(ブズカシは、“2組の騎馬隊がヤギをボール代わりにして奪い合う競技で、アフガニスタンの国技”“もともと、生きたヤギを引き回していたが、後にヤギの皮に砂を詰め、使うようになった”【ウィキペディア】とのことです。アフガニスタンらしいワイルドな競技ですが、スポーツ・音楽・娯楽などを禁じるタリバン統治下では禁止されました。写真は“flickr”より By tlehtonen@yahoo.com http://www.flickr.com/photos/tlehtonen/6522279495/)
【「治安責任を引き継ぐアフガン政府の能力に沿った決定」】
「14年末までの国際部隊撤退」というスケジュールに沿って、アメリカのアフガニスタン撤退が具体化しつつあります。
オバマ大統領は12日の一般教書演説で、アフガニスタン駐留米軍を2014年の初めまでに3万4000人撤退させ、現在の駐留米軍6万6000人を約半分に縮小することを表明しています。
アフガニスタン政府もこの撤退計画を一応歓迎しています。タリバンは、もちろん「アメリカは今すぐ出ていけ」ということで不満を見せていますが。
****米撤退計画を「歓迎」=タリバンは不満表明―アフガン****
アフガニスタン外務省報道官は13日、オバマ米大統領がアフガン駐留米兵の約半数に当たる3万4000人を今後1年間で撤退させると表明したことについて「治安責任を引き継ぐアフガン政府の能力に沿った決定であり、歓迎する」と述べた。
報道官はまた、国際部隊からの治安権限移譲が完了する「2014年末以降もアフガン部隊が全土で完全に治安を守れると確信している」と自信を見せた。ただ、アフガン治安部隊は現在35万人規模まで増加したものの、個々の能力は国際部隊に及ばない上、12年には治安部隊員が仲間の国際部隊を襲撃する事件が相次ぐなど組織統制の脆弱(ぜいじゃく)さも露呈。本格的な治安維持能力の獲得には時間を要しそうだ。
一方、反政府勢力タリバンの報道官は取材に「速やかにアフガンを去り、占領に終止符を打つべきだ」と即時の全面撤退を要求、段階的な撤退計画に不満を示した。【2月13日 時事】
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アメリカで1月11日に会談したオバマ、カルザイ両大統領は、治安維持の主導権を、今年半ばの予定を前倒しして今春にアフガニスタン側に移譲することと確認、権限移譲を加速させています。
【刑事訴追免責を巡る米アフガニスタン間の確執】
しかし、能力的に未だ問題が多いアフガン治安部隊の教育・訓練のために、14年末の撤退後もある程度の規模の国際部隊は残留しますが、この点に関してはアメリカの方針決定が遅れています。
一番大きな原因は、米軍の犯罪をアフガニスタン国内法で裁かないという刑事訴追免責を巡る問題です。
アメリカ側は免責が絶対条件としていますが、アフガニスタン・カルザイ大統領は「アフガニスタンの主権や法が侵害されない形」を要求しています。
****アフガン:国際部隊編成、暗礁に 米国の方針決定遅れ*****
北大西洋条約機構(NATO)が14年末に撤退を完了した後、アフガニスタン国軍の教育・訓練を担当する国際部隊の編成作業が暗礁に乗り上げている。
21日開幕したNATO国防相会議で訓練部隊の大枠を決める予定だったが、米国の方針決定が遅れ延期になった。背景にはアフガンと米国間の安全保障協定の締結遅れや、展開規模・地域を巡る米大統領と軍、NATO諸国間の意見対立がある。
NATOでは今年6月にブリュッセルの本部で「ミニ首脳会議」を開き事態を打開する案も浮上している。
NATOは昨年の首脳会議で15年以降も教育・訓練部隊を担うことで合意。オーストラリアやスウェーデンなどNATO以外の10カ国も参加を検討中だ。
しかし、部隊の半分を担う米国の方針が決まらず、NATO国防相会議での枠組み決定を見送った。ラスムセン事務総長は21日、「数カ月以内に決める」と話し、パネッタ米国防長官も21日、加盟国に来年2月までに決めるとの意向を示した。
背景には、米兵の刑事訴追免責を巡る米アフガン間の確執がある。両国は、駐留米軍の地位を定める安全保障協定を協議中だが、米側がアフガン国内法による米兵の訴追を免責する条項を盛り込むよう要求。アフガン側が拒み、難航している。
イラクでは刑事免責で合意できず、11年に米軍が完全撤退している。NATO高官は「免責はアフガンの主権の核心。協議は極めて困難で時間がかかるが、今年半ばまでの解決を期待する」と話す。
また、財政難から駐留規模を抑えたい米大統領側と、治安の混乱を憂慮し規模を大きくしたい米軍側の意見対立も残る。オバマ大統領は今月の一般教書演説で、約6万6000人の駐留米軍を今年末までに3万4000人削減することは表明したが、15年以降の数字は言及しなかった。
NATOでは訓練部隊を2万人規模にし、半分を米軍が担う案が有力だが、米国次第で大きく左右される。
NATO内では、訓練部隊を首都カブールに集中させる案と、地域での拠点を維持する案の対立もある。【2月21日 毎日】
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刑事訴追免責を巡る問題は、なかなか厳しいと思われます。
日本でも、沖縄駐留米軍の事件で日米地位協定がしばしば大き政治・社会問題となります。
まして、アフガニスタンは民間人を巻き込む事件が容易に起きうる準戦時下の状況です。
アフガニスタン側からすれば、当然に“主権の問題”です。何か問題が起きたとき国民感情を逆なですることになります。そうでなくても、主権を譲り渡したとタリバンなどからの批判を浴びます。
アメリカ側からすれば、自国兵士がアメリカの手の及ばないところで裁かれるというのは国内的に容認できないところでしょうし、独自の判断による軍事的作戦も遂行できないということにもなります。
上記記事にもあるように、イラク撤退時にはマリキ政権との協議が結局整わず、アメリカ側は完全撤退することになりました。
誤爆などの民間人犠牲者が多く出ている現状から、アフガニスタン・カルザイ大統領は、当時のイラク・マリキ政権以上にアメリカの行動に批判的です。そこがアメリカの気に入らないところでもありますが。
ただし、一応は反政府勢力の大規模活動は抑えられていたイラクと異なり、アフガニスタンはタリバンが反政府勢力として未だ存在しており、アメリカの後ろ盾を必要とする度合いもより大きいと言えます。
国内世論向けに“主権”をアピールする必要性と、軍事的な米軍の必要性の兼ね合いの問題になります。
政治スケジュール的にも、カルザイ大統領が退任して2014年4月には次期大統領選挙が実施されという微妙なところです。
カルザイ大統領は米軍などによる誤爆について、かねてより厳しい批判を行っていますが、ISAFへの空爆要請を禁じるとの方針も出されています。
****誤爆続く支援部隊にアフガン大統領「空爆禁止」****
アフガニスタンのカルザイ大統領は16日、旧支配勢力タリバンの掃討作戦に従事するアフガン治安部隊に対し、後方支援として国際治安支援部隊(ISAF)に空爆を要請することを禁じる考えを表明した。
首都カブールの国軍士官学校で講演し、「いかなる状況下でも外国軍の戦闘機に我々の民家を爆撃させるような応援要請は許さない」と述べ、大統領令を出す意向を示した。
ISAFの戦闘機による誤爆は後を絶たず、12日にも東部クナール州で子供や女性を含む市民10人が死亡した。ただ、現実問題としてアフガン治安部隊はISAFの空爆に大きく依存しているとされ、応援要請が禁じられれば作戦への影響も避けられない。【2月17日 読売】
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アフガニスタン治安部隊だけの作戦行動がどこまで可能なのか・・・疑問も残るところですが、タリバン側が弱体化してきているのに対し、装備的にも勝り、米軍等の訓練成果もあってアフガニスタン治安部隊の実力は増している・・・との見方もあるようです。
駐留規模については、アメリカ国内の厭戦気分と財政難から、オバマ政権としては小さく抑えたいところでしょう。
オバマケアもあって、アメリカの医療保険支出は今後10年間で倍増すると見られています。増税でカバーできる余地は限られていますので、巨額の国防費を削るしかないところでしょう。
軍部・共和党がどのように反応するか・・・。
【「この国では有名になると命を狙われる」】
話は変わりますが、アフガニスタンで撮影された短編映画がアカデミー賞にノミネートされ、主役を演じたアフガニスタンの少年がアメリカ市民の寄付金によってアメリカへ招待されるという“心温まる話”が話題になっています。
*****アカデミー賞:実生活もとに演じたアフガン少年、表彰式に*****
アフガニスタンで撮影された短編映画「ブズカシ・ボーイズ」が今年のアカデミー賞短編実写映画賞にノミネートされ、主演のファワド・ムハンマディさん(14)が24日に米ハリウッドで行われる授賞式に参加する。実生活をもとにカブールの路上で地図を売って生活する貧しい少年を演じた。対テロ戦争の現場からレッドカーペットを踏むことに「言葉にできないほどうれしい」と語った。
ムハンマディさんは学校の7年生(日本の中学1年に相当)。5年前に父を病気で亡くし、路上での物売りで8人家族の生計を支えている。その様子が米国人のサム・フレンチ監督の目に留まり、起用された。(中略)
外国旅行は初めて。市民団体がインターネットで呼びかけ13カ国の237人から計1万ドル(約93万円)以上の寄付が集まり実現した。20日、ロサンゼルスの空港に到着したムハンマディさんはフレンチ監督の出迎えを受け、「(アクション映画)ランボーに出たシルベスター・スタローンに会いたい」と笑顔を見せた。
映画が昨年公開されて以降、地図を買ってくれる人が増えたという。「でもこの国では有名になると命を狙われる。カブール郊外では(旧支配勢力)タリバンが今でも支配し、夜間は出歩けない」と不安ものぞかせた。【3月22日 毎日】
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TVニュースでちらっと観たところ、彼が路上で売っている地図は世界地図のように見えました。アフガニスタンの路上で世界地図が売れるのか、ちょっと心配にもなりました。いろんな地図を扱っているのでしょうか。
“心温まる話”はともかく、「でもこの国では有名になると命を狙われる。カブール郊外では(旧支配勢力)タリバンが今でも支配し、夜間は出歩けない」という言葉がアフガニスタンの現状であり、心に残るところです。