原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

法の適用と解釈(その2)

2008年01月06日 | 左都子の市民講座
今回は“左都子の市民講座”「法の適用と解釈」の後半、「法の解釈」について解説しよう。



Ⅱ 法の解釈


 ①法の解釈とは?

   法文の意味や内容を明らかにすること。
   具体的事実に対し、法を適用するときにその解釈が必要となる。

 ②法の解釈の意義

  ○抽象的表現の具体化、明確化
    例:民法1条の3「私権ノ享有ハ出生ニ始マル」
       では、「出生」とはいつなのか? 学説は分かれる。
        ・陣痛開始説
        ・一部露出説 ← 刑法の通説
        ・全部露出説 ← 民法の通説
        ・独立呼吸説 
     ※ 刑法においては人名尊重の観点から「出生」を早期に解釈するのが
       通説の立場
       胎児であるか、人であるかにより適用される条文が異なり、刑罰の
       重さが異なってくる。 → 人を殺した場合は殺人罪
                      胎児を人工的に流産させた場合は堕胎罪

  ○法律の非流動性と社会現象の流動性とのズレを埋める
    法 … もともと最高に強力な社会規範
         この最高に強力な社会規範が流動的であったならば、人々は
         何を基準に生きてよいのかその方向性を見失ってしまう。
         そこで法とはそもそも非流動的な存在である。
        解釈により非流動的な法と流動的な社会現象とのズレを埋める。


 ③解釈の方法

  ★有権解釈
    国家の各機関により与えられる解釈

  ★学理解釈
    学理に基づいて法文の意味を明らかにする解釈

   A.文理解釈
     法文の文字や語句の意味、及び法文を文法に基づいて明らかにする解釈
     文字通りに解釈すること
      欠点:融通が利かない。
         杓子定規な解釈となり、法の目的が損なわれることもある。
          例:“車馬通るべからず”
             本来の意味は“乗り物は通ってはいけない”
             これを車と馬は通ってはいけない、と解釈するのが
             文理解釈。

   B.論理解釈
     法文の文字や語句にこだわらず、論理体系的に解釈すること。
     すなわち、法の制定の目的、他の法令との関係、法典全体の組織、
     社会現象の変化、その他を考慮して解釈すること。
     法的安定性、法的妥当性、論理一貫性、具体的妥当性を追求しながら
     解釈すること。

    a.拡張解釈
      文字や語句の意義を、それが本来もつ意義よりも拡げて解釈すること
       例:刑法第129条1項にガソリンカーも含めた例
          刑法第129条は汽車、電車、艦船について定めた条文であ
          るが、これにガソリンカーも該当すると拡張解釈した。
                 ↓
       ただし、刑法における拡張解釈は人権侵害に結びつく危険性あり
                 ↓
       なるべく避けるべきというのが通説。
       学説によっては刑法における拡張解釈を禁止する説もある。

    b.縮小解釈
      文字や語句の意義を、それが本来もつ意義よりも縮めて解釈すること
       例:民法第86条と刑法第235条の財物との関係
          民法第86条においては物を不動産と動産と定義しているが
          刑法第235条の財物には不動産は含まないと解釈する。

    c.反対解釈
      法文が規定している事項の反面から、法文に規定されていない事項を
      理解して解釈すること

    d.勿論解釈
      法文にはっきり定められていない事項でも、法文の趣旨からしてその
      法文中に含まれるのはもちろんであると解釈すること

    e.類推解釈
      よく似た事項A、Bにつき、Aに規定がありBに規定がない場合に
      Aの規定をBに適用して解釈すること
       例:“車馬通るべからず”
           牛も通ってはいけないと解釈する。
      
      刑法における類推適用の禁止
       = “罪刑法定主義” の原則に反する
            司法権の立法権への侵害となる。 

   C.目的論的解釈
     法は一定の目的をもって制定されているから、その目的に合うように
     解釈すること
      例:民法第739条と内縁関係について
         婚姻は戸籍法の定めることろによりこれを届け出ることによる           
          と定めているが、判例は内縁関係を婚姻に準ずる関係と認めた。

  ★利益衡量論 (新しい解釈法、帰納的方法)
    結論が先にあり、それに基づき法律構成をする、という考え方
    論理的解釈よりも、実務家の勘による。
     (実務家はその実務経験により、極端に言うと、どちらが善でどちらが
       悪かが直感で判断できることもあるらしい。その判断力でとりあえず
      結論を先に導いておいて、後から法律構成をするという方法。)
      
     欠点:制定法規範を無視する恐れがある。
             ↓
        法の秩序が危険にさらされる恐れがある。
    法適用の際のひとつの手段としてこの方法を用いるならば妥当性はある。