙う素早い動き 米・イランは原則論は維持しつつも「変化は可能だ」とも”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150719

日本も、そうした欧州勢に比べるとスロースタートの感もありますが、アメリカを気にしながらもイランへのアプローチを強めています。

****<イラン>産業機械の見本市・・・日本企業、高い技術力アピール****
各国の産業機械を宣伝する第15回国際見本市が5日からテヘランで開かれている。

イランの核問題の最終合意を受けた制裁解除を見据え、海外企業は昨年比約1.5倍の315社が出展、このうち日本企業は3倍以上の18社が参加し、高い技術力をアピールした。

一方、米国でのビジネスへの影響などを懸念し、出展を控える日本の大手企業の慎重姿勢は依然続いている。

日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、中国、韓国、ドイツなど計7カ国が国別のブースを用意。企業ごとの展示では、米国、フランス、英国など11の国と地域が参加している。日本ブースはジェトロが主催し、自動車部品やプリンターなどを扱う企業が売り込みを図った。

世界40カ国以上で即席麺の製麺プラントの納入実績がある「冨士製作所」(本社・群馬県藤岡市)は市場調査などの目的で初出展した。桜澤誠社長は「過去に取引の打診はあったが、(送金ができないなど)制裁の影響で見送ってきた。人口8000万人と市場の潜在力は高く、これからだ」と期待を語った。

ジェトロの石毛博行理事長は6日、企業幹部らを前に「制裁緩和を見込み、準備する必要がある。関係強化につながれば幸い」とあいさつ。その後、ネマトザデ鉱工業相らと会談し、日本との商取引をアピールした。【10月6日 毎日】
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岸田文雄外相もイランを訪問し、投資協定を結ぶことで合意しました。

****<日イラン外相会談>投資協定で合意 核合意履行へ協力****
岸田文雄外相は12日、イランの首都テヘランで同国のザリフ外相と会談し、両国間で投資協定を結ぶことで合意、早期の発効を目指すことで一致した。

また、イラン核交渉の最終合意を受けた措置の着実な履行を促す目的で、原子力部門の専門家を派遣するなどの協力も表明した。

核交渉の合意後、日本の閣僚として初めてイランを訪問した岸田氏は、ザリフ氏と約1時間半にわたり会談。13日には、ロウハニ大統領を表敬訪問する方向で調整している。

岸田氏は、会談後の共同記者会見で「核交渉合意後の新しい状況を踏まえ、2国間関係について有意義な意見交換ができた。関係が飛躍的に拡大することを望む」と述べた。ザリフ氏は「両国の協力関係には非常に明るい展望がある」と期待を語った。(後略)【10月13日 毎日】
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速やかな結果を求める国民の“過剰な期待”への警戒も
概ね順調に進んでいるようにも見える制裁解除へ向けた流れですが、今朝のNHK・BS「キャッチ 世界の視点」で非常に興味深いリポートがなされていました。

イラン国内では、制裁解除を見込んで、品質・サービスが劣り、価格も高い国産品への深刻な「買い控え」が起きており、経済全体の足を引っ張っているそうです。

国産品に対しては「ゴミを売りつけられた」との批判も。
経済はこの買い控えにより、マイナス成長の予想も出ているとか。

イラン国民の経済制裁解除への強い期待の表れですが、制裁解除の遅れなどで期待が裏切られると、政権批判に転じる恐れもあります。

もとより、制裁解除が順調に進んでも、その効果がすぐに表れるものでもありませんので、それを国民が待ってくれるか・・・という不安もあります。

この点は以前から懸念されているところで、ロウハニ大統領も8月時点で「植えたばかりの若木が実をつけるまでには時間がかかるものだ」と、冷静な対応を国民へ呼びかけています。

****イラン大統領「制裁解除の効果時間かかる****
イランのロウハニ大統領は、核開発問題を巡る欧米など6か国との最終合意に基づいて経済制裁が解除されても、効果はすぐには実感できないという認識を示し、国民に過剰な期待はせずに冷静に対応するよう、呼びかけるねらいがあると見られます。

イランのロウハニ大統領は2日、就任から2年がたつのに合わせて国営テレビに出演しました。
このなかで、欧米など関係6か国との間で核開発問題の解決に向けた最終合意に達したことについて、「協議を始めた2年前の期待を大きく上回るものだ」などと述べ、対立ではなく対話を重視するロウハニ政権にとっても大きな成果だと強調しました。

その一方で、「植えたばかりの若木が実をつけるまでには時間がかかるものだ」と述べ、最終合意に基づいて制裁が解除されても効果を実感するまでにはしばらく時間がかかるという認識を示しました。(後略)【8月6日 NHK】
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制裁解除で国民生活が改善すれば、国内・国際政治にプラスも
なお、「買い控え」による足元の減速はともかく、制裁解除後のイラン経済については、世界銀行は「経済成長率は5%、原油価格は1バレル10ドル下落」といった予測を報告しています。

****世界銀行、「イランの経済成長率は5%****
世界銀行が報告の中で、制裁解除により、来年のイランの経済成長率は5%に達し、外国の直接投資も2倍に増えるだろうとしました。

世界銀行の報告によりますと、制裁解除により、原油価格は1バレル10ドル下落するだろうとしました。

また、制裁解除によって、イランの石油・非石油製品の輸出が増加し、インド、中国、イギリスが、将来、イランの主な貿易相手国になるだろうと予想しています。

世界銀行は、イランの輸出額は170億ドル増加するとしました。

またイランへの直接外国投資も、現在の2倍の、年間およそ30億ドルに増加するとしています。【8月13日 Iran Japanese Radio】
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制裁解除でイラン経済が回復することについては、シリア・イラク・イエメンなどにおけるイランの関与が更に強まり、イラン主導で中東情勢が推移することを懸念する向きがありますが、基本的にはイラン国民の利益を考えれば歓迎すべきことです。

また、穏健なロウハニ政権の基盤が強化されることで、国内の民主化にとっても、対外政策に関する国際協調にとってもプラスとなるでしょう。

最高指導者が支配する宗教国家のイメージが強いイランですが、選挙による民意が政治に一定に反映する体制にもある国家でもあります。

対外関係が強化されることで国民が生活向上を実感できるようになれば、国際社会との軋轢を生むような過激な政治はそうそう支持されなくなるとも言えるのでは。
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