水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-15- 悴(かじか)む

2018年02月19日 00時00分00秒 | #小説

 冬の冷気(れいき)は手足を凍(こお)らせる。身体(からだ)が冷え、思わず、ぅぅぅ…と、泣けるような痛みが手足を襲う。これが悴(かじか)む・・という注意信号で、身体がなんとかさせよう! としているのだ。放っておけば、痛みは失せ、悴みも消えるが、これはもう、注意信号を超えた危険信号で、冷気による細胞の壊死(えし)が始まっていることになる。まさに、ぅぅぅ…と、あとから泣ける状態になるのだから怖(こわ)い。悴む手足を温(あたた)めようとストーブなどの暖房器具に近づけると、冷えは消え心地(ここち)よくなる。が、暖め過ぎると、今度は血行がよくなり、痒(かゆ)くなってくる。ボリボリと掻けば、皮が剥(は)がれ炎症となるから厄介(やっかい)だ。
 羽柴(はしば)議員の主席秘書を務(つと)める村雲(むらくも)は、朝から羽柴に怒られ、身体が悴むように萎縮(いしゅく)していた。
「もう少し頭を使いたまえっ! 普通常識だろうがっ!!」
「どうも、すいません…」
 頭を下げてみたものの、村雲には怒られた意味が分からなかった。だが、ここは謝(あやま)っておくに限(かぎ)る…と反射的に頭を下げたのだった。
「私がスキ焼のネギ好きだとは、君もよく知ってるはずだっ! それに、よりにもよって、玉ネギとは…」
 村雲は何を勘違いしたのか、長ネギではなくタマネギを多量に買ってきたのだった。肉好きなら分かるがなぁ~…と思いながらネギを買い、頭が回らなかった・・ということもある。
 鍋(なべ)に大量のタマネギが放り込まれ、スキ焼がグツグツと美味(うま)そうに煮え始めた。白滝(しらたき)、菊菜(きくな)、少しの安い牛肉、大量のタマネギ・・見た目はともかくとして、それなりに美味いのか、羽柴は何も言わず箸(はし)を進める。
「おいっ! もっと食えよっ!」
「はっ! 有難うございます…」
 村雲は、また何か言われはしまいか…と疑心暗鬼に陥(おちい)り、悴む思いで箸が全然、進まない。グツグツ煮える熱い鍋、益々、冷える村雲の悴む心・・両者が羽柴の前で相対的な構図を見せていた。

                                  完


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