(2月11日、フィリピン南部ミンダナオ島で、反政府武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)のムラド議長(左)と会談するアキノ大統領(右) 【livedoor News】http://news.livedoor.com/article/image_detail/7400455/)
【包括合意に向けて「3月中にまとめられるだろう」】
イスラム系反政府武装勢力の活動が続いているフィリピン・ミンダナオ島の情勢については、昨年12月6日ブログ「フィリピン・ミンダナオ 台風被害で死者470名超、更に拡大も 難航する和平交渉」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121206)で、自治政府設立に向けた「枠組み合意」が成立したこと、ただし、具体策については今後の交渉次第で難航もよそうされることを取り上げました。
その後の交渉は進展しているのか、政府側からは3月の「包括合意」の見通しが報じられています。
****3月にも包括合意 ミンダナオ和平で政府側見通し****
フィリピン南部ミンダナオ島を拠点とするイスラム系武装組織と政府の和平交渉で、政府側団長を務めるミリアム・フェレール氏が7日夕、マニラで朝日新聞記者と会見し、武装解除のプロセスなどを定めた「包括合意」を3月までに実現できるとの見通しを示した。
政府と武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)は昨年10月、イスラム系住民が自治政府を設置する枠組み和平案に合意。和平の次の段階として、天然資源の開発や税の配分、MILFの武装解除の進め方など具体的な内容については、別途明記した四つの付属文書に基づく包括的な合意を目指している。
フェレール氏は、交渉を仲介するマレーシアで昨年11月以降3回開かれた交渉を経て、付属文書のうち、自治政府への移行方法などを定めた文書の原案がまとまったことを明らかにした。
また二つの文書(「権限移譲」と「財の移譲」)で定める自治政府への予算割り当てや天然資源の利益配分などで意見の相違があるものの、「今月の協議で歩み寄りできるだろう」との楽観的な見通しを示した。
一方、「正常化」と題する第4の文書では、武装解除や兵士の警察への編入、紛争被害者や兵士への補償、私兵の扱いなど、多くの懸案が残っていることを認めた。フェレール氏は「双方とも和平に向けてこの機会を逃してはいけないとの思いが強い。移行スケジュールやロードマップを含め、3月中にまとめられるだろう」と自信を見せた。【2月9日 朝日】
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自治政府への予算割り当て、天然資源の利益配分、武装解除や兵士の警察への編入、紛争被害者や兵士への補償、私兵の扱い・・・・どれひとつとっても難題で、アキノ政権側の“楽観見通し”にはやや疑問も残ります。
前回ブログでも取り上げたように、最終的には改憲が必要ではないかとの問題もあり、そのあたりがどのようにクリアされたのか定かではありません。アロヨ前政権でも、最高裁の“違憲判断”で合意が破綻した経緯があります。
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・・・・アキノ政権は細部を詰めないままに和平合意としていて、特に2016年までに創設される予定の自治政府『バンサモロ』に関して、円滑な自治政府設立には改憲が必要とMILF和平交渉団長のイクバルから指摘がなされている。
しかし前アロヨ政権時代に一度は認めた自治政府設立がその後の最高裁で現行憲法に『違反』するとの判決が下された経緯があって、MILFの望むような形では、再び最高裁による違憲判決が出る可能性がある。
改憲に対しては根強い反対論が議会、カトリック宗教界、世論の中にあって1992年~1998年のラモス政権以来、議論は止まったままである。
これに対してアキノ政権は柔軟に対応すれば改憲をしなくても合意履行は可能と当てのない楽観論を展開するのみで実現性の薄さに危惧を持たれている。・・・・【2012年11月12日 フィリピン・インサイドニュース】
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アキノ大統領は、合意に向けた流れを加速させるべく、ミンダナオを訪問しています。
****和平交渉加速呼び掛け=ミンダナオ訪問―比大統領****
フィリピンのアキノ大統領は11日、反政府武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)の勢力圏である南部ミンダナオ島マギンダナオ州を訪問し、最終和平に向けた交渉の加速を呼び掛けた。
フィリピン政府とMILFは2012年10月、イスラム系住民による自治政府を16年に設立することを目指す和平の「枠組み合意」文書に署名。しかし、天然資源の開発に伴う利益配分やMILFの武装解除などについては協議が続いている。
AFP通信によれば、アキノ大統領は自治政府設立まで3年余りしかないと指摘した上で「恒久的な平和をもたらすために、今行っている全てを加速しなければならない」と語った。【2月11日 時事】
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“楽観見通し”が現実となるように期待します。
なお、ミンダナオ島などフィリピン南部には、モロ・イスラム解放戦線(MILF)以外に、アルカイダと連携する過激イスラム武装組織アブ・サヤフが存在しています。
【警告を無視してサンゴ礁海域に進入、座礁】
フィリピンの対外的な面での話題としては、アメリカ掃海艇の座礁事件が注目されています。
あろうことか、アメリカ掃海艇がフィリピン側警告を無視して世界遺産のサンゴ礁に突っ込んだあげく座礁、フィリピン側の怒りをかっている・・・というものです。
かねてより、中国の南シナ海での領有権主張に対し、フィリピンはアメリカを後ろ盾とする形で、ベトナムと並んで強硬な姿勢をとっていますが、そのアメリカとの関係に影響しかねない事件です。
****世界遺産のサンゴ礁に米軍艦が座礁、「警告を無視」とフィリピン激怒****
世界遺産に登録されているフィリピン沖のトゥバタハ岩礁海洋公園内で、米海軍の掃海艦がサンゴ礁に乗り上げ、前週から身動きが取れなくなっている。フィリピン当局は21日の記者会見で、座礁した掃海艦が公園側の警告を無視してサンゴ礁のある海域に進入したことを明らかにした。
座礁したのは、米海軍第7艦隊に所属する掃海艦ガーディアン(全長68メートル)。米海軍によると事故当時、マニラ北部を出航しインドネシアに向かっていた。
トゥバタハ岩礁海洋公園を管轄するフィリピン政府のアンジェリク・ソンコ担当官によると、公園保護官らは17日、ガーディアンに無線で同艦がトゥバタハのサンゴ礁に接近していると知らせた。ところが、ガーディアンの艦長は米大使館に苦情を申し立てると反発。ほどなくガーディアンはサンゴ礁の一部に乗り上げ座礁したという。この事故について米海軍は謝罪したが、フィリピン国民は怒りを募らせているという。
フィリピン西部パラワン島の南西130キロ沖のスル海に広がるトゥバタハ岩礁海洋公園は、ユネスコの世界遺産に登録されており、フィリピン政府は当局が承認した研究および観光を除いて立ち入りを法律で禁止し、サンゴの礁の保護に努めてきた。
ソンコ担当官によると米海軍には罰金が科せられる見通しだが、座礁したままのガーディアンは大波を受けて揺れており、サンゴ礁への損傷がどの程度になるか、罰金が幾らになるかは現時点では不明という。【1月21日 AFP】
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フィリピン大統領報道官は、この問題でアメリカ政府に損害賠償を請求したことを発表していますが、基本的には“事態を静観”しています。
フィリピンとアメリカは合同軍事訓練を行い、南シナ海問題でも共同歩調をとっていますが、冷戦終結後、ナショナリストを中心とする反米感情の高まりもあってフィリピン国内のクラーク空軍基地とスービック湾の海軍施設が撤去されたように、アメリカに対する感情は微妙なものがあります。
今回事件は、反米的なナショナリストだけでなく、環境保護団体・一般市民・地元政治家を含んだ広範な層の怒りをかっているとのことです。【2月12日号 Newsweek日本版より】