古墳と埴輪 (岩波新書 新赤版 2020)の感想
古代中国の墓制・葬制の影響という観点から、日本の古墳の時期的な変化と、古墳・埴輪から見出せる葬送儀礼、他界観を議論。キーワードは死者の魂が鳥の先導する船に乗って他界に行くという「天鳥船信仰」ということになるだろうか。中国の影響に関する結びつけがやや安直な気がしないでもないが、古墳建造と王権に関する議論は同時期に出た『王墓の謎』よりは説得力がある。
読了日:07月02日 著者:和田 晴吾
草の根の中国: 村落ガバナンスと資源循環の感想
『中国農村の現在』の元になった論集ということで読む。こちらは特に特定の農村を対象として農村のガバナンスに焦点を当てる。自分たちの住む地域の問題について自力更生を図るというのは当たり前のことだという気もするが、インドなんかと比較するとそうではないらしい。道路建設と比べて村の廟の再建については自力更生度が上がるという指摘も面白い。基本的に選挙が存在しないことが、中国農村の個性(ユニークさと言ってしまってもいいだろう)を形作っているということが本書を通して見えてくる。
読了日:07月10日 著者:田原 史起
中国古代軍事制度の総合的研究の感想
科研費論集の再版。日本では政治的事情から軍事史研究が手薄と言われることもあるが、本書の研究動向編によると、身近に軍事と接しているはずの韓国でも同様の状況なのだという。論文編では戦車、個別の戦役・戦争、軍功・将軍号といった官制に関わる問題りほか、軍礼についても対象となっている。軍の規模や軍構成と絡める形で戦国秦の戦役についてまとめた宮宅論文、対匈奴・南越戦と比較の上で漢と古朝鮮の戦争について論じた金論文を面白く読んだ。
読了日:07月11日 著者:
沈黙の中世史 ――感情史から見るヨーロッパ (ちくま新書 1805)の感想
キリスト教、教会や修道院との関係を中心として、西欧中世の沈黙のあり方、そして女性たちが沈黙を破っていくさまを追う。沈黙を破るといっても、その背景、沈黙の破り方は様々なようである。感情史とはどういうものかと思って本書を手に取ったが、文学作品を割と史料として積極的に使っているなという印象。
読了日:07月13日 著者:後藤 里菜
始皇帝の戦争と将軍たち 秦の中華統一を支えた近臣軍団 (朝日新書)の感想
始皇帝による十年戦争(中国統一戦争)と戦争に従軍した将軍たち、そして六国と李牧など六国の将軍たちの状況と事跡を、岳麓秦簡など近年発見されたものも含めて様々な史料から丹念に読み解く。岳麓秦簡の『算数書』など意外な史料からも戦争に関する記述を見逃さず有効に利用しているのが魅力。始皇帝の近臣集団を漢の高祖集団と比較しているのも面白い。『キングダム』のファンが知りたそうな情報も多く盛り込まれており、ファンには大満足の内容ではないかと思う。
読了日:07月15日 著者:鶴間 和幸
地中海世界の歴史3 白熱する人間たちの都市 エーゲ海とギリシアの文明 (講談社選書メチエ)の感想
前巻ではペルシア側の視点から見たペルシア戦争を今巻ではギリシア側の立場から見る。近年オリエントの文明の影響を強く受けたと評価されるギリシア文化だが、その関係性や立場は中国文明の影響を強く受けた日本と似通っているという。そして否定的に評価されがちなスパルタの気風について、女性は子どもさえ産んでしまえば放縦でも許されたとか、市民の間に貧富の対立が生じるのを恐れていたのではないかとか、アテナイとは対称的に海外に積極的に領土を求めようとしなかったといったような意外な評価が展開されている。
読了日:07月17日 著者:本村 凌二
日本人 (ちくま学芸文庫 ヤ-2-2)の感想
柳田国男とその門下による、民俗学の立場からの日本論。日本民俗学で話題になるようなことは一通り簡単にまとられている感じで、民俗学の簡易便覧のような趣がある。意外なところでは日本語で漢語が多く用いられていることの問題といった言語学に属するようなトピックも盛り込まれている。ただ、本書のテーマであるらしい「大勢順応の国民性」はどこの国でもありそうな問題なので、日本民俗学というよりは比較民族学とか文化人類学、社会学などの分野で普遍性の問題として考えるべきではないかと思うが。
読了日:07月20日 著者:柳田 國男
吾妻鏡-鎌倉幕府「正史」の虚実 (中公新書, 2814)の感想
古記録と歴史叙述という相反する性質を具有し、更に頼朝と各世代の北条氏の頭領を称揚し、その正統性を主張するという構想を持ちつつも、そのために曲筆を重ねることで結果として義経をはじめとする敗者の動きや心情も詳述することで豊かな文学的彩りを添えることになったと述べる。このことは『左伝』や『史記』『三国志』など中国の史書との類似性を想起させる。著者は歴史畑ではなく文学畑のようたが、文学研究からの視点が存分に生かされた吾妻鏡論となっている。
読了日:07月22日 著者:藪本 勝治
モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち (講談社現代新書)の感想
ジェンダー史の視点から見るモンゴル帝国史。失礼ながらこの著者もこういう切り口から書くのねと思いつつ興味本位で読んだ。「大元ウルスは実質的にコンギラート王朝である」といったような視点が面白い。チンギスの母ウゲルンやフビライ兄弟の母・ソルカクタニ・ベキを高く評価しているのはともかく、とかく悪く言われがちなトゥレゲネ・ガトンを再評価しているのが特徴か。マンドハイなど、他書ではあまり触れられてなさそうなフビライ以降の女性たちの活動についても詳しい。
読了日:07月24日 著者:楊 海英
東アジアの死生学・応用倫理への感想
中国古代宗教史を専攻してきた著者による生命倫理・死生学論。この分野の中国や台湾の主要な論者、研究を欧米・日本のそれと対比する形で紹介し、議論するという形を採るが、議論そのものよりは中国・台湾での末期癌の告知や臨終の場所といった終末医療に関係する医療慣行の紹介が興味深い。それらと儒教などとの影響関係についても議論されている。一応著者の元々の専攻の中国古代宗教史とは別立てということになっているようだが、関係の古文献の記述もその都度紹介されている。
読了日:07月29日 著者:池澤優
古代アメリカ文明 マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像 (講談社現代新書 2729)の感想
中南米のマヤ、アステカ、インカ文明の概要のほか、ナスカの地上絵については文字の問題とひっくるめて1章を立てている。マヤやインカを「帝国」と評価することの問題、鉄器や文字のないことが文明の発達が遅れていることを意味しないという議論が面白い。エジプトのそれとは役割や形態が異なるマヤのピラミッド、ナスカの地上絵の制作方法と制作目的についても言及されている。
読了日:07月31日 著者:青山 和夫,井上 幸孝,坂井 正人,大平 秀一
古代中国の墓制・葬制の影響という観点から、日本の古墳の時期的な変化と、古墳・埴輪から見出せる葬送儀礼、他界観を議論。キーワードは死者の魂が鳥の先導する船に乗って他界に行くという「天鳥船信仰」ということになるだろうか。中国の影響に関する結びつけがやや安直な気がしないでもないが、古墳建造と王権に関する議論は同時期に出た『王墓の謎』よりは説得力がある。
読了日:07月02日 著者:和田 晴吾
草の根の中国: 村落ガバナンスと資源循環の感想
『中国農村の現在』の元になった論集ということで読む。こちらは特に特定の農村を対象として農村のガバナンスに焦点を当てる。自分たちの住む地域の問題について自力更生を図るというのは当たり前のことだという気もするが、インドなんかと比較するとそうではないらしい。道路建設と比べて村の廟の再建については自力更生度が上がるという指摘も面白い。基本的に選挙が存在しないことが、中国農村の個性(ユニークさと言ってしまってもいいだろう)を形作っているということが本書を通して見えてくる。
読了日:07月10日 著者:田原 史起
中国古代軍事制度の総合的研究の感想
科研費論集の再版。日本では政治的事情から軍事史研究が手薄と言われることもあるが、本書の研究動向編によると、身近に軍事と接しているはずの韓国でも同様の状況なのだという。論文編では戦車、個別の戦役・戦争、軍功・将軍号といった官制に関わる問題りほか、軍礼についても対象となっている。軍の規模や軍構成と絡める形で戦国秦の戦役についてまとめた宮宅論文、対匈奴・南越戦と比較の上で漢と古朝鮮の戦争について論じた金論文を面白く読んだ。
読了日:07月11日 著者:
沈黙の中世史 ――感情史から見るヨーロッパ (ちくま新書 1805)の感想
キリスト教、教会や修道院との関係を中心として、西欧中世の沈黙のあり方、そして女性たちが沈黙を破っていくさまを追う。沈黙を破るといっても、その背景、沈黙の破り方は様々なようである。感情史とはどういうものかと思って本書を手に取ったが、文学作品を割と史料として積極的に使っているなという印象。
読了日:07月13日 著者:後藤 里菜
始皇帝の戦争と将軍たち 秦の中華統一を支えた近臣軍団 (朝日新書)の感想
始皇帝による十年戦争(中国統一戦争)と戦争に従軍した将軍たち、そして六国と李牧など六国の将軍たちの状況と事跡を、岳麓秦簡など近年発見されたものも含めて様々な史料から丹念に読み解く。岳麓秦簡の『算数書』など意外な史料からも戦争に関する記述を見逃さず有効に利用しているのが魅力。始皇帝の近臣集団を漢の高祖集団と比較しているのも面白い。『キングダム』のファンが知りたそうな情報も多く盛り込まれており、ファンには大満足の内容ではないかと思う。
読了日:07月15日 著者:鶴間 和幸
地中海世界の歴史3 白熱する人間たちの都市 エーゲ海とギリシアの文明 (講談社選書メチエ)の感想
前巻ではペルシア側の視点から見たペルシア戦争を今巻ではギリシア側の立場から見る。近年オリエントの文明の影響を強く受けたと評価されるギリシア文化だが、その関係性や立場は中国文明の影響を強く受けた日本と似通っているという。そして否定的に評価されがちなスパルタの気風について、女性は子どもさえ産んでしまえば放縦でも許されたとか、市民の間に貧富の対立が生じるのを恐れていたのではないかとか、アテナイとは対称的に海外に積極的に領土を求めようとしなかったといったような意外な評価が展開されている。
読了日:07月17日 著者:本村 凌二
日本人 (ちくま学芸文庫 ヤ-2-2)の感想
柳田国男とその門下による、民俗学の立場からの日本論。日本民俗学で話題になるようなことは一通り簡単にまとられている感じで、民俗学の簡易便覧のような趣がある。意外なところでは日本語で漢語が多く用いられていることの問題といった言語学に属するようなトピックも盛り込まれている。ただ、本書のテーマであるらしい「大勢順応の国民性」はどこの国でもありそうな問題なので、日本民俗学というよりは比較民族学とか文化人類学、社会学などの分野で普遍性の問題として考えるべきではないかと思うが。
読了日:07月20日 著者:柳田 國男
吾妻鏡-鎌倉幕府「正史」の虚実 (中公新書, 2814)の感想
古記録と歴史叙述という相反する性質を具有し、更に頼朝と各世代の北条氏の頭領を称揚し、その正統性を主張するという構想を持ちつつも、そのために曲筆を重ねることで結果として義経をはじめとする敗者の動きや心情も詳述することで豊かな文学的彩りを添えることになったと述べる。このことは『左伝』や『史記』『三国志』など中国の史書との類似性を想起させる。著者は歴史畑ではなく文学畑のようたが、文学研究からの視点が存分に生かされた吾妻鏡論となっている。
読了日:07月22日 著者:藪本 勝治
モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち (講談社現代新書)の感想
ジェンダー史の視点から見るモンゴル帝国史。失礼ながらこの著者もこういう切り口から書くのねと思いつつ興味本位で読んだ。「大元ウルスは実質的にコンギラート王朝である」といったような視点が面白い。チンギスの母ウゲルンやフビライ兄弟の母・ソルカクタニ・ベキを高く評価しているのはともかく、とかく悪く言われがちなトゥレゲネ・ガトンを再評価しているのが特徴か。マンドハイなど、他書ではあまり触れられてなさそうなフビライ以降の女性たちの活動についても詳しい。
読了日:07月24日 著者:楊 海英
東アジアの死生学・応用倫理への感想
中国古代宗教史を専攻してきた著者による生命倫理・死生学論。この分野の中国や台湾の主要な論者、研究を欧米・日本のそれと対比する形で紹介し、議論するという形を採るが、議論そのものよりは中国・台湾での末期癌の告知や臨終の場所といった終末医療に関係する医療慣行の紹介が興味深い。それらと儒教などとの影響関係についても議論されている。一応著者の元々の専攻の中国古代宗教史とは別立てということになっているようだが、関係の古文献の記述もその都度紹介されている。
読了日:07月29日 著者:池澤優
古代アメリカ文明 マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像 (講談社現代新書 2729)の感想
中南米のマヤ、アステカ、インカ文明の概要のほか、ナスカの地上絵については文字の問題とひっくるめて1章を立てている。マヤやインカを「帝国」と評価することの問題、鉄器や文字のないことが文明の発達が遅れていることを意味しないという議論が面白い。エジプトのそれとは役割や形態が異なるマヤのピラミッド、ナスカの地上絵の制作方法と制作目的についても言及されている。
読了日:07月31日 著者:青山 和夫,井上 幸孝,坂井 正人,大平 秀一
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