(1月26日のパレードでお披露目された新型の長距離弾道ミサイル「アグニ5」 この共和国記念日パレードは兵器だけでなく、オートバイのアクロバット走行とか、お釈迦様の山車とかいろいろあって、なかなか面白そうです。 “flickr”より By emkaytsg1 http://www.flickr.com/photos/emkaytsg/8442422922/)
【世界最大の武器輸入国】
インドでは1月26日は共和国記念日ということで、毎年盛大な軍事パレードが行われるようです。
****インド首都で軍事パレード、長距離ミサイル「アグニ5」初公開****
インドの憲法が施行されたことを記念する共和国記念日の26日、首都ニューデリーで大規模な軍事パレードが行われた。軍の近代化のために導入された装備に混じって新型の長距離弾道ミサイル「アグニ5」が初めて公開された。
2012年4月に発射実験に成功したアグニ5の射程距離は5000キロメートルで、中国本土はもとより、欧州の目標にも到達できる。
アグニ5より射程距離の短いアグニ1とアグニ2はパキスタンを念頭に開発されたものだが、その後に作られたミサイルは中国も念頭に置いていた。中国とインドは短期間の国境紛争があった1962年以降、互いへの不信感を抱え、とげのある関係が続いている。【1月28日 AFP】
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インドは建国時よりパキスタンとは因縁の仲で、過去3回の戦争を経験し、今年1月もカシミールで衝突を繰り返しています。
したがって、核兵器開発もパキスタンを仮想敵国としたものでしたが、上記記事にあるように、近年はもっぱら台頭著しい中国を潜在的脅威と意識しているようです。
インドと中国は長い国境線で接し、直接の衝突もありますが、中国がインドを囲い込むようにパキスタン、スリランカ、バングラデシュ、モルジブ、ソマリアなどに戦略拠点を築く「真珠の首飾り」戦略を展開していることに、新興国ライバルとして強い警戒感を抱いています。
最近も、パキスタンの戦略的に重要な港湾都市での中国の権益拡大が報じられています。
****要衝の港湾管理権、中国企業へ=周辺国危惧―パキスタン南西部****
パキスタン政府は1月30日、アラビア海に面する南西部の戦略的要衝グワダルの港湾管理権をシンガポール企業から中国企業に移転することを閣議決定した。
建設当時から多額の投資を行った中国は管理権獲得により、友好国パキスタンへの影響力拡大を狙う。一方、インドなど周辺国は中国による将来の軍港化を危惧、安全保障上の新たな脅威と捉えている。(後略)【2月2日 時事】
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中国の脅威に対抗する形で、インドは軍備拡張に余念がなく、近年では世界最大の武器輸入国となっています。
一方の、中国の方は武器の国内生産も軌道に乗って、輸入から輸出に転じているようです。
****トップ5、すべてアジア=世界の武器輸入国―SIPRI****
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は19日、2007~11年の5年間の武器取引量について、その前の5年間(02~06年)との比較で24%増となり、武器輸入国のトップ5にはインドをはじめいずれもアジアの国が入ったと発表した。
それによると、インドは世界最大の輸入国で全体の10%を占める。2位以下は韓国(6%)、パキスタンと中国(それぞれ5%)、シンガポール(4%)となっている。地域別ではアジア・オセアニアが44%、欧州が19%、中東が17%を記録した。
中国に関してSIPRIは、前の5年間は世界最大の輸入国だったものの、国内軍需産業が力をつけてきたことや武器輸出が増加したことと相まって輸入量が減少していると指摘した。中国の武器輸出量は前の5年と比べて95%増となり、英国に次いで世界6位の輸出国になったという。【2012年3月19日 時事】
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【進行する核兵器開発】
核兵器開発においても、冒頭記事にもある中国全土を射程に収める長距離弾道ミサイル「アグニ5」から、更に多弾頭の新型長距離弾道ミサイル「アグニ6」開発へと向かっています。
なお、“アグニ”とは、インド神話の火神です。
****インド 多弾頭長距離弾道ミサイルを開発****
インドのPTI通信によると、インドのミサイル開発を行う防衛研究開発機構のサラスワット所長は8日、南部バンガロールで記者団に対し、多弾頭の新型長距離弾道ミサイル「アグニ6」を開発中であると明らかにした。所長は、「設計図は完成した。現在、機械設備の具現段階にある」と述べた。
複数の核弾頭を搭載できるアグニ6は、昨年4月に発射実験に成功した中国全土を射程に収める長距離弾道ミサイル「アグニ5」(射程約5千キロ)よりも射程は長いとみられる。
複数の小型核弾頭を小さいロケットのようなものに搭載し、次々にミサイル本体から分離させることで複数の目標への同時攻撃を可能にするMIRV能力を持つという。実際に発射した場合、攻撃力が増すことに加え、迎撃も難しくなる。【2月9日 MSN産経】
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また、原子力潜水艦を想定した海中からのミサイル発射実験も報じられています。
****インド 海中から弾道ミサイル発射に成功*****
インドのPTI通信によると、インド軍は27日、東部ベンガル湾海中から核搭載可能な中距離弾道ミサイルK-5を発射する実験に成功した。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発を進めているインドは、ミサイルそのものの開発はすでに終えていて、年内にも就役予定の国産原子力潜水艦への搭載を待つばかりとされる。K-5の発射実験はすでに10回を超えているという。【1月28日 産経】
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一方、中国の方も“中国国営新華社通信は1月28日、中国国防省が27日に地上配備型の弾道ミサイル迎撃システムの技術実験を国内で行ったと伝えた。詳細は不明だが「所期の目標を達成した」と成功をアピールした。10年以来2回目の実験。昨年12月には独自開発した衛星測位システム「北斗」の運用を始めており、迎撃システムの能力向上も想定される”【1月28日 毎日】
【大気汚染では中国を圧倒?】
このように中国を想定した軍備拡張に邁進するインドですが、社会の抱える問題の多さ、根深さにおいても、中国に負けず劣らずといったところです。
中国は経済成長を優先し、環境対策をおざなりにしてきた結果としての、健康被害にも及ぶ深刻な大気汚染が話題となっていますが、インドの大気汚染はその中国以上だとの報告もあるようです。
****大気汚染、インドが世界最悪=米エール大など132カ国調査****
米エール大などがこのほど、132カ国を対象に行った大気汚染調査で、インドが最下位にランク付けされた。地元有力紙ヒンズーは「わが国の空気は世界で最も有害だ」と1面で報道。国民にも衝撃を与えている。
エール大などは水資源や大気、森林、農業など環境に関連する計10分野を総合的に調査し、国別番付を発表した。インドは総合ランキングでは125位だったが、大気は100点満点中3.73点で最下位。大都市の大気汚染が深刻化しているとされる中国は19.7点で128位だった。【2月6日 時事】
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WHOの調査「Exposure to outdoor air pollution」で都市別に「PM10」エアロゾル粒子の濃度を見ると、インドの最高は北部パンジャーブ州のルディアナ「251」(単位は1立方メートル当たりのマイクログラム)で、首都デリーが「198」、最大の都市ムンバイは「132」。これに対して中国では最高が蘭州の「150」で、首都北京は「121」、上海は「81」ということで、インドの“圧勝”のようです。
(【2月6日 Blog vs. Media 時評(http://blog.dandoweb.com/?pid=1094) 団藤保晴氏】より)
【人権意識の希薄さでもいい勝負】
また、中国の人権問題については枚挙にいとまがないところですが、この方面でもインドは負けていません。
****避妊手術した女性を次々野外に放置、インドの病院****
インド・西ベンガル州で、一斉に避妊手術を受けた多数の女性たちが、病室の空きがないとの理由で意識のないまま野外に放置される事件が発生した。同州保健当局が7日、明らかにした。
女性たちは全員、同州マルダ県にある1か所の病院で避妊手術を受けたが、この病院には多数の患者を収容する施設がなかったという。
事件は、インドのニュース専門局NDTVが放映した視聴者の撮影映像で発覚した。5日に撮影されたこの映像には、意識のない女性が男性数人によって病院から運び出され、野外に横たえられる様子が写っていた。
AFPの取材に応じた同州保健当局のランジャーン・サトパティ局長は「貧困層を中心とする100人を超える女性が避妊手術のために訪れたが、医師らは手術が終わった女性から直ちに隣の野原に移動するよう助手たちに命じた」と語った。
地元の保健当局者たちは揃って、患者の扱いとして許しがたい行為であり調査を行うと約束した。また、106人もの女性の避妊手術を4人の医師が1日で行った病院のあり方に対し、医療関係者の間には衝撃が広がっている。
中国と異なり、インドには1家族の子供の数を制限する法律はない。しかし国民人口が10億人を超す中、自動車や電化製品といった「報奨品」と引き換えに、避妊手術を自発的に受けるよう地方自治体が各家庭に促す例が少なくない。【2月8日 AFP】
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「報奨品」と引き換えに貧困層女性を避妊手術に集め、処置後に次々に野原に移動して放置・・・、本当に“自発的”だったのかも怪しいところです。
こうした問題は別にインドや中国に限ったことではなく、多くの国々でもっと悲惨な話は多々あります。ただ、両国が“大国”として世界をリードしたいのであれば、“よくある話”ではすまされません。
軍備拡張、核兵器開発、世界戦略でしのぎを削るインド・中国ですが、社会の抱える問題点の改善においてこそ競って欲しいものです。まあ、いくら言っても聞く耳は持たないでしょうが。