博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『ヴィクトリア女王』

2008年01月05日 | 世界史書籍
君塚直隆『ヴィクトリア女王 大英帝国の”戦う女王”』(中公新書、2007年10月)

近現代のイギリス国王と言えば、「君臨すれども統治せず」の言葉で表されるように国家の象徴としてのみ存在し、政治にはほとんどタッチしなかったというイメージがありましたが、本書ではそのようなイメージを180度覆す女王像を描き出しています。

そもそもヴィクトリアが18歳で即位した当時のイギリスは、プロイセンなどがイギリスに替わる工業国として台頭しつつあり、経済が急速に悪化していた時代でした。

そういった状況の中、当初は夫のアルバート公やメルバーンといった政治家の手助けを得て、そして夫が亡くなりメルバーンらが引退した後は自分の力のみで、自分の構想する政策に合う総理や大臣を据えるべく閣僚人事に積極的に介入。特に外交の分野では王室同士の血のつながりを基本とした王室外交を主導し(多くの子宝に恵まれたお陰でヨーロッパ中の王室で彼女の血縁者が数多く誕生しました。例えばドイツ皇帝ヴィルヘルム2世と、ロシア皇帝ニコライ2世の皇后アレクサンドラは彼女の孫です)、戦争を嫌がる閣僚の尻を叩いて「大英帝国」の拡大に邁進するなど、「戦う女王」の名にふさわしい活躍ぶりを見せます。

1850年代から60年代かけては国内でも政党政治が混迷し、また選挙法改正で有権者が急増したことにより、それまでの貴族政治に近い状態から大衆民主政治に移行しつつあった激動の時期でありました。こうした状況をふまえ、時に女王は保守党・自由党に続く第三党の樹立を促したりと(結局実現はしませんでしたが)、二大政党制に否定的な態度を取っているのは現代の視点からすると興味深いところです。

ヴィクトリア女王が亡くなったのは、ちょうど20世紀が始まった1901年。この後彼女の後継者たちが二つの世界大戦を挟んだ20世紀のイギリスの政治にどのように、あるいはどの程度関わったのかも気になるところです。
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