水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疑問ユーモア短編集 (86) その気

2020年03月30日 00時00分00秒 | #小説

 その気にさせる・・という言い方がある。それまで、やる気がなかったものが、やる気になったとき、した状況や人はその気にさせた・・ということだ。そうなるのは、なにも人によってというだけではない。目の前の状況や本人の気分、緊迫感、好奇心、欲etc.あらゆる要因によってその気になったり、させられたりする訳だ。^^ 主体性[アイデンティティ]のない人ほど周囲の環境に左右され、その気になにやすいから困ったものだ。^^
 とある繁華街である。知り合いの二人の主婦が話し合っている。
「あらっ! 奥さま、そのドレス、なかなかお似合いでございますことっ!」
「ホホホ…そうですかっ!  この前、買った安物ですけどっ!」
 褒(ほ)められた主婦は、まんざらでもない顔で謙遜(けんそん)した。
「どのお店でお求めになったのかしら?」
 褒めた主婦が訊(たず)ねる。
「あらっ! お気に召(め)しましてっ?」
「はい、すごく…」
「ついそこの、ブランド鹿馬(かば)ですわっ」
「お高かったんでしょ!」
「それが、安いのなんのって。なんでも近々、お店を改装なさるとか。その処分品ですわ」
「あらっ! それはいいことをお聞きしましたわ。私も言ってみようかしら…」
 褒めた主婦は、ドレスが気に入り、ついその気にさせられた。ところが、話はそれで終らなかった。褒めた主婦がそのドレス色違いの同じドレスを着てPTAに出かけたのがいけない。どういう訳かその気の輪を広げることになってしまったのである。その気はその気を呼び、ついにそのドレスの一大ブームを全国に巻き起こしたのである。ホクホク顔なのはブランド鹿馬である。一年後には全国チェーン店を展開するまでに発展したのだった。
 だからその気は、なかなか侮(あなど)れない疑問な気分なのである。^^

                                


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