水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (97)味(あじ)

2020年07月20日 00時00分00秒 | #小説

 味(あじ)という言葉も料理以外でいろいろと遣(つか)われる言葉の一つだ。時代劇の中の悪役が「ふんっ! なかなか味な真似(まね)をするじゃねぇ~かっ!」などと苦(にが)み走った顔で嘯(うそぶ)くが、その味である。^^ 囲碁なんかでも、「なるほどっ! なかなか味のあるいい手ですね…」などと大盤解説者が褒(ほ)める遣われ方もある。孰(いず)れにしろ、味を忘れると、今一つになってしまうから、味は全体を盛り上げる重要な隠し味の役割を担(にな)っていると言えるだろう。誰だって「ったくっ! 味も租(そ)っ気(け)もねえ奴(やつ)だっ!」と言われたくはないし、「味のある、なかなかいい奴だっ!」と陰(かげ)で言われた方がいいに決まっている。^^
 とある料亭の厨房(ちゅうぼう)である。
「板さん! そろそろお見えになる頃だよっ! 支度(したく)して、おくれでないかい?」
「へいっ! 女将(おかみ)さん。大方(おおかた)は整っておりやすっ! あとは若いのに任せた汁物(しるもの)だけで…」
「味は大丈夫なんだろうね? なにせ、舌の肥えた中央政界の先生方ばかりだからねぇ~」
「万一、ってこともありやすから、あっしも、こさえてはおりやすが…」
「なんだいっ! それを早く言っておくれでないかっ! なら、安心ですよっ、ほっほっほっ…」
 花板にそう言うと、女将は安心し、笑みを浮かべて奥の間へと消えた。
 味は、そう容易(たやす)く完成できるものではなく、長年の熟成を必要とするのである。その味を入れ忘れると、全体の組織の信用に係わることになる訳だ。^^ 
  
                              


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