博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2020年11月に読んだ本

2020年12月02日 | 読書メーター
日本の修史と史学 歴史書の歴史 (講談社学術文庫)日本の修史と史学 歴史書の歴史 (講談社学術文庫)感想
歴代の史書編纂とそれぞれの史書の特色、史観の変遷についてまとめた日本史学史。末尾には明治から戦後のマルクス主義史観に至るまで近代以降の展開もまとめる。六国史以後も『新国史』の編纂が試みられたが、おそらくは未定稿のままとなったことで、以後の国史編纂事業も杜絶してしまったのではないかと言う。ともかくも定稿することが大事と考えれば、中断期間も含めて編纂に膨大な時間を要し、かつ種々の問題点があるとはいえ、『大日本史』が完成に至ったことは褒められてよいのではないか。
読了日:11月03日 著者:坂本 太郎

白楽天――官と隠のはざまで (岩波新書)白楽天――官と隠のはざまで (岩波新書)感想
白楽天の生涯をその詩作とともに辿るという趣向だが、詩で唐のことを漢に置き換えるのは、政治的な憚りというよりは文学的な技法という指摘であるとか、宋代の白楽天の評価の変化、従来乏しいとされてきた中国での叙事詩の系譜、元稹との絡みからの友情の文学の成立など、白楽天周辺の議論がなかなか面白い。
読了日:11月05日 著者:川合 康三

孝経- 唐玄宗御注の本文訳 附孔安国伝-孝経- 唐玄宗御注の本文訳 附孔安国伝-感想
他の訳本と比べて文章、あるいは全体の構造に強くこだわっているのが特徴。副題に「唐・玄宗御注の本文訳」と微妙な書き方をしている通り、各章の注釈と玄宗御注との距離は微妙。
読了日:11月06日 著者:野間 文史

悪党たちの大英帝国 (新潮選書)悪党たちの大英帝国 (新潮選書)感想
悪党というか、本書「はじめに」によれば大英帝国が誇る偉大なアウトサイダーたちの評伝。「悪党」というイメージにそぐわないようでもアウトサイダー、すなわちよそ者と見れば、ウィリアム三世がその中に入っているのも納得できる。またアメリカ独立戦争時の頑迷な国王というイメージのジョージ三世については、国民からは愛されていたなど、意外な姿が描かれる。「大英帝国」というテーマからは外れるが、現在「悪党」というイメージに最もふさわしい為政者トランプは、本書の文脈からはどのように描かれるだろうかと何となく想像した。
読了日:11月09日 著者:君塚 直隆

初歩からのシャーロック・ホームズ (中公新書ラクレ, 706)初歩からのシャーロック・ホームズ (中公新書ラクレ, 706)感想
エピソードの紹介、登場人物や時代的な背景、著者コナン・ドイルに関する解説以外にも、各種邦訳の特色、映像版・漫画版などがどの程度、どのように原著を反映させているかなど、ホームズ物のガイドブックとして行き届いた内容となっている。ミニホームズ事典として本棚に備えておきたい。
読了日:11月10日 著者:北原 尚彦

中国の歴史3 ファーストエンペラーの遺産 秦漢帝国 (講談社学術文庫)中国の歴史3 ファーストエンペラーの遺産 秦漢帝国 (講談社学術文庫)感想
良くも悪くも尖った構成・内容のものが多いこのシリーズの中にあってオーソドックスな作り。原著出版から15年、その後も色々新発見や研究の進展があり、かつ本文には増補がないが、元々踏み込んだ記述がそれほどないこともあり、意外と今でも通用するなという印象。シリーズの中では安心して人に薦められるもののひとつ。
読了日:11月13日 著者:鶴間 和幸

中国の歴史4 三国志の世界 後漢 三国時代 (講談社学術文庫)中国の歴史4 三国志の世界 後漢 三国時代 (講談社学術文庫)感想
演義の専門家による歴史本ということになるが、史実と演義との比較によって流れをつかむという点で演義の影響力というか効用を再認識させられた。時代史の展開のほか、外交・情報戦略、儒仏道三教の成立、書道史、邪馬台国も含めた国際関係など、関連の話題で触れるべきものをあらかた網羅しており、気配りが効いている。
読了日:11月16日 著者:金 文京

よみがえる天才4アレクサンドロス大王 (ちくまプリマー新書)よみがえる天才4アレクサンドロス大王 (ちくまプリマー新書)感想
彼の死の直後、場合によっては在世時からのアレクサンドロス伝説の形成と、彼の実像を追う。歴史の重層性を考えるための絶好の題材ということになるだろうか。そしてそれはアレクサンドロスの東方遠征とセットで語られてきた「ヘレニズム」の評価や、現代の国家としての「マケドニア」という国名にも及んでいく。
読了日:11月18日 著者:澤田 典子

中国法 「依法治国」の公法と私法 (集英社新書)中国法 「依法治国」の公法と私法 (集英社新書)感想
裁判例中心の構成だが、法学に関する基礎知識がない身では決してわかりやすい本ではない。取り敢えずに民事に関しては中国でも法は着実に機能しているということで、「中国に法はない」という類の偏見でもって日本企業が現地の訴訟で失敗しているという話には「そりゃそうだろう」という以上の感想はない。憲法による規制の矛先が国家権力、公権力には向かわないという話には、中国政府の憲法観は日本の改憲勢力と一緒ではないかと思ってしまったが…… 
読了日:11月19日 著者:小口 彦太

木簡学入門 (志学社選書, 002)木簡学入門 (志学社選書, 002)感想
改めて読み直してみると、木簡の形態、発見と発掘、各種の木簡の内容、考古学と文献学のドッキングなど、総合の学問としての木簡学のあり方、書体の問題など、入門書として触れなければいけない問題についてあらかた解説されていることに気付く。「きれいな木簡」と「汚い木簡」、冊書への復原の問題などは、現在も残されているというか、甲骨学など他の出土文献についても通底する問題であろう。
読了日:11月26日 著者:大庭 脩

もののけの日本史-死霊、幽霊、妖怪の1000年 (中公新書, 2619)もののけの日本史-死霊、幽霊、妖怪の1000年 (中公新書, 2619)感想
古代から現代のエンタメに至るまでのモノノケ像や関連の語彙の変化を追う。うっかり死霊と親しくなってしまった藤原教通、中世において「幽霊」という言葉が成仏できなかった死霊を指すわけではないという指摘、近世のモノノケの滑稽なキャラクター化の話などが面白い。
読了日:11月27日 著者:小山 聡子

黄禍論 百年の系譜 (講談社選書メチエ)黄禍論 百年の系譜 (講談社選書メチエ)感想
黄禍論から見たアメリカの対日外交が中心的な話題。時代の射程を第二次大戦後にも伸ばしていること、日本が凋落してから、アメリカの黄禍論の対象が中国に移りつつあることに触れているのが新しい点か。その議論がどの程度妥当なのかはさておき、アメリカが日中同盟、東アジア共同体の形成を恐れてきたという指摘は、今次の大統領選で存在がクローズアップされた日本のトランプ支持者の目にはどう映るだろうか?
読了日:11月29日 著者:廣部 泉


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