さてさて、一方『40代はいろいろ♫』の方はいよいよ『40代はいろいろ -Live from Metropolis Studios』収録の2曲が360 Reality Audioのアプリ版やAmazon Musicなどで配信され始めた。待望の、です!
私も早速折角コレ用に買った─のだけど当日DJタイムの時点で既に接続不良を起こしてそのリアルタイム360RAオーディオへのアクセスを断念せざるを得ず宝の持ち腐れになっていた─360RA対応且つ個人向けカスタマイズ済み(耳撮影して送るヤツね)のヘッドフォンを有線で接続して聴いてみるぞとプレイボタンを押してみたら、まずヒカルのMCからなのね…って、あれ?スピーカーから音が出ちゃってるぞ?あたしヘッドフォンジャックをちゃんと挿せてなかったのかなと思ってプラグを見てみてもちゃんと奥までキッチリ挿されてて、あれこれ一体どういうことだってばよとヘッドフォンを頭から外してみて漸く気がついた。勘のいい読者の方は既にお気付きだろう、私、ヘッドフォンから流れてきてた音をスピーカーから流れてきた音だと勘違いしていたのだ! いやホントびっくり。それくらいにこの360RAのサウンドは「空間に拡がって」聞こえてくる。それこそ、目の前に人が居るみたいな感覚でな。
お見事という他はない。音源を天球配置するのが360RAの真骨頂とのことだが全く以てその通りでした。いやはや、これだけで360RA対応のヘッドフォンを購入した甲斐があったというもの。これでフルサイズのライブを観れたらどんなことになるのやら、想像を絶しますな!
…と、いう感想は紛れもなく本当で本音なのだが、正直まだまだコンテンツ全体としては物足りない。言い換えれば、これだけ改善の余地がありながら既にこちらを驚かせるクォリティを持っているというのはこの技術の未来を相当感じさせるということなのだけれども。
まず、確かに音は見事に空間的な拡がりを見せているが、必ずしもひとつひとつの音素の音質が高いわけではない。差し当たってすぐアクセスできた配信音源の『40代はいろいろ -Live from Metropolis Studios』のトラックを聴いてみたが、ハイレゾではないロスレス音源の時点で既に360RA版より配信音源の方が音質がいい。もっといえば解像度が高い。特にヒカルの歌唱では、ブレスやエアといった押すときより引くときの音の方がニュアンスに大きく貢献する為、かなり高周波数領域の情報量が必要になるのだが、その辺りの音質で配信音源の解像度が優っていた。つまり、部屋全体のバンドのサウンドとしては360RAは見事なものなのだが、個々のプレイヤーそれぞれの演奏と歌唱に注目した場合、そこまでのクォリティにはまだ達していないということだ。
これは、データ量が増えれば解決する問題ではある。今のところ通信環境などを考慮してこの程度の解像度にしかなっていないのだろうが、今後は環境の発展とともにすぐに改善されるだろう、と。しかし、だ。そこまで扱える情報量が増えたとして、じゃあと隣をみたらその増えた情報量を総てヴォーカルの解像度向上に振り分けた配信音源が登場しているのだ。結局、いつまで経ってもその高音質には追いつけないだろう。
ここに、技術とコンテンツのミスマッチがあるように思われる。宇多田ヒカルはシンガーソングライター、つまり、ソロ・アーティストなのだ。リスナーの大半は音源に耳を傾ける時、大体はヴォーカルに注目・注耳している。それ以外の音は添え物なのだ。だから実は、バンドサウンドが後ろに綺麗に拡がっているよりも、ヒカルの息遣いがより身近に感じられる事の方がニーズにそぐうかもしれないのよ。
勿論その推測は360RAという技術の価値を毀損するものではないのだが、送り手側が何をどこまで理解しているのかという点に関して疑問符が浮かんだというのも正直な感想だ。次回もそこらへんの話をもう少し、するかもしれないでっす。
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