Wilhelm-Wilhelm Mk2

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アクロイド殺し

2021-06-04 | Weblog
「アクロイド殺し」をやっと読了した(外でまとまった時間がとれたので)。実は真犯人は早い段階でわかった(デジャブを感じるので、もしかすると若いころに読んだのかもしれないが・・・)。盟友のヘイスティング大尉をあえて登場させず、同じ役回りにヘイスティングに似た紳士を持ってきたあたりで、これは怪しいと勘づくのが普通だろう。本作の最大の面白いところは、全てが真犯人の独白(記録)という形で書かれていることである。当然、真犯人の行動に関する重要事項はぼかされているのだが、実はそのぼかしに謎を解くカギがある。書き手が真犯人だろうと勘づいて読んでいくと、あちらこちらに伏線があってそこがまた楽しい。それが本作の醍醐味だと思う。真犯人は事件後にポアロ失敗談として出版を考えていたようだが、自分の行動にしても嘘は書かず、文章表現を駆使してできうる限り事実を記録をしたと言っている。完全な事実の積み上げの中に自分の犯行をひっそりと埋没させる完全犯罪を目論んだわけである。この作風が読者に対してフェアなのかアンフェアなのかという論議があったようだが、それは読み手の「読解力」にかかっているのだと思う。

wikipedeiaの記事だが、あの小林秀雄は以下のように「アンフェア」だと腐している。
「いや、トリックとはいえないね。読者にサギをはたらいているよ。自分で殺しているんだからね。勿論嘘は書かんというだろうが、秘密は書かんわけだ。これは一番たちの悪いウソつきだ。それよりも、手記を書くと言う理由が全然わからない。でたらめも極まっているな。あそこまで行っては探偵小説の堕落だな。」「あの文章は当然第三者が書いていると思って読むからね。あれで怒らなかったらよほど常識がない人だね(笑)。」

小林秀雄・・・文章は書けるけど、数学は解けないような人だったのかな?