生れて初めて、110番(警察通報用電話)に電話した。
受話器が取られると、「緊急通報用電話です。事故ですか事件ですか」と問われる。
事故とも事件とも判断できない状況だったので、それには答えず、通報した目的を話す。
我が名古屋の棲み家(鉄筋アパート)の同フロアのある部屋が、今朝からドアが開いたままで、夜9時を過ぎても開いたままになっている。
丸見えの玄関内には若い女性用の靴が並んでいる。
間取りからいって、若い女性の一人暮らしであることが容易にうかがえる。
だが、奥は真っ暗で、人がいる気配、少なくとも生きた人がいる気配はない。
今朝までこんなことはなかった。
若い女性が住む部屋のドアが朝から開けっ放しで、夜になってもそのままというのはあまりに不自然だ。
まずは不用心だが、それ以上に犯罪の可能性もある。
自分の棲み家の同フロアが「事故物件」になるのは嫌だなぁ。
ドアが開けっ放しなので、物理的には容易に室内に入れるが、自分が「第一発見者」になる度胸はない。
同じフロアの住人として、開けっ放しのドアを放置できず、かといって管理会社には連絡がつかない時間帯なので、110番するしかないと思ったのだ。
私の通報によって、警察が来てくれることになった。
ほどなく、インターホンがなり、ドアを開けると、略帽をかぶった警官が2名立っている。
下の道路には赤色灯をつけたパトカーが2台止っている(サイレンなしで来たわけだ)。
警官の1人が、通報者である私の個人情報を尋ね、ノートへの記載を求める。
やましい事はないので、すらすら書くが、横で見ている警官の視線が鋭く私を観察している。
婦人警官を含めた数人の警官が開いたままの部屋に入っていく。
私は、室内を見たくないので、関心を示さず、自分の部屋に戻る。
再びインターホンが鳴り、ドアを開けると、
さきほどの警官が立っていて、
室内は無人で、生活している痕跡があるという。
「どうやら鍵を締め忘れて出かけたようです」とのこと。
拉致や失踪でもないらしい。
私は安心して「一番心配したことでなくてよかったです」と返した。
結果的に無駄足を運ばせたことになるが、私が他室のドアを閉めることはできない。
実は、私も部屋の鍵を締め忘れて出かけたことはあるが、さすがにドアを開けっ放しで出かけた事はない。住人の女性は私以上の粗忽者なのか。
警官たちはドアを閉めて帰っていった。
閉じられたドアには、小さなクリスマスのリースが何事もなかったように飾ってあった。