水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

それでもユーモア短編集 (43)気になる

2019年04月22日 00時00分00秒 | #小説

 表立(おもてだ)っては、「ははは…いや、別にどうでもいいんだよっ!」とかなんとか言ってはみたものの、それでも気になるのが人の本性(ほんしょう)だ。一度、気になると、どうしても知ったり解明したくなる・・というのが人の生まれ持った性質なのかも知れない。ただ、この場合のそれでも! と気になる度合は個人差があり、そう大して気にならず、いつの間にか忘れてしまう人と、他のことを後(あと)回しにしても知りたくなる人のように、様々な違いがある。
 二人の男が通勤電車の中で話し合っている。いつも同じ時間の電車に乗る顔見知りのサラリーマンだ。
「えっ? どのアレです?」
「嫌だなぁ~、金曜の朝、お願いしていたアレですよっ!」
「ああ、アレ。アレはまだ…」
「まだなんですかっ!? あれだけアレを! って言ったじゃないですかっ!」
「ああ、確かに聞きました。聞きましたけどね。こちらにも急用とか、いろいろ出来るじゃないですかっ!」
「そらまあ、そうですけど…。あれだけアレをお願いしておいたんですからっ!」
「分かりました。明日の朝には…」
 迫(せま)られた男は、とりあえず逃げの返事をした。返事をしたのはいいが、この男、全然、気になるタイプではなかったから、アレがなんだったかを忘れてしまっていた。迫られた男の本音(ほんね)は、『弱ったな…アレが分からん。といって、今更(いまさら)、訊(き)く訳にもいかんしな…』というものだった。
「頼みましたよっ!」
「はいっ! アレは重要ですからねっ!」
「いや、私は関係ないんですが、妻の方が…」
 相手の返答に、迫られた男は、『妻の方? …家庭のことか?』と推測した。
「アレは奥さんがお気になされる・・ってことでしょうか?」
「そりゃそうですよっ、アレですからっ!」
「はあ、確かにアレはね…」
 拙(まず)いことに、迫られた男はアレが何のことか、皆目(かいもく)、見当もつかなかった。
「明日は期待しとります」
「はあ…}
 迫られた気にならない男は、今夜は気になって眠れそうにないな…と思った。
 気にならない者でも、社会生活の中では、それでも気になることが生じるのである。^^
 ここで皆さんにだけコトの真相をお話しよう。アレとは、連合婦人会の総会が開催される日だった。連合婦人会の会長である立場上、忘れまして…と訊く訳にもいかず、夫を通じて密(ひそ)かに訊ねたのだった。訊ねられた男の妻は連合婦人会の書記だった・・と、まあ真相はこうなる。^^

                                  


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