水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

残月剣 -秘抄- 《師の影》第八回

2009年04月28日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《師の影》第八回

 夕餉となり、一同が、ざわつきながら昨夜のように堂所(どうしょ)へと集まりだした。膳も並べ終え、もう一馬や左馬介がやることといえば、各自の椀や茶碗を装う程度のことだ。堂所を囲むように置かれた膳と中央に置かれた飯鍋と汁鍋。そして、二つの鍋の横へと座り、全員が席に着くのを待つ一馬と左馬介。待つ間、これからの日々、こうした日常が繰り返されるのか…と、左馬介は詰まらない雑念を巡らせていた。
 幻妙斎の膳は、片隅に離して一膳、準備してある。奇妙なことに、昨夜の膳も、左馬介が眼を離した一瞬の隙に消えていた。誰が運んだのかは定かではない。一馬に訊くと、
「先生は別に住まいなされておられます。それが、妙と云えば妙なのですが、夕餉は当道場でお食べになるのです」
 と訊いてもいないことを先に云う。一馬も幻妙斎の生活の様を知らないのか…とも思え、自分が分からぬのも道理だと思えた。
 いつもは湯漬けにして掻き込むのだが、今夜は汁が付いているからか、皆、冷や飯を食らい、魚を毟(むし)って汁を飲むといった塩梅(あんばい)になる筈である。
「今日は、どなたがお世話を?」
 と、左馬介が訊ねたとき、全員が揃った。


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