トシの読書日記

読書備忘録

偉大なる琵琶湖

2013-07-18 15:40:39 | ま行の作家
万城目学「偉大なる、しゅららぼん」読了



自分が読む、ほとんど唯一のエンタメ作家、万城目学であります。京都(鴨川ホルモー)、奈良(鹿男あをによし)、大阪(プリンセス・トヨトミ)ときて、今度は滋賀であります。琵琶湖の汀の町に繰り広げられる日出(ひので)家と棗(なつめ)家との千年にわたる骨肉の争い。そこへ校長の速瀬が加わって…。という、手に汗握る展開になっております。


まぁいつもそうなんですが、今回は特に登場人物が入り乱れて、時々、「ん?」とわからなくなり、行きつ戻りつしながらの読書となりました。例によってつじつまの合わないところもあったり、ここ、かなり強引じゃん、と思うところもあったりだったんですが、充分楽しめました。ただ、登場人物の大半が超能力を使えるってのは、ちょっと反則じゃないかなと。小説に超能力を持ち込むと、なんでもOKになってしまうんですよね。


万城目さん、次回作は正々堂々と真っ向勝負をしてほしいもんです。



自在な妄想の言葉

2013-07-18 15:28:35 | た行の作家
田中慎弥「実験」読了



デビューから注目していた作家が芥川賞等を受賞すると、自分の目が間違ってなかったことを実感してうれしくなるもんです。でも、最近の芥川賞、直木賞は、なんだかなぁという作家が取ってますが…。例えば朝井リョウとか。ため息が出ます。


「もらっといてやる!」で一躍有名になった田中慎弥であります。文庫で430円だったので買って読んでみました。初期の頃の「図書準備室」とか「切れた鎖」、「犬と鴉」等に比べるとずいぶん作風が変わったなぁというのが第一印象でした。しかし、解説を読んでみると、本書は「犬と鴉」と芥川賞受賞作の「共喰い」の間に書かれたとのこと。文字通り、田中慎弥の「実験」ということでしょうか。


表題作の他に「汽笛」「週末の葬儀」と三編を収めた短編集です。作風の印象とは別にどれもまずまず面白かったです。特に「週末の葬儀」は吉田知子を思わせる世界で楽しめました。でもまぁ、どれをとっても衝撃的なものはなく、佳作三編といったところですかね。少し残念でした。


「切れた鎖」「犬と鴉」のような世界をもう一度書いてほしいと切に願うものであります。

諫早の干潟に想う

2013-07-18 15:04:16 | な行の作家
野呂邦暢「白桃――野呂邦暢短編選」豊田健次選 読了


以前、岡崎武志のブログで紹介されていた野呂邦暢の随筆集を読み、その文章の華麗さ、情景描写の巧みさに、うっとりと読ませてもらった覚えがあるんですが、短編集が出ていたとはつゆ知らず、早速買って読んだ次第です。


全部で七編の短編が収められているんですが、どれもこれもやっぱりいいですねぇ。この作家の文章の巧みさは、文体は全く違うんですが、堀江敏幸に通じるものがあります。センテンスを短く切った、骨のある文体とでもいえばいいんでしょうか、読んでいて心地良いリズムがあります。また、作中の主人公の心情を夕暮れとか朝の風景に比喩させて表現するところなど、本当にうまい。


「鳥たちの河口」という作品の中で、こんな描写があります。

〈太陽はいつのまにか西に移動していた。風によって雲のさけ目がひろがると日光の束も太くなった。男は息をのんだ。夕日が今、黄金色の列柱となって葦原に立ちならび、壮大な宮殿がそびえたようであった。日に照らされた枯葦はまぶしい黄と白に映えた。葦の茎は一本ずつ鮮明な影をおび、よくみがいた櫛の歯の鋭い輪郭を作った。〉

この美しい光景が目に浮かぶようです。


久しぶりに純文学の美しい小説を堪能しました。今、満ち足りた気持ちでいっぱいです。