孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  先送りされる財政問題 今度は3月1日からの「歳出強制削減」

2013-02-27 22:44:25 | アメリカ

(26日、ニューポートニューズで、妥協しない共和党を批判するオバマ大統領 【2月27日 TBS News】http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye5267852.html

【「三つの壁」】
「財政の崖」、債務上限問題(デフォルトの危機)、歳出強制削減など、アメリカの財政問題が昨年から続いています。
一連の騒動の背景を簡単にまとめると、以下のとおりです。

“金融危機を受けて発足したオバマ政権は、過去最高の7870億ドルの景気対策など湯水のように財政資金をつぎ込んだ。その反動として、財政赤字も年間1兆ドルを突破し、それは1期目の4年間を通じて続いた。

青くなった大統領と議会は財政赤字削減に向けた与野党協議を何度も行ったが、富裕層増税を主張する与党民主党と、歳出削減を求める野党共和党の意見は鋭く対立。協議は決裂したが、その“ペナルティー(罰則)”として、強制的に財政赤字を減らすため、2013年の年明けから全世帯を対象にした所得減税の失効と巨額の歳出の自動削減が決まり、米景気への壊滅的な影響が危ぶまれた。いわゆる「財政の崖」問題が、米国と世界を揺さぶった。

崖を避けるための与野党協議もまたもつれ、一部の富裕層を除く減税延長でなんとか妥協。崖からの転落は寸前で回避されたが、その他の抜本的な税財政改革は先送りされ、米紙ワシントン・ポストは社説で、「米国の長期的な債務問題に取り組むためには、(与野党の合意は)あまりに無力だ」と批判。これでは多額の財政赤字を減らす効果は見込めないと嘆いた。”【2月3日 産経】

昨年末の「財政の崖」は問題先送りで回避した訳ですが、2期目のオバマ政権は“債務上限”“歳出強制削減”“暫定予算失効”の3つの財政問題に早々に直面しています。

****米財政問題:2期目のオバマ大統領 「三つの壁」に直面****
2期目のスタートを切ったオバマ大統領は、財政問題を巡る「三つの壁」▽債務の上限引き上げ▽歳出の強制削減▽暫定予算の失効−−に直面している。いずれも早急な対応をとらなければ、債務不履行(デフォルト)や政府機関の閉鎖など米国をはじめ世界経済に打撃を及ぼす恐れがある。

 ◆債務上限
米政府の債務はすでに法律で定められた16.4兆ドルの上限に達しており、2月中旬にも議会が上限を引き上げなければ債務不履行(デフォルト)の懸念が高まる。野党共和党は5月19日まで暫定的に上限引き上げを認める方針で、23日に共和党が多数を占める下院での法案採決を予定している。ただ、共和党は「長期の上限引き上げには責任のある政府の歳出削減が必要」(ベイナー下院議長)と、与党民主党に反発が強い社会保障費などの大幅な歳出削減を迫る戦略だ。

 ◆歳出強制削減
年明けの「財政の崖」回避を巡り、一時的に先送りされた歳出の強制削減(10年間で1.2兆ドル規模)は3月初めに発動される。実施されれば、景気への影響は不可避だ。

 ◆暫定予算失効
更に13会計年度(12年10月〜13年9月)は暫定予算で必要な歳出を確保しているが、3月27日に期限が切れる。新たな対応なしには予算が執行できなくなり、政府機関の閉鎖などの事態に陥る。

これらの問題が解決困難なのは、中長期的な財政赤字削減策でオバマ政権と共和党が合意できていないためだ。「財政の崖」など、危機に直面するたびに与野党は新たな期限を切って問題を先送りし続けている。
オバマ大統領は21日の就任演説で、インフラや教育、環境関連の新技術開発など成長力の強化に向けた投資の必要性を強調。しかし、共和党との合意を得て中長期的な財政健全化に道筋をつけなければ、これらの政策は実現が困難だ。(後略)【1月23日 毎日】
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【“チキンレース”で、時間切れか?】
1番目の債務上限問題については、債務の法定上限を暫定的に引き上げることになり、デフォルトを回避して何とか8月頃までしのげる形になっています。恐らくその時期になれば、また同じような議論が繰り返されることかとは思いますが。

****米、デフォルト当面回避…大統領が署名、法成立****
オバマ米大統領は4日、連邦政府の借り入れ枠である債務の法定上限を16兆3940億ドル(約1510兆円)から暫定的に引き上げる法律に署名し、同法が成立した。
今月半ばにも陥ると懸念されていた米国債のデフォルト(債務不履行)は当面、回避された。

5月18日までの間、国債の元利払いなどに必要な資金の借り入れが可能となった。その後も、米財務省が資金繰りの非常措置を発動して、8月ごろまでしのぐ見通しだ。【2月5日 読売】
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次に間近に迫ってきたのが、2番目の歳出強制削減の問題です。
もともとは、2011年の「債務上限問題」から生じたもので、12年末の「財政の崖」で先延ばしされた問題です。

****米歳出強制削減“チキンレース” 「3・1」発動、政権と議会の協議暗礁****
米国で巨額の歳出強制削減の発動が3月1日に迫っている。国防や景気への影響が懸念されるが、発動回避のためのオバマ政権と議会の協議は増税で対立、暗礁に乗り上げている。与野党はぎりぎりまで協議を続ける方針だが、時間切れも現実味を帯び、全米に動揺が広がっている。

「企業は解雇通告を準備している。家庭も財布のひもを締め始めた。危険が迫っている」。オバマ大統領は25日に全米各州の知事を招いた会合で、歳出強制削減の影響が広がっていると危機感を募らせ、発動回避へ議員に圧力をかけるよう訴えた。

与党民主党は、小規模な歳出削減と歳入増をセットにした暫定予算を可決し、歳出強制削減を来年に先送りすることを提案している。そうして抜本的な税制改革の時間を稼ぎ、社会保障のスリム化や富裕層に恩恵の大きい税制優遇の見直しで1兆8千億ドルの財政赤字削減案の合意を目指すのが大統領の青写真だ。

だが、野党共和党は「大統領は先月増税したばかり。終わった議論だ」(ベイナー下院議長)と猛反発する。「財政の崖」をめぐる与野党協議で、共和党は党内の激論の末に所得税の富裕層増税を容認した。さらに増税に応じれば保守派の突き上げは必至で、共和党は歳出強制削減の回避には増税ではなく無駄な政府事業などの歳出をカットすべきだと訴えている。

歳出強制削減の影響が最も大きいのは予算が13%削られる防衛関連だ。兵器整備要員など約75万人の職員の多くが一時帰休の対象となり、ヘイル国防次官は、「米軍の即応能力に深刻な影響が出る」と警告。国防産業でも雇用や事業を見直す企業が目立ち始めた。

低所得者向け住宅補助の見直しで約12万5千世帯が持ち家を失う恐れがあるなど、国民生活への影響も大きい。主要空港では職員削減で待ち時間が最大4時間を超え、規制が緩和されたばかりの米国産牛肉の対日輸出も食品検査官の削減で停滞する懸念も出ている。

大統領は「妥協できるはずだ」と与野党に歩み寄りを促すが、米メディアによると、共和党内には「政権側が譲歩しなければ、歳出強制削減の発動もやむなし」との強硬論も飛び交う。政府や議会の関心も「歳出削減がもたらす影響の度合いに移っている」(米紙ワシントン・ポスト)との見方すらある。【2月27日 産経】
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当然ながら、オバマ大統領は野党・共和党に妥協を強く求めています。

****米の歳出強制削減、大統領が共和党非難 ****
アメリカの850億ドルに及ぶ歳出削減が強制発動されるまであと3日、オバマ大統領は最も大きな打撃を受ける国防産業の工場で演説し、野党・共和党に対し、強制発動の回避へ向け妥協するよう訴えました。

「皆さんは議会に圧力を加え続ける必要がある。努力し続ける必要がある。戦い続ける必要がある」(アメリカ オバマ大統領)
オバマ大統領はバージニア州にある原子力潜水艦の工場を訪れ、歳出削減問題で野党・共和党が「1インチも妥協しようとしていない」と共和党を非難しました。その上で、すでに海軍が空母の修理を延期したり、新たな空母の建造を見合わせるといった動きが出ていると指摘し、歳出削減の強制発動を回避する必要があると訴えました。

ただ、オバマ政権と民主党が富裕層への新たな増税と歳出削減の組み合わせで財政赤字の削減を図ろうとしているのに対し、野党・共和党は増税を受け入れない方針を崩していません。
さらに、オバマ政権が「合意に失敗すれば、国防のみならず交通機関など市民生活にさまざまな影響が出る」としているのに対し、共和党側は悪影響を誇張していると主張するなど、双方の歩み寄りは見られず、3月1日の強制発動まで時間ばかりが経過する状況が続いています。(2月27日 TBSNews)
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演説を行った場所のあるニューポートニューズは造船の町として知られ、軍事関連受注が大きな比重を占めています。

一連の財政問題の背景には、大統領・与党民主党側と野党共和党側の“チキンレース”的な対立がありますが、国民もいいかげんうんざりしたのか、歳出強制削減については、“一度やってみたら・・・”といった声も強いようです。

****強制削減、半数近く「やむなし」=大胆な歳出カットに期待―米調査****
26日発表の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCテレビの合同世論調査結果によると、3月1日に発動期限が迫った強制的な歳出削減について、回避に向けた与野党の妥協が望めない以上は断行もやむを得ないと考えている人が半数近くの46%に上った。

過去最悪レベルに達した財政赤字の削減方法に関し、調査は「オバマ大統領と議会は歳出の強制カットを回避し、協力して赤字削減案を探るべきだ」と「妥結は困難なので、この際は赤字削減に劇薬を用いるべきだ」とする二つの選択肢を提示。その結果、強制カットの回避を求める人が50%、断行を容認する人が46%となり、ほぼ並んだ。

また、現在予定されている強制的な歳出カット策への支持は14%、さらなる歳出削減を期待する人は39%に上った。これに対し、歳出削減額の縮小を求める人は37%で、全体として大胆な歳出削減を促す声が大きいことが分かった。
調査は21~24日、有権者1000人を対象に実施された。【2月27日 時事】 
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ただ、低所得者向け住宅補助の見直しで持ち家を失うなど、簡単に“一度やってみたら・・・”とは言えない面もあります。
与野党間に歩み寄りはなく、“このまま時間切れとなる公算が大きくなっている”【2月27日 毎日】状況とも報じられています。

【「武力の空白を生み出す危機にある」】
最も直接的な影響を受ける国防関係は、“冗談じゃない”と不満を募らせています。
****米国防総省、歳出強制削減は「武力空白の危機****
アメリカ国防総省のリトル報道官は、3月1日に迫った歳出削減の強制発動について「武力の空白を生み出す危機にある」と述べ、議会に対しその回避を求めました。
「軍の即応準備が転換点にある。我々は武力の空白を生み出す危機にある」(アメリカ国防総省・リトル報道官)

リトル報道官は、歳出削減が強制発動されれば国防総省は今年度、全体の9%カットにあたる460億ドルの削減を強いられ、兵員の訓練や空母の展開、さらに4月以降には関係者80万人の一時解雇など、深刻な影響が出ると警告しました。さらに、日本や韓国のアメリカ軍への影響については直接答えなかったものの、「世界中のアメリカ軍への何らかの影響が予想される」と述べました。

イラク、アフガニスタンの2つの戦争が終結に向かう中、議会などでは大幅な国防費の削減は可能だとの見方もありますが、リトル報道官は「北朝鮮やイラン、テロリストの脅威がまだ残されている」と述べ、歳出削減の影響を誇張しているわけではないと強調しました。(2月27日 TBSNews)
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今回の問題は別にしても、アメリカの医療保険支出は今後10年間で倍増すると言われており、増税でカバーできる余地は限られていますので、基本的には巨額の国防費を削るしかないのではと思われます。
そのことは、日本の安全保障問題にも大きく影響してきます。

日本では脱「ねじれ」の動きも
与野党間の対立で「決められない政治」が続いているのは日本も同じですが、先の総選挙の自民党大勝・民主党大敗を受けて、少し流れも変わってきたのかも。
26日の参院本会議で、政府も「否決されるのでは」と考えていた補正予算が思いがけずも「1票差で可決」しました。

****補正予算 参院1票差で可決 民主衝撃 自民、脱「ねじれ」弾み****
平成24年度補正予算は26日の参院本会議で1票差で可決、成立した。「1票差で否決」との見方もあっただけに、自民党はこの日の採決を衆参「ねじれ」の解消に向けたターニングポイントと意気込む。対する民主党は中盤国会のヤマ場となる25年度予算案の審議に向け態勢の立て直しを急ぐが、離党者が相次ぎ、有効な戦術を描けずにいる。

 ◆「否決」のはずが
「薄氷を踏む思いの採決だったが、何とか1票差で成立した。この1票差は決められない政治から決められる政治への第一歩だ」
安倍晋三首相は26日、野党が多数を占める参院で補正予算が可決、成立したことの意義を記者団にこう強調した。

自民党では野党議員の動向を最後までつかみきれず、参院本会議で「否決か、可否同数で民主党出身の議長の1票で否決」(国対幹部)とみていた。
ところが、ふたを開けてみると、衆院で賛成した日本維新の会に加え、新党改革と国民新党、さらにみどりの風の大半が賛成票を投じた。民主党を離党した2人のうち、川崎稔氏は賛成し、植松恵美子氏は欠席。その上、生活の党の藤原良信氏が棄権したことで1票差での可決につながった。

自民党の鴨下一郎国対委員長は可決後の記者会見で「極めて大きい話で、重大な意義がある」と喜びを隠さなかった。
政府は25年度予算案を28日に国会提出する方針。次期日銀正副総裁人事案の国会同意と合わせ、いずれも補正採決通りの展開となれば、「ねじれ」に悩むことなく、強力な政権運営が可能となる。(後略)【2月27日 産経】
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今後、日銀人事や25年度本予算が焦点となりますが、議員各自の判断もあって“票が読めない”ということは、民主主義の形骸化を救うことではないか・・・とも思われます。
問題ごとに、各議員への働きかけ、政治的取引などがあって、実際に採決するまでわからない・・・という緊張感が政治を活性化します。
もちろん、行き過ぎた“政治的取引”の弊害もあるでしょうが。
コメント (1)
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