トシの読書日記

読書備忘録

シュレッダーに秘められた謎

2013-07-03 15:09:02 | あ行の作家
小山田浩子「工場」読了



週に一度は通う銀行のマガジンラックに「週刊サンデー毎日」が置いてあり、その中に岡崎武志氏の書評のページがあって、いつも楽しみに読んでいるんですが、本書はそこに紹介されていたものです。


岡崎氏いわく、こういう新人にめぐり合うたびに無上の喜びを感じる、とあったので、興味が湧いて買ってみました。


一読、これは不思議な小説ですね。ある意味、実験小説と言っていいかもしれません。地の文と会話の部分が改行もなくずっとそのまま続いていきます。なので、1ページ1ページに活字がすき間なくびっしりと詰まっています。これはなんだか得した気持ちになってしまいます。それはさておき…。


工場に就職した三人の男女がそれぞれの視点で語っていく話なんですが、それはもう巨大な工場でべらぼうな敷地にいくつも建物があり、また、レストラン、コンビニ、病院、図書館、スーパー等、もう、一つの町といってもいいような規模なわけです。で、何を作っている工場なのか、さっぱりわからない。勤めている三人のうち一人は、紙に印刷されたいろいろな文章を校正する仕事。また一人は不要な書類を一日シュレッダーにかけている。またもう一人は社内緑化運動の一環ということで、工場敷地内にあるコケを採取して観察、分類するという、これが社内緑化につながるのに何年かかるかわからないというような仕事をしているわけです。


ちょっと三崎亜記のような雰囲気も感じるんですが、あれほど荒唐無稽なわけでもない。どちらかというとミルハウザーかな?空気は。面白く読ませていただきました。


表題作のほかに「ディスカス忌」「いこぼれのむし」という短編が二編収録されていますが、これはまぁ、なんというか、それほどでもなかったです。とまれ、小山田浩子は、この「工場」がデビュー作で、これが新潮新人賞も受賞したということで、非常に楽しみな作家です。プロフィールを見ると弱冠30歳。今後に注目です。

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