原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

インフルワクチン過剰発注が招いた巨額損失

2010年07月01日 | 時事論評
 どうも昨夏発足した民主党新政権は、我が身にとって不利な情報に関してはメディアに対して報道規制をして、国民が忘れ去ってくれるのを待っているのかと疑いたくもなる。


 昨年春より冬にかけて流行した「新型ブタインフルエンザ」“大騒動”に関しては、国民の皆さんにとっても記憶が新しい事と思うのだが、年明け以降の急速な流行沈静化と平行してワクチン接種者も激減し、現在に至っている。

 前自民党政権の時代に厚労省大臣であった舛添氏より大臣を引き継いだ新政権厚労省大臣の長妻氏は、新型インフルエンザ対策に関して“人命にかかわる事態”との故に、大臣就任直後に自らの政策が何らないまま真っ先に舛添氏の“大騒動”対策方針をそのまま受け継いでしまったことについては、国民の皆さんもご承知であろう。

 この厚労省内部での大騒ぎとそれに連動したメディアの報道に火をつけられた国民が、昨秋以降我先にとインフルワクチンを求め医療機関を受診した事態を統制することのみに当初は奔走し、ワクチン接種の優先順位の決定に躍起になっていた厚労相である。
 その一方で、自らが煽った国民のワクチン需要に応えるべくその供給量を確保せんとして国内の製薬会社に対しワクチン製造を急がせると共に、海外からのワクチン入手を焦り続け不必要まなでの膨大な量のワクチンを輸入するに至ったのである。
 ところが厚労相の思惑とは裏腹に、年明けと共に新型インフルエンザ自体が世界的に流行終焉の兆しを見せはじめ、それに伴いワクチン接種希望者も激減したという事の次第である。


 さてさてそうなると、当然ながら“大量”の新型インフルワクチンが国内に余っている計算となるのだが、国民の皆さん、その余剰量がどれ程の規模であるのかをご存知であろうか?

 元々医学関係者である私は、いつかはこの話題を「原左都子エッセイ集」において記述し、厚労相の大失策を公開しようと虎視眈々と狙っていたのである。 
 ところが、あれ程の馬鹿騒ぎとも言える“新型インフル失態”を行政自らが演出して国民の不安を不必要に過大に煽っておきながら、今となっては新型インフルに関する報道が皆無であり情報収集に苦慮していたのだ。

 そうしたところ6月29日の朝日新聞記事において、新型インフルワクチン余剰に関する記事をやっと発見した。
 その報道によると、新型インフルワクチンは日本の人口よりも多い 計1億3千万人分! もの大量が余る見込みとなっているとのことである。  何故にこれ程の大量のワクチンが余剰しているのかを説明すると、当初一人に2回接種する方針だった厚労相がその量を確保する事に躍起になったからである。 その後、大人は1回接種で済む、やれ2回だ、はたまた1回だと転々とした挙句の果てに、新型インフル自体の流行が終息を向かえる事態と相成ったのだ。

 ついでに言うと、一体どれだけの国民がワクチン接種したのかと言うと、結局今年4月時点でわずか 約2283万人 に留まったとの情報である。  医学的知識のある私(及び我が家族)は当然ながら誰も接種していないのだが、国民の8割以上が良識的な判断をして不必要なワクチン接種を回避した結果に、私など胸を撫で下ろす思いである。

 諸外国においても同様の様相であったようだ。
 例えばフランスにおいても、「ワクチンの後遺症に関する情報が明らかにされない以上ワクチン接種は拒否したい」等の国民の意思により、国民のワクチン接種率は低迷したとの情報もある。

 ワクチンの使用期限はわずか1年。
 そうなると、厚労相が無駄な歳費を費やして諸外国から焦って取り寄せた余剰ワクチンが大量に廃棄処分される訳であるが、その損失額たるや一体いくらなのか推測できるであろうか?
 上記朝日新聞の報道よると、一応国は輸入ワクチンに関して製造企業と解約の交渉をしてきているらしい。 それでも、解約違約金の支払い等も含めて 約853億円 の損失が計上されるとのことである。 
 しかも国内産はじめ輸入ワクチンの解約分を除外した在庫がまだ5千万人分ほどあるとの、信じがたい報道である。 これを今秋以降の第二派新型インフルエンザの予防策として投与することをWHO(世界保健機関)をはじめ国内の医療専門家も示唆しているとの報道である。 まるでディスカウントストアのバーゲンのごとく期限切れに近い“余りもの”を供給しようとの事実が医学という人命を預かる分野において存在する実態が許されてよいのかどうか、複雑な心境の原左都子である。
 しかもインフルエンザワクチンは元々その有効性が疑われるのに加えて、ウィルスとは変異する性質があるため、昨年のワクチンの今年の新型インフルに対する有効性はより怪しいはずである。

 
 国内外製薬会社はじめ医学関連企業においては、自由競争原理の下、新たな医学的需要に即応した医薬品やワクチン等の製造開発が優先される現状である。
 片や、厚労相にとって医師会とのつながりとは強靭なものがあるのが実態であろう。
 そしてまた、医学とは至って専門性が高く“人命”を預かっているという特殊な事実を備えているため国政にとって物申しにくい分野であるが故に、たとえ厚労省大臣と言えども医学的諮問機関の判断に一任せざるを得ない事情もあるのかもしれない。 ここには、必然的に大いなる癒着が成り立ちやすい構図が存在するのだ。

 それにしても、今回の厚労省の新型インフルワクチンの800億円を超過する損失計上は何ともお粗末な事態である。 
 少なくともこの種の失策を国民に隠しおおしてはならず、公表するべきである。 公表して世の議論を呼ぶことにより、厚労相が自らの利害関係に基づき指名した医学諮問機関のみに判断を依存するよりもっと高度なアドバイスが可能な機関や人材が、この国にはいくらでも存在するはずと私は見るのだが…。
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