『僕もそう思うんですが、その謂(いわ)れまでは分かりません…』
「物知りの小次郎にしては珍しいわね」
『はい! なにぶんにも、僕が生まれる前の大先輩ですから…』
「なるほど、かなりの古株なんだな」
里山は両腕を組んだ。
「お腹(なか)が空(す)いたでしょ? 今日は猫缶にしたわよ」
『そういえば…。ハプニングで、すっかり忘れてましたよ』
小次郎は口の髭(ひげ)を震わせ、ニャニャっと笑った。猫も笑うのである。ただ、人間から見れば、その表情は平常時と余り大差なく、分からないのだ。
小次郎がキッチンの隅(すみ)で食べ始めると、その姿を見ながら里山が語りかけた。
「タコといい海老熊(えびくま)といい、みぃ~ちゃんも大変だな」
『海老熊は、みぃ~ちゃんを知らないはずです』
小次郎は食べるのを止め、口元を舌舐めずりしながら返した。
「ああ、そうか…。俺には猫事情は分からんからな。さあ! 早く食べて、寝ろよ。明日は早いからな」
『ああ、新聞社でしたね』
「インタビュー記事だから、早く済むと思うが…」
里山はソファーから緩慢(かんまん)に立ち上がり、両手を広げて身体を解(ほぐ)しながら首を左右に振った。
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