水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 代役アンドロイド 第218回

2013年06月01日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第218回)
「なにかありましたら…」
 若い家政婦を下がらせたあと、トメも語尾を濁しすように呟くと応接室から消えた。保としてはこの手下が少し厄介に思えた。
「じいちゃん、先っき、沙耶さんが言ったことだけどさ…」
「ああ、三井のことじゃろう。実はのう、まだ勝(まさる)達には言っとらんのだ。じゃから、知っとるのは、わしと里彩だけでな。…それとお前達だ」
「そうか…」
 保は三井がアンドロイドであることを知らない態にした。
「まあ、そんなことじゃ、ホッホッホッホッ…。それでな、お前も黙っといてくれんか。他の者にはわしが言うでのう」
「ああ…。それはいいとして、三井さんは離れにいるんだろ?」
「そうじゃが…。食事は外食させておる」
「ふ~ん、そうなんだ。それにしても、じいちゃん益々、意気軒昂だな」
「ホッホッホッホッ…、笑わすでない。わしはもう、隠居じゃ」
 保にはアンドロイドを作る長左衛門が、とても隠居とは思えなかった。むしろ、好敵手に見えた。
 二人の間にバトルが起きたのはその十日後だった。とはいえ、それはメンタルな両者の戦いで、お互いの腹を探り合う、いわば頭脳戦の様相を呈する電話でのトークバトルである。長左衛門は保と沙耶が東京へ戻ってから偶然、三井から情報を入手したのだった。保達がUターンするまでに三井が情報を提供することも出来たのだが、長左衛門は訊(き)かなかったから三井も答えなかったのだ。ただ、それだけのことである。保達にとっては不幸中の幸いで、敵地でのバトルは回避されたということである。


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