代役アンドロイド 水本爽涼
(第87回)
運転は但馬がし、国立競技場には順調に着いた。
「おやっ?! ありゃ、君の従兄妹(いとこ)じゃないかっ?」
「ええっ! そんな馬鹿な。沙耶は、ここを知らないはずなんですが…」
保は何が何だか分からなくなった。沙耶には試運転実験のことは話していない。それがなぜ? どうしても解(げ)せない保だった。教授が指さす方向に目を凝らすと、やはり沙耶らしき女がゲート前に立っていた。教授を含む四人は測定機材を肩にかけ、手には自動補足機の実験部材を持ち、女に近づいていった。次第に女の姿が鮮明になった。
━ 沙耶だ! なぜ、ここが分かったんだ? ━
保は俄かには、この現実が信じられなかった。四人は、ついに女の前に来た。やはり、紛(まぎ)れもなく沙耶だった。
「なぜ、お前…ここにいる?」
『来ちゃった!』
沙耶の感情システムはこの場合に出す声として、ハイテンション・パターンを選択した。確かに最終試験で合格した沙耶は、保の了解がなくても自由に外出できる。このことは保が一番よく知っていた。だが問題は、沙耶が現れた場所である。なぜ、ここが分かったんだ…と、ふたたび繰り返して保は思った。
「俺さ、ここへ来るって言ったか? 言ってないよな、確か…」
『保は言ってないわよ』
「じゃあ、なぜ?」
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