孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

武力衝突を求める人々 バングラデシュ、フォークランド、そして尖閣諸島の場合

2013-02-04 23:32:07 | 国際情勢

(中国空軍の戦闘機「殲(せん)10」 “flickr”より By fyou0327 http://www.flickr.com/photos/fyou0327/7295786748/

カシミールは一応の収束
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で1月相次いだ両国軍の衝突(両軍で5名の兵士が死亡)は、両軍が「攻撃自制」に合意し、一応の収束をみています。1月28日からは、交戦により運行が停止していた実効支配線(停戦ライン)をまたぐバスの運行が一部再開しています。

両国関係が改善したものではなく、あくまでも“一応の収束”であり、今後も同様の衝突が繰り返されるのでは・・・とも思われます。
ただ、“一応の収束”であっても、核保有国同士の間で大事に至らなかったということでは喜ぶべきことでしょう。

仮想敵国はミャンマー?】
カシミールは収まりましたが、武力衝突の可能性を持った争いごとの種は、世の中には掃いて捨てるほど存在しています。

****バングラデシュが初の潜水艦購入へ 軍備増強図るハシナ首相****
バングラデシュのシェイク・ハシナ・ワゼド首相は24日、南部の主要都市クルナで行われた軍艦就役式で演説し、同国初の潜水艦を近く購入して海軍力を強化するとの方針を明らかにした。
首相は潜水艦の隻数、購入時期、購入先などには触れなかったが、国軍幹部の1人によると、同国は現在、中国と潜水艦購入問題で話し合いを進めているという。

この日の演説の中でハシナ首相は「わが国の海軍に近く、潜水艦を配備することを決めた。近代化によって抑止力を構築するとともに、領海をめぐる紛争への対応力を強化するのが狙いだ」と言明した。
バングラデシュはミャンマーとの間で領海の境界をめぐって長く対立し、ミャンマーがガス採掘支援のため海軍艦艇を送った
2008年には武力衝突の危険も高まったが、2012年3月に国連海洋法裁判所(ITLOS)が両国間の海洋境界を画定する判決を出した。

また隣国インドとの間では、特にベンガル湾海底の豊かな石油・天然ガス資源をめぐり、インドとの領海画定問題が厳しさを増している。

ハシナ政権下で軍備強化を進める同国は今月、1971年の独立後最大となる10億ドル(約900億円)に上る兵器購入協定をロシアとの間で調印したばかり。購入するのは訓練用戦闘機、ヘリコプター、対戦車ミサイルなど。【1月25日 AFP】
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バングラデシュとミャンマーの境界争いについてはよく知りませんが、“バングラデシュは、昨年3月に国際海洋法裁判所で、ミャンマーと争っていた海域をガス田ごと奪われている。「隙あらば武力で奪い返すと思い定めた」(外交筋)可能性が浮上している”【2月号 選択】とのことです。
バングラデシュにしても、ミャンマーにしても、経済的に離陸してアジア最貧国を脱する機運がたかまっている時期であり、争い事などにかまけているときではないように思うのですが・・・。

準備に怠りがないイギリス
一方、南米アルゼンチンとイギリスが対立するフォークランド諸島の帰属問題については、これまでも取り上げてきたところです。アルゼンチン側は、国内経済の問題から国民の視線をそらすためにも、ことさらにフォークランド問題を煽っているようにも見えます。
現実問題としては、今のアルゼンチンに武力に訴える力はないように思えますが、イギリス側は有事に備えています。

****英国が「開戦準備」 緊張高まるフォークランド情勢****
英国は、アルゼンチンと領有権を争っているフォークランド諸島防衛に向けた戦争準備を進めている。三月に定されている両国いずれかの帰属を決める島民の投票に前後し、アルゼンチン側の攻撃がありうると見なしているためだ。

同局内にはかねて一千二百人規模の兵力と空軍のタイフーン戦闘機が配備されている。これに加えて、すでに陸軍のパラシュート部隊が本国から即派兵可能な状態にあるほか、海軍の最新鋭巡洋艦ドーントレスなど数隻が同島近海に展開している。
正式な動員命令は発せられていないが、キヤメロン首相は「あらゆる偶発事態に対応する」とし、三軍の戦闘態勢を強化中だ。

一方、アルゼンチンのフェルナンデス大統領はこのほど、キヤメロン首相に書簡を送り、間島について「植民地主義の行使で奪われた」として英国に返還交渉を呼びかけているが、これは繰り返されてきたこと。すでに英国企業が間島周辺海域で石油採掘を開始している事情があり、英国側が譲る気配はない。

アルゼンチン側の攻撃があるかどうかは未知数だが、南半球での新たな紛争要因が生まれているのは間違いない。【2月号 選択】
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イギリス・キャメロン首相は、アルゼンチンが事を起こして欲しいと願っているのではないでしょうか。
キャメロン首相もEU離脱問題など多くの国内問題を抱えていますので、アルゼンチンが再びフォークランドに手を出してくれれば、これを叩くことで国内の不満をうやむやにしてしまうことができます。

【「(尖閣周辺空域でも)いつ衝突事故が起きてもおかしくない」】
日本の尖閣諸島についても、中国側の対応は危ういものがあります。

****米機にも急接近 ****
・・・・複数の軍事筋が朝日新聞に明らかにした話によると、上海市郊外にある中国空軍基地から、2機の戦闘機「殲(せん)10」が緊急発進(スクランブル)。米軍のAWACSに急接近し、追尾を始めた。これに対し、航空自衛隊の2機の戦闘機F15も緊急発進した。

日中双方ともに公表していないが、この日、日中の戦闘機は複数回、緊急発進の応酬を繰り返した。AWACSは広い範囲で航空機を探知でき、「飛ぶ管制塔」と呼ばれる。昨年12月、中国機による尖閣周辺の領空侵犯を受け、米軍が1月中旬から投入した。

防衛省によると、中国機に対する自衛隊機の緊急発進は、日中関係が悪化した昨年10~12月で計91回と急増傾向にある。中国軍幹部は、2001年に中国・海南島近くで起きた米中両軍機の衝突を例に挙げ、「(尖閣周辺空域でも)いつ衝突事故が起きてもおかしくない」と警戒する。(後略) 【2月4日 朝日】
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日本側にも中国に対する不満は多々ありますが、武力衝突への危機感は一般国民の間ではそれほど切迫しているようには思えません。
しかし、中国側の軍部などには、武力に訴えてでも・・・という動きもあるようです。
一応、今は沈静化の方向にはあるようですが。

****戦争の準備をせよ****
1月14日付の中国軍機関紙、解放軍報は、軍総参謀部が全軍にこう指示を出したことを伝えた。
軍関係者によると、尖閣をめぐる東シナ海での緊張を受けたものだという。
同様の指示が最後に出されたのは1979年。中国軍が、カンボジアに侵攻したベトナムを「懲罰」するとして軍事介入する直前だった。この関係者は「全軍が臨戦態勢に入ったことを意味する」と説明する。

日米政府筋によると、この指示が出された後、内陸に配備されていた戦闘機が上海など沿岸部の空港に移されるなど、部隊に慌ただしい動きがみられた。
2月2日付の中国青年報によると、北海艦隊の軍艦3隻は、西太平洋ですべて実弾を使った演習をしている。「実戦に備えた異例の訓練」という艦隊幹部の発言を紹介している。

ただ、1月下旬に習近平(シーチンピン)総書記が、訪中した公明党の山口那津男代表と会談して関係改善を訴えたころ、中国側に変化が現れた。日本政府関係者によると、悪天候以外にはほぼ連日出ていた監視船が途切れがちになった。4隻いた監視船も2~3隻になったという。

軍高官の発言もこうした動きに呼応した。
「中国が自ら進んで海上での紛争を引き起こすことは絶対にない」
戚建国・副総参謀長は1月29日、訪中した米下院議員らとの会談で、尖閣問題を武力ではなく、外交で解決する考えを強調した。

尖閣周辺で日中の戦闘機や艦艇同士の接触事故が起きれば、どうなるか。それが軍事衝突へとつながっていく恐れはないのか……。
日中間で軍事衝突が起きる可能性について、両国の軍事専門家は考え始めている。複数の自衛隊関係者は「短期間の局地戦ならば日本が優勢」と分析する。理由としては、(1)艦艇などの装備が優れている(2)パイロットの飛行時間が中国軍より長く練度が高い(3)米軍との連携などを挙げる。

これに対し、中国国防省国際伝播局の孟彦・副局長は昨年10月、日本側の分析を真っ向から否定する論文を人民日報に発表した。「日本側は中国軍のミサイルの威力を考慮していない」
論文では、両国で海戦になった場合、最初に自衛隊の基地や港をミサイルで破壊して、戦闘能力を失わせる可能性を指摘した。【2月4日 朝日】
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「短期間の局地戦ならば日本が優勢」というのも「本当だろうか?」という感がありますが、“最初に自衛隊の基地や港をミサイルで破壊して・・・”というのは、もはや局地戦のレベルを超えているように思われます。

大国・強国志向をストレートに打ち出したとも言える「中華民族の復興こそが、我々の最も偉大な夢だ」との習近平総書記の発言や、習総書記の政策・思想に大きな影響を与えているキーパーソンとして、【2月4日 朝日】は軍総後勤部政治委員の劉源・上将を挙げています。

なお、“日米に強硬派とされる劉氏は、劉少奇・元国家主席の息子で習氏とは幼なじみだ。”【同上】とのことです。文革で失脚した走資派・劉少奇の息子が軍上層部になっているというのは、外部の人間にはよくわからないところでもありますが、それはともかく、その劉源・上将も事態の鎮静化を図っています。

****軍高官「戦争は最後の選択」=戦略的好機を優先―中国****
4日付の中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は、人民解放軍の劉源・総後勤部政治委員(上将)が行った報告を掲載した。劉氏はこの中で「戦争は軍人からすれば唯一の選択だが、国家から言えば最後の選択だ」と述べ、国家や国民の富強に向けた「戦略的好機」の確保を優先する重要性を訴えた。

劉氏は、故・劉少奇元国家主席の息子で、高級幹部子弟「太子党」に属する習近平総書記とは幼なじみで関係が深い。

軍機関紙・解放軍報は1月14日、党中央軍事委員会主席を兼ねる習氏の指示に基づき、総参謀部が「戦争の準備をしっかりと行え」と全軍に指示を出したと伝えたが、沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐり日中関係が悪化する中で強硬論を打ち消した劉氏の発言掲載は波紋を広げそうだ。【2月4日 時事】 
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争いごとには双方の言い分がありますが、それをもって武力衝突に持ち込もうとする発想は信じ難いものがあります。
常軌を逸しているとも思えますが、こうした好戦的な主張によって現実に一触即発の緊張状態が生まれ、何らかのきっかけで実際に武力衝突にも至る・・・というのは、戦争なんてとんでもないと考えている常識的な人間にとっては、はなはだ迷惑な話です。

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