水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

よくある・ユーモア短編集-39- チャレンジ

2016年10月31日 00時00分00秒 | #小説

 晴耕雨読(せいこううどく)とは、よく言われる。その四字熟語の意味は、━ 田園で世間の煩(わずら)わしさを離れ、心穏やかに暮らすこと━ となる。晴れた日には外へ出て田畑を耕(たがや)し、雨の日は雨滴(うてき)の音を聞きながら静かに書物などを読んだり学んだりし、あるいは家内の諸雑事をのんびりとする・・ところから派生した意味らしい。誇張(こちょう)して意味を捉(とら)えれば、その日に出来ることをする・・すなわち、ムダを省(はぶ)くということにも繋(つな)がっていく。雨の日に田畑は耕せないぞ! 晴れた日には外でいくらでもすることがあるだろうがっ! と、いう訳だ。ところが、そうともかぎらないことが、世の中にはよくある。
「ああ…降り出したな。今日はやめるか」
 御台所(みだいどころ)は、仕方なく外出をとりやめ、居間に置かれた畳の上の座布団にふたたび座った。つい、今しがた立ったばかりだったから、まだ生(なま)温かい。さて、これからどうしたものか…と、御台所はこれからの行動を巡った。普段には思いつく雑事が、こういうときにかぎって浮かばず、御台所は、… と、空(から)になった湯呑(ゆのみ)の茶を啜(すす)ろうとし、? 空か…と、また置いた。次に腕を組んだ。そして徐(おもむろ)に部屋の隅(すみ)を見た。そこには偶然、半月(はんつき)ばかり前に買っておいた雨具のポンチョ[簡易なカッパのようなもの]があった。傘を買う目的だったのだが生憎(あいにく)、財布の持ち合わせが少なく、他に買うものもあったからポンチョにしたのだ。ポンチョは山、ハイキングなどで使うアウトドア装備の一つだが、まあ、いいか…と御台所は買って部屋の隅に置いたままになっていた。御台所は、よしっ! チャレンジだっ! ふと、御台所は某国の大統領や織田信長公にでもなった気がして、雨の中を耕してやろうじゃないかっ! と決断した。決断とは大仰(おおぎょう)な言い方だが、このときの御台所の意気込みは、やってやろうじゃないかっ! の意気込みで凄(すご)かった。ポンチョを身につけ雨靴を掃いていると、自分はそんな大物でもないか…と思いなおした。
 外は幸い土砂降りから小降りになっていた。ポンチョ姿の御台所は、鍬(くわ)を手にすると、畑を耕し始めた。割合と作業は順調に進み、苗床(なえどこ)の準備をした畑の畝(うね)は出来上がった。これで、あとは苗を植えるだけだ…と、安息の息を吐き、御台所は家の中へ戻(もど)った。世の中ではチャレンジ精神が不可能を可能にすることが、よくある。

                    完


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