博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2018年9月に読んだ本

2018年10月01日 | 読書メーター
徳政令 なぜ借金は返さなければならないのか (講談社現代新書)徳政令 なぜ借金は返さなければならないのか (講談社現代新書)感想
「借金棒引き」の徳政令がなぜ誰からも忌み嫌われるものになったのかを追ったものだが、その議論の過程で、謡曲「自然居士」に見られる法と法のぶつかり合い、室町幕府の幕府法がいかに優位性を獲得していったか、そして頼母子講や親しい人の間での借金など、身近なところで徳政令がいかに人々の信頼関係を破壊したかなど、当時の政治・法・経済・思想・社会生活など、話題が広範に及び、室町時代の総合的な社会経済史としても読めるものになっている。
読了日:09月03日 著者:早島 大祐

春秋戦国 (歴史新書)春秋戦国 (歴史新書)感想
コンパクトにまとまった春秋・戦国時代の解説本。戦争、人物、関連の故事成語、社会、文化、思想などが手軽に理解できる作りになっているが、おそらく年表の年代比定も含めて多くの研究を参照して書かれたはずで、主要なものだけでも参照した研究を挙げるべきだった。具体的には、東遷の部分で清華簡『繋年』を参照して算出した年代にその旨説明がない点などに疑問を感じる。
読了日:09月06日 著者:渡邉 義浩

中国法制史中国法制史感想
清代のみを対象としたものだが、中国の法制というか、更に範囲を広げた近世中国の社会規範・社会生活の面にまで広げてその特色や問題点をうまくすくい上げているのではないかと思う。印象に残ったのは、最初の紳士の人口に締める割合の話、秘密結社の合図の恣意性の話、法治=普遍性、人治
=恣意性という前提をまず疑うという視点である。
読了日:09月08日 著者:寺田 浩明

初期仏教――ブッダの思想をたどる (岩波新書)初期仏教――ブッダの思想をたどる (岩波新書)感想
バラモン教の生天信仰が威信経済を支えていたところを、仏教では出家者や教団への贈与を推進し、それを経済活動、一種のクラウドファンディングと評価したり、「転輪王経」によって王権の正統性として血筋以外に王のしかるべき務めを求めたという話、死後の世界を信じない世界と罪人必罰・監視社会との関係性の話などを面白く読んだ。
読了日:09月10日 著者:馬場 紀寿

天皇の歴史9 天皇と宗教 (講談社学術文庫)天皇の歴史9 天皇と宗教 (講談社学術文庫)感想
天皇と大嘗祭などの祭祀、(主に仏教の)信仰、葬儀などを、前近代と近現代の二部構成で、古代から平成の世まで通覧する。神道のような信仰や神仏習合は日本独自のものと言えるか、宗教とされなかった神道、神仏分離で果たして皇室・皇族は仏教と切り離されたか、そして文庫版あとがきに見える明仁天皇と宮中祭祀の問題など、面白い論点が多く盛り込まれている。
読了日:09月14日 著者:小倉 慈司,山口 輝臣
文字渦
文字渦感想
「本歌」にあたるであろう中島敦の「文字禍」では、文字の誕生と文字に振り回される人間のありさまをネガティブに描いていたと思うのだが、本書所収の諸篇では逆に文字への耽溺や文字のひとり歩きをポジティブに描いている感じ。表題作の「文字渦」など、「漢字文化」のあり方をひと通り踏まえたうえでそれがエンタメに昇華されているのも面白い。「誤字」の総ルビ状態には面食らったが…
読了日:09月18日 著者:円城 塔

歴史総合パートナーズ 1 歴史を歴史家から取り戻せ! ―史的な思考法―歴史総合パートナーズ 1 歴史を歴史家から取り戻せ! ―史的な思考法―感想
歴史学を専門に研究する「歴史家」の発想を端的にまとめながら、それに対する違和感も提示し、特に若い読者に「史的な思考法」を提示する。昨今報道などでも問われがちな「fact(事実)」に対して「incident(出来事)」を歴史の構成要素とすることを提案したり、人物研究を忌避する態度を「歴史好きを歴史嫌いにする歴史学」と批判したりと、小冊ながら読みどころとなる論点が多い。
読了日:09月19日 著者:上田 信

中国経済講義-統計の信頼性から成長のゆくえまで (中公新書 2506)中国経済講義-統計の信頼性から成長のゆくえまで (中公新書 2506)感想
前半では中国の経済指標の信頼性やそこから何が見えてくるかを議論する。後半では山寨企業に関して、コピー製品の横行がイノベーションを促したり、そして権威主義的な政府に対して民間経済が常にルールの裏をかこうとし、なし崩し的に自分たちのやり方をルール化させてきたといったような事例を紹介し、中国経済に関してこれまでネガティブに作用すると思われてきた事項が、実はポジティブに作用してきたのではないかとする。中国経済に対して新しい視点が得られる書となっている。
読了日:09月22日 著者:梶谷 懐

貨幣が語る-ローマ帝国史-権力と図像の千年 (中公新書)貨幣が語る-ローマ帝国史-権力と図像の千年 (中公新書)感想
独裁者と見られることを恐れて造幣者が自己宣伝を恐れた共和政期、それが次第に存命者の顕彰がなされるようになり、帝政期には図案に描かれた皇帝の家族から帝位継承の問題や願望を見出すことができ、更には属州の自治の問題や、ローマ皇帝の神格化とイエスの神格化との関連のような宗教信仰の問題が読み取れるといった具合に、古代ローマの貨幣の図像・銘文からどのようなことが見出せるかをまとめている。同時代の出土資料から読み解く歴史の面白さが感じ取れる好著。
読了日:09月24日 著者:比佐 篤

生きづらい明治社会――不安と競争の時代 (岩波ジュニア新書)生きづらい明治社会――不安と競争の時代 (岩波ジュニア新書)感想
「頑張れば必ず報われる」「貧しいのは自分の努力が足りないせい」という「通俗道徳のわな」に支配された世の中として明治社会を描き出す。その一方で暴動の参加などで人々が敢えて通俗道徳に逆らって見せるのも、結局は通俗道徳を強化することにつながるという視点も面白い(江戸時代の江戸っ子の「粋」な生き方というのもこういうものだったかもしれない)。この通俗道徳は本書に指摘されている通り現代の世の中にも生きているが、明治時代とは違って「立身出世」の希望が現実的な夢とならなくなった今の世で明治の教訓をどう生かせるだろうか?
読了日:09月26日 著者:松沢 裕作


世界史のなかの文化大革命 (平凡社新書 891)世界史のなかの文化大革命 (平凡社新書 891)感想
文革をインドネシアでの9・30事件による華人華僑迫害・反共キャンペーン・中国との断交の余波によるものとし、また日本も含めた世界中に広がった「1968革命」のはじまりと位置づける。前半部は特に「世界史のなかの9・30事件」と言った方がよいかもしれない。文革を敢えて中国国内史として完結させない視点が新しい。
読了日:09月29日 著者:馬場 公彦


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