トシの読書日記

読書備忘録

夢の中へ

2018-02-06 17:32:27 | あ行の作家



内田百閒「冥途―内田百閒集成3」読了


本書は平成14年にちくま文庫より発刊されたものです。諏訪哲史の「偏愛蔵書室」に紹介されていたものです。内田百閒は、以前何冊も続けて読んだことがあり、このちくまの「集成」シリーズも何冊か買ったんですが、諏訪氏が紹介した「3」だけ抜けておりました。


短編というか小品と呼んでいいような作品が全部で33編収められています。表題作の「冥途」「件(くだん)」「土手」「豹」等、自分にはおなじみの百閒ワールドであります。


しかし、中には全く違う毛色の作品も収められていて、「昇天」という短編がそれなんですが、しばらく一緒に住んでいた女が肺病になって入院しているという話を聞き、「私」は見舞いに行くんですが、その男女のやりとりが、なんというか淡い情感で、まるで永井荷風の「墨東奇譚」のような世界を彷彿とさせる内容でした。こんな小説も書くんですね。内田百閒の素晴らしさを改めて実感しました。


最期に収められている「青炎抄」という作品、これも百閒ワールド満載なんですが、ちょっと驚いたところがあるので、少し長くなりますが引用します。


<「早くして貰わなければ間に合わぬ。君のところに写真がある筈だ」
 何の写真だろうと考える暇もなく、
 「あれの写真ですよ。病気になる前に写したのがありましたね」と云って、青くなってふるえている。
  そんな物を惜しいとは思わないが、しかし何処にしまってあるか思い出せないから、一生懸命に考えていると、 
「それはそうです。僕の所に来てから病気になったには違いないが、何ッ」と云いかけて、起ち上がりそうにした。
「うん、そりゃ解っている。そんな事を云いに来たんじゃない。しかしもう駄目なんです。可哀想な事をしました。だから、今写真がいるんだ。解らんかね」>


この会話の中で相手がいきなり「何ッ」と云いかけるところ、なんなんですかね。わけがわかりません。しかし、そのわけのわからなさ感が面白いんですがね。


本書で「昇天」のような百閒の新たな一面を知ることができたのは僥倖でした。



姉から以下の本を借りる

川上未映子「愛の夢とか」講談社文庫
川上弘美「森へ行きましょう」日本経済新聞出版社







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