まだ2曲だけだが、ヒカルの次作のサウンドは『Fantome』のそれとは随分と異なったものになりそうだ。
最も顕著―雰囲気の違いに貢献しているのはドラムだろう。前作の『Fantome』ではどちらかといえばカラッとしたドライな音色が支配的で、それは例えば『ともだち』でリゾートちっくな涼しみを演出したりと一役買っていた訳だが、今回は2曲まずクリス・デイヴの音色が先行して新たなる新鮮さを運んでいる。
どの音色も違うが、まずはバスドラのイメージが印象的だ。素の強度が強いのか、やたらと底が分厚いヴィジュアルを与えている。そこに(未だ名も知らぬ)よく動くベースが(特に『Fantome』では隙間を埋めていく為はっきり言って暑苦しい。それを心得てか特にエレクトリック・ギターの憚った距離の取り方が全体のバランスをとる。ヒカルのヴォーカルの音域もあって随分とサウンドヴィジョンの重心が下がった感。菱形だったのが二等辺三角形になったみたいな。
こうなってくると気になるのはホーン・セクション或いはプラス・セクションの位置付けだ。要するに喇叭隊、金管楽器群である。ヒカルの手にかかると、『You Make Me Want To Be A Man』を例にとるまでもなく、ラッパはスッカスカなアレンジに響く事になる。良し悪しは別にして、ホーンだプラスだと言ってもヒカルにはビッグ・バンドという意識がない。
これは弦楽器隊にもいえる事で、ヒカルはオーケストラよりストリングス・カルテット(/クインテット)を好む傾向だ。全体での迫力云々より、個々の出す音がよく聞こえるように、という意図だろうか。しかも、ソロ・パートではなく編曲として楽曲に編み込む時点でそう想定している。
『Fantome』ではその乾いたドラム・サウンドとスッカスカのホーン・セクションの取り合わせが独特の涼やかな空気感を出していた。音が押し寄せてきても盛り上がり切らない、どこか冷めた感覚を残していた。
それが次作では、未だ知的である事は大前提として、もっと熱を帯びたサウンドに変化するのではないか、という展望がたってきた。『大空で抱きしめて』も『Forevermore』も、いずれもストリングスの響きが『Fantome』よりより重厚により芳醇に変化している。更なる3曲め以降で喇叭隊が出現したタイミングで、アルバム全体のサウンド・イメージが掴めてくるだろう。まだまだ先の話でしょうが、楽しみにするのは罪じゃなかろ。
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