博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

柳生一族は朝鮮妖術の夢を見るか?

2011年01月10日 | 小説
正月からこの三連休にかけて、前々から気になってた荒山徹の小説を三作ぶっ続けで読んでみました。

荒山徹『柳生薔薇剣』(朝日文庫、2008年9月)

豊臣秀吉の朝鮮出兵時に日本人の夫と出会い、永住を決意して日本に渡った妓生のうね。しかし朝鮮から派遣された使節団はそんな彼女をも見逃さず、強制帰国を迫ります。うねは故国朝鮮との縁を切るために縁切寺として名高い鎌倉・東慶寺へと逃亡。このうねの扱いをめぐって幕論は二分されることに。柳生宗矩は将軍家光の内意を承け、うねを守るために長女矩香(のりか)を東慶寺へと派遣しますが……

秀吉の朝鮮出兵を契機に日本に渡来したり連行されたりした人々を捜索し、帰国を求める刷還事業に対してやや不穏な見解が見られるものの、四捨五入すればまあ普通の時代小説かなあと思って読み進めましたが…… 柳生の血を引く陰陽師幸徳井友景とか、朝鮮妖術師が出て来たあたりで一気に話が怪しくなってきた(^^;)

荒山徹『柳生百合剣』(朝日文庫、2010年10月)

ともに将軍家兵法師範役である一刀流の小野忠明を尻目に将軍家光の寵愛を得て出世を重ねる柳生宗矩。しかしそこへ一刀流の開祖伊藤一刀斎を名乗る老人が出現。朝鮮妖術「断脈ノ術」で柳生新陰流を消滅させ、宗矩以下柳生新陰流の門徒はみな剣術が使えなくなってしまいます。ただ一人柳生十兵衛のみが「断脈ノ術」の影響が及ばず、単身伊藤一刀斎の一味と対峙することになりますが……

『柳生薔薇剣』の直接の続編。冒頭での姉・矩香に恋い焦がれる十兵衛の描写とか、敵方の剣士ウラギリジョーというネーミングとか、百済王松平忠輝という設定とか、前作より十倍増しぐらいで反応に困る要素が盛り込まれており、作者の本気を垣間見た気にさせられます。こういう作品の解説を無難に仕上げられる菊池仁氏は大変大人だなあと思いました。

荒山徹『柳生大戦争』(講談社文庫、2010年12月)

「檀君神話は高麗の高僧晦然による捏造だった!」柳生家に代々伝わるこの衝撃的な事実を記した「一然書翰」を利用して朝鮮王朝との外交を有利に進めようとする柳生宗矩。そんな最中、将軍家光の寵童であった宗矩の次男友矩が父の足を斬って朝鮮へと出奔。朝鮮側がこの友矩の存在を利用して宗矩と対抗する姿勢を示したので、宗矩は長男十兵衛と三男宗冬に友矩抹殺を命じ、朝鮮へと密航させることに。しかし当時の朝鮮はこれまで通り明王朝を宗主国とするか、新たに勃興した後金(清)帝国に従うかで揺れ動いており……

今回読んだ三作の中では最もスケールが大きく、最も面白いと思ったのが本書。檀君神話をめぐる設定については、踏み越えてはいけない一線を空気でも吸うように平気で踏み越えるなあという印象を抱きました。

それに関しては本書の細谷正充氏の解説で「伝奇的手法で日韓の歴史を弄(いじく)る作風から誤解されがちだが、作者は日韓友好という願いを作品に込めている。それを阻む偏ったナショナリズムの源泉を考えたとき“捏造”に行きついたのではなかろうか。捏造の過程を捏造することで、捏造の持つ危うさを、警告しているのである。」とまとめていますが、発想の根本からしておかしいと思うのは私だけでしょうか(^^;)

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4 コメント

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平勢隆郎先生って小説家になった方がよかったよね。 (師走)
2011-01-10 23:56:47
細谷正充『(作者は)捏造の過程を捏造することで、捏造の持つ危うさを、警告しているのである。』

 頭がくらくらするよね。
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Unknown (さとうしん)
2011-01-11 22:19:00
>師走さま
ええ、とっても頭がクラクラします…… あと、平勢御大については同感。
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Unknown (川魚)
2011-01-17 23:31:30
ははは(^^;、「断脈」て、日帝が景福宮の裏がどっかに鉄棒埋めて、やったんじゃなかったですか(笑。博文あたりの仕業かな?
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Unknown (さとうしん)
2011-01-18 18:09:17
>川魚さま
>日帝が景福宮の裏がどっかに鉄棒埋めて、やったんじゃなかったですか(笑。博文あたりの仕業かな?

荒山徹の場合、マジで伊藤博文をネタにしてそういう小説を書きかねませんよw
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