四方波(よもなみ)署の刑事課では、ああでもない、こうでもないと状況調べが続いていた。謎を秘めた事件まがいの一件で、捜査員達を梃子摺(てこず)らせていたのである。
「害者が右折したときは晴れていたんだったね?」
「ええ。そのときは、ですが…」
「辺(あた)りに誰もいないのに押し倒されたと…」
「はい。目撃者がいないですから、誰もいなかったことになりますね」
「太陽に目が眩(くら)んで倒れたとも考えられる…」
「はい。ただ、その日は風が強かったですね」
「強い風に押し倒されたか…」
「はい。ただ、害者は背中に衝撃があったとも言ってます」
「なるほど、風に押し倒されたのなら衝撃はないな…」
そのとき、刑事が一人、署へ戻(もど)ってきた。
「警部、害者の意識が戻り、証言が取れました。太陽は雲に隠れたそうです」
「そうか…」
「ところが、風が強かったようで雲は風に吹き飛ばされたんですよ」
「まあ、そうなったのか…」
「はい。また太陽が害者を眩(まぶ)しくさせたのですが、幸い右折した壁が日差しを止めたんです」
「だったら押し倒されないじゃないか」
「はい、そうなります。しかし、そのとき風で近くの家の植木の枝が飛んだようです」
「その枝は?」
「現場から少し離れたところにあることはあったんですが…」
そこへまた、一人の刑事が現れた。
「科捜研の話ではその枝の折れた痕跡ですが、ネズミに齧(かじ)られた跡があったと…」
「犯人はネズミか?」
「齧られはしていたんですが、そのときの枝は折れていなかったようです」
「となると、やはり風が犯人か…」
話は童話のような話となり、事件まがいの一件として立ち消えた。
完
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