孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

高まる「南シナ海有事」の危険 そのとき日本は?

2015-10-20 23:11:34 | 南シナ海

(9月25日、ホワイトハウスで会見に臨んだ米中両首脳 〔PHOTO〕gettyimages 
この会談でオバマ大統領は、近くアメリカ軍の艦隊を派遣し、中国側が建設した埋立地の12海里(約22㎞)の海域へ入り、かつ埋立地の上空を飛行することを習主席に宣言したとのことです。本来は習近平主席の訪米前に行う予定でいたが、ライス大統領安保担当補佐官の建議によってストップさせていたとも【10月19日 現代ビジネス】)

オバマ米政権:艦艇派遣の方針を東南アジア周辺国に外交ルートで伝達
10月15日ブログ「南シナ海 中国の人工島12カイリ内にアメリカが艦船航行を検討」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151015)で取り上げた南シナ海をめぐる米中の対立ですが、アメリカ・オバマ政権の「強い決意」が報じられています。 

****米、艦艇派遣を周辺国に伝達 南シナ海、中国をけん制*****
南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島で中国が「領海」と主張する人工島の12カイリ(約22キロ)内に近く米海軍の艦艇を派遣する方針を、オバマ米政権が東南アジアの周辺国に外交ルートで伝達したことが18日、分かった。複数の外交筋が明らかにした。

派遣方針は複数の米政府高官が公に示唆しているが、関係国に意向を伝えたことは、オバマ政権の強い決意を物語る。人工島を中国の領土と認めない立場を行動で示し、実効支配の既成事実化を進める中国をけん制する狙い。【10月18日 共同】
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カーター国防長官の発言や艦船派遣の「方針」の伝達といったことではありますが、オバマ大統領として艦船派遣を正式表明した・・・という段階ではまだないようです。

後には引けずエスカレート・・・戦争へ至るパターン
万一、実際に中国本土から遠く離れた南シナ海で米中が衝突した場合、15日ブログで紹介した【10月15日 夕刊フジ】記事のように、未だ中国は軍事的にはアメリカに対抗できないというのが大方の見方のようです。

そういう事情もあってか、中国側からは事態の鎮静化を図りたい発言も見られます。

****領有権争い「武力に訴えない」=航行の自由「影響なし」―中国軍高官****
中国軍制服組トップの范長竜・中央軍事委員会副主席は17日、北京で開かれた安全保障をめぐる国際フォーラムに出席し、「中国は防御的な国防政策を行い、永遠に覇権を唱えない」と主張した上で、南シナ海の領有権問題などを念頭に、「争いは平和的に解決し、軽々しく武力に訴えることはない」と強調した。

范氏は南シナ海で中国が進める埋め立てや建設について、「民間的な機能を主としており、航行の自由には影響を及ぼさない」と改めて主張。埋め立てた岩礁に中国が最近灯台を設置したことにも言及し、「既に各国の船舶に航行を支援するサービスを提供している」と訴えた。

南シナ海をめぐっては、中国が埋め立てた「人工島」から12カイリ以内に米国が軍艦を送り込むことを検討している。中国は軍事的側面を表立って主張しないことで、対立を抑えたい考えとみられる。【10月17日 時事】
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****南シナ海「混乱望まず」=建設活動は「正当」―中国主席****
中国の習近平国家主席は20日からの英国公式訪問を前にロイター通信との書面インタビューに応じ、南シナ海をめぐる対立について「中国にとって重要なシーレーンであり、どの国よりも平和と安全、安定を必要としている」と主張した。その上で「中国は南シナ海の混乱を望んでいないし、ましてや混乱を引き起こす当事者にはならない」と強調した。

南シナ海で中国が造成を進める「人工島」から12カイリ(約22キロ)以内に軍艦を送り込むことを検討している米国の動きを強くけん制した形だ。

習主席は「南シナ海における中国の主権や権益侵害に対しては、中国国民は誰であろうと許さない」と警告。埋め立てや建設についても「領土主権を守るための正当な活動だ」と主張した。【10月18日 時事】 
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ただ、「軽々しく武力に訴えることはない」 「混乱を引き起こす当事者にはならない」とは言いつつも、「南シナ海における中国の主権や権益侵害に対しては、中国国民は誰であろうと許さない」という基本線を変えることもありませんので、このままいくと両者ゆずらず南シナ海で両国艦船がにらみ合う事態も想定されます。

****米艦艇、南シナ海へ派遣 フィリピンなど関係国に通達 中国は猛反発****
・・・・習近平国家主席は英国訪問(19〜23日)を前に、ロイター通信の取材を受け、「中国が行っている活動は、領土主権を守るための正当なものだ」と、一切妥協しない考えを表明。南シナ海の島々は「昔から中国の領土だ」と強調した。

中国共産党機関紙、人民日報系の「環球時報」は、さらに過激だ。15日の社説で、米艦艇が派遣された場合、「中国は海空軍の準備を整え、米軍の挑発の程度に応じて必ず報復する」「中国の核心的利益である地域に(米軍が)入った場合は、人民解放軍が必ず出撃する」と警告した。(後略)【10月20日 夕刊フジ】
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習主席の発言のどの部分を重視するかで、“南シナ海「混乱望まず」”【時事】ともなれば、“一切妥協しない考えを表明”【夕刊フジ】ともなります。メディアの伝える情報は注意が必要です。

実際に「ドンパチ」やるような事態は米中双方望んでいないでしょうが、動き出した流れを止めることは難しく、高揚する国内世論を背景に後に引けない“チキンレース”において次第に対応がエスカレートすることもあり得ます。

中国同様、オバマ大統領も大統領選挙に突入している今、後には引けません。

1982年、イギリスが支配するフォークランド諸島に領有権を主張するアルゼンチンが上陸、これに対しイギリス・サッチャー首相は遠路艦隊を派遣、両軍が衝突した「フォークランド紛争」をも連想します。

「フォークランド紛争」では、お互いが相手の出方を予測できず、事態が次第にエスカレート、最終的には軍事衝突に至りました。「戦争というのはこういう風に起こるものか・・・」と教えてくれた紛争でもありました。

結果、勝利したイギリス・サッチャー首相は「鉄の女」の武勇を高め、国内の支持を固めることになりました。

ただ、今回は米中という二大核保有国ですから、そう簡単に「ドンパチ」されても困ります。
そういう点では、冷戦下の「キューバ危機」のような緊張が伴います。

東アジアでの米中対立と言う点では、19年前に台湾海峡で危機が起こっています。

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このようにアジアの海が緊迫するのは、1995年-1996年の台湾海峡危機以来である。当時、台湾で初の総統直接選挙が実施され、独立派の李登輝総統が再選される可能性が高まっていた。そのため、江沢民政権は大艦隊を台湾海峡に送り込み、ミサイル発射実験などで恫喝した。

台湾はアメリカに救援を要請。クリントン大統領は、空母ニミッツとインデペンデンスを派遣し、台湾海峡で米中が対峙した。だが、両軍の軍事力の差は圧倒的で、人民解放軍が撤退して危機は去った。

それから19年経って、米中は再びアジアで危機を迎えた。早ければ11月にも、南沙諸島で米中が一触即発となる可能性が出てきたのである。【10月19日 現代ビジネス】
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中国:習政権の抱える不安定要素も
お互いに、国内強硬派への説明がつく形でなんとか実際の衝突は回避しようとするのでしょう。(局地的とは言え、実際に勝負して負けてしまっては政権が維持できません)

ただ、中国の場合、強硬な軍部が暴発する、あるいは習近平政権に不満を持つ勢力が暴発を装って事を起こし政権を揺さぶる・・・といった事態もありえますので、何が起こるかわからないリスクはあります。
激しい権力闘争、軍幹部の粛清を展開している習政権ですから、“敵”は軍内外に大勢います。

アメリカ:同盟国の結束を固める
一方、アメリカは“同盟国”の結束を固めて中国への圧力を強める姿勢です。

****<米国>韓国の中国傾斜にクギ 米大統領「共同歩調を****
米ホワイトハウスで16日に開かれた米韓首脳会談は、韓国と中国の接近による米国の懸念を朴槿恵(パク・クネ)韓国大統領が取り除けるかが焦点の一つだった。

オバマ米大統領は共同記者会見で韓国と中国の関係強化を支持し、韓国内では「中国傾斜論払拭(ふっしょく)」(聯合ニュース)との評価が出ている。

ただ、オバマ氏は南シナ海問題などで中国が国際規範に違反した場合は、共に「声を上げることを期待する」と要請。米国は主要同盟国である韓国にも対中けん制で役割を果たすよう強く求め、過度な中韓接近にくぎを刺した格好だ。(後略)【10月18日 毎日】
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こうしたアメリカの要請、あるいは、中国離れを促す“最後警告”【10月19日 夕刊フジ】に応える形で、韓国はアメリカの立場への支持を明らかにしています。

****南シナ海、航行自由保障を=米大統領の発言受け強調―韓国外務省****
韓国外務省報道官は20日の記者会見で、中国の南シナ海進出に関し「国際的に確立された行動規範によって平和的に解決されるべきで、航行・上空飛行の自由を保障し、紛争につながりかねない行為を自制する必要がある」との考えを示した。

韓国はこうした立場を8月の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会議でも表明しているが、オバマ米大統領が今月16日の米韓首脳会談後の記者会見で「中国が国際法や規範に従わない場合、韓国が反対の立場を示すよう期待する」と述べたことを受け、改めて強調した。【10月20日 時事】 
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おりしも習近平主席はイギリスを訪問していますが、経済的メリットから中国への接近を強めるイギリス・キャメロン首相に対しても、「特別な関係」にあるアメリカの強い要請が行われているのではないでしょうか。

日本:安全保障関連法案の直接的な契機は南シナ海
アジアにおける「最大の同盟国」日本は・・・と言えば、今回のような南シナ海での米中衝突を想定して、安倍政権が“ぬかりなく”自衛隊派遣を可能とする安全保障関連法案を成立させて準備しています。
米中が衝突すれば、自衛隊も後方支援で出動する事態ともなります。

****南沙諸島で米中激突の危機! 自衛隊はこうなる****
防衛省幹部はオフレコで「南シナ海は『存立危機事態』になりうる」。
中国軍幹部は「埋め立ては軍事目的」と公言。米軍は接近をくり返す

・・・・「南シナ海は世界の貿易量の40%が経由する要衝。中国に好き勝手にやられては米国の沽券(こけん)に関わる。互いに引くに引けない状況で、突発的な軍事衝突のリスクが高まっている」(全国紙外信部記者)

南沙諸島は太平洋の玄関口で、戦略上重要な海域。米中の睨みあいは一触即発、抜き差しならないところまできている。

これに反応したのが、安倍晋三首相だ。国際情勢に敏感といえば聞こえがいいが、その場その場の"空気"に流されやすい安倍首相の頭の中はいま、「南沙」で一杯のようだ。

「(法案成立前に)南沙諸島で有事が発生したらどうするんだ!」
審議中の安全保障関連法案を早く成立させたい安倍首相は、自民党国対関係者をそう怒鳴りつけたという。

同法案には他国軍への後方支援が可能となる「重要影響事態」や、集団的自衛権により武力行使が可能となる「存立危機事態」など新しい概念が盛り込まれている。

「安倍首相は4月26日から1週間、米国を公式訪問しましたが、この時すでに、フィリピンへの軍事支援などの南シナ海における対中戦略を伝えられていたんです。安倍首相は米中有事の際、自衛隊がすみやかに米軍に協力できるよう一刻も早く法整備をしておく必要があると焦っている」(外務省幹部)

(中略)江田憲司前維新の党代表が、自衛隊が他国軍の後方支援を行う「重要影響事態」を想定している地域はどこかと質問すると、「具体的な場所を言うことは控えたい」と答弁しながらも、「南シナ海で、ある国が埋め立てをしている」と言及した。

江田氏が言う。
「具体的にどういう危険が想定されるのか、安倍首相は『安全保障は機密性の保持が必要とされる』という大義名分でごまかしていた。ところが私の質問で、南シナ海を懸念対象として見ている、とつい本音がこぼれた。法案の直接的な契機は南シナ海なんです」

「石油がない」から参戦する
防衛省も、内々に研究を進めている。
「南沙諸島で米中有事が発生し、日本のタンカーが通行できなくなった場合、どれくらい国内の石油備蓄が持つかなど、いまの安保法制議論では触れられていないケースまで省内でシミュレーションしていると聞いてます。ある防衛省幹部は、『個人的見解』と前置きして、『南沙諸島の有事は、我が国の存在を脅かす"存立危機事態"になりうる』と明言していた。明確に自衛隊の南沙諸島出撃を想定している」(自民党中堅議員)

官邸と防衛省が想定する事態はこうだ。
中国軍とフィリピン軍の間で小規模な戦闘が発生。ただちに米軍は艦船を派遣し、米中の睨み合いが続く。海兵隊がホバークラフトで上陸を狙うなど緊迫し、この海域でタンカーの航行が不可能になる。日本に石油が入ってこなくなり、米国からの要請を受けた日本は「我が国の存立が脅かされる」として「存立危機事態」を宣言、南沙諸島に自衛隊を派遣――。

元外務省中国課長の浅井基文氏が言う。
「今回の安保法制は戦争法制なんです。米国のカーター国防長官は、『日本が南シナ海でアメリカと活動することになる』とはっきり言っています。日本が米国からの軍事的要求に『あれはやらない』と選択できることはありえない。南シナ海でアメリカが中国に攻撃をすれば、安倍政権は集団的自衛権を行使して、積極的に関わっていく危険性があります」

柳澤協二・元内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)も警鐘を鳴らす。
「南シナ海に自衛隊が出動するなら、どういう条件でどこまでやるか、安倍首相は国民に説明ができないといけない。米軍の後方支援といっても、国際的には武力行使の一部とみなされる。敵国からすると米軍と区別がつきません。それどころか中国が、ミサイルが届く日本を先に狙う可能性すらある」

日本は70年前、太平洋で多くの人命を喪(うしな)った。再び、あの悲劇をくり返すのか。【6月8日 Fridayデジタル】
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****臨時国会 野党が要求 与党は困難と認識****
与野党の幹事長・書記局長らが会談し、野党側が、TPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉が大筋合意したことを国民に説明すべきだなどとして、早期に臨時国会を開くよう求めたのに対し、与党側は「要求は官邸に伝えたい」と述べるにとどめ、召集は困難だという認識を示しました。(後略)【10月20日 NHK】
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日本へも当然アメリカの「意向」は伝えられているでしょう。
TPPもさることながら、南シナ海有事への対応も議論が必要に思われるのですが・・・。
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