たかはしけいのにっき

理系研究者の日記。

論文を出したいのになかなか出ない人がチェックすべきこと

2017-03-20 04:33:54 | 自然科学の研究
 自然科学の分野を研究している大学院生やポスドクは、みんなみんな、とにかく原著論文を出したがる。
 俺はそこまで「論文沢山書きたいぜー」っていう承認欲求の強いほうではないのですが、論文出したがりのわりには論文を出せていない人、なかなかこぎ着けられない人というのが世の中には沢山います。今日は、そんな方にむけて、書いてみようかと思いました。

 論文なかなか出せない、というのは、あらゆるレベルがあるかと思います。人(や分野)によっては、半年出せていなければ「俺、最近、論文出てないわー」って人もいるだろうし、10年出せていないことについて「論文なかなか出せない」と悩んでいる人もいるでしょう。今日は、そういうレベルや尺度や分野は関係無しに、もっと一般的に成り立つことについて話してみようかと思います。
 PIレベルが読んでも学部生が読んでも、物化生地のどの分野の人が読んでも、ある程度役に立つんじゃないかなぁと俺が思えることを、「4つ」だけ提供できたらなぁと思っております。というわけで、スタート。

 ちなみに、俺は、論文をやたらに早く出そうとする研究活動には、強く反対しています。なので、以下に述べることを本当に思っているわけではありません。「お前が早く出したいって思ってるんだろ?じゃあ、こうしてみたら?」というやつですから、勘違いのないようお願いします。


 1. こだわりすぎてない?

 俺は基本的に論文を早く出したいと思うことそのものについて、否定的です。はっきり言えば、なんで?バカなんじゃないかな?っと思っているわけです。
 そんな俺でも、「え?んなことしてないで早く出せや!」っと思ってしまう、いわゆる"出せない著者ら"や"出せていないグループ"の殆どについて思うことは、「こだわりすぎ」ってヤツです。

 アカデミックの世界に生きている人は、基本的に承認欲求が強く、人からバカにされたり、学術的に否定されることを極端に嫌っています。エディターやレビュアーからちょっとでも何か言われることが大嫌いな人が多いのです。だから、ちょっとの隙もなく論文を精緻に完成させようとする人が多くなります。そして、結局のところ、それは論文が遅く出てしまうことに直結しているのです。
 残念ながら、あなたの書く論文なんて、俺が書いているこのページよりも全然読まれません。あなたは世界共通語である英語で書いているはずなのに、日本語で書いている俺のほうが人に読まれる文章を書いています(1年以内に1万回以上読まれる自信ある?)。無料じゃないから?いや、たとえオープンアクセスにしたとしても、そんなに読まれないはずですよ。だから、本筋さえきちんとしていれば、細かいディテールについては、そこまでどうでもいいんじゃないですか(だって早く出したいんでしょ??)。

 これは、サイエンティフィックな内容として、テキトーなものを提出せよ、と言っているわけではありません。むしろ、そこは本筋ですから、きちんとやってください。つまり、論文のストーリー展開としての本筋を意識しすぎるのではなく、(確実に必要な)図や条件についての証拠作りが過不足無い状態を精緻にせよ、ということです。
 リジェクトになること、メジャーリビジョンになることを恐れるのではなく、自分の成果を世に出すという確固たる自信のもとに、これを主張したいのだということさえちゃーんと意識していれば、もっとこういうリファを引いたほうが通りやすいか?とか、こういう書き方にしたほうがレビュアのご機嫌を取れるだろうか?など、理系以外の発想から脱却することができるようになります。

 変なこだわりがあると、意外と、図に対するキャプションが反対のままだったり、当たり前の条件が無かったりするようになってしまいます。そのほうが論文が通りにくいですよ。ディフェンスを完璧にしていても、アイディアやデータがつまらなければ落ちるのですから、そこを勘違いしないように。

 2. 最初に決めた最終目標に執着しすぎていない?

 研究は「わからないから調べてみる」というのが基本です。
 にも拘らず、最初に決めた、考え方や結果や解釈や出てくるべきデータというものに、固執してしまう人はあまりにも多いです。

 これも受験の弊害です。大学受験などでの学習というのは、正解が決まっているものですから、解答と違った帰結には意味を成しません。しかし、研究では、それが意味を成すか?成さないか?は誰にもわからないわけで、トライについて学術的な必然性さえあれば、それには価値があるわけです。
 みんな「研究と勉強は違う」とドヤ顔で言ってるわりには、この辺りがおざなりになっています。

 何かを目指して色々試してみて、得られている結果やデータがある状態だが、最初の目指していたこととはほど遠い。しかし、「論文としてまとめる」だけであれば、これとこれとこれを組み合わせれば、学術的な必然性のもとに価値があるなぁ、と考えられるのであれば、そこを軸に論文にまとめるべきです(だって、早く出したいんだよね?)。

 この最終目標に固執しすぎる人が責任著者や指導教員だと、学生やポスドクは不幸です。つまり「本当に(自然現象として)そうであるのに、先生が描いている世界との乖離について、弱い立場に責任・問題があることにしてくる」という状態ですから。こういうPIのもとに、都合の良いデータだけを持っていって、捏造やそれまがいのことをすることが常習化している人が論文を早く書くせいで、またPIが「やっぱりこのストーリーで成り立っている。できる人がいるのだから」と勘違いをし、グループ全体・分野全体が、自分たちにとって都合の悪いデータについて見て観ぬフリをし、都合のいいデータだけを表に出すということが常套化していることもあります(マジでクズだけどね)。
 こういう状態だと、論文が早く書けても、分野全体が倒れる可能性もありますし、誰か一人が不幸になる可能性も高いですから、さっさと走って逃げるのが吉ですね。

 3. 論文が出せない人を師として仰いでいない?

 あなたがどんなに能力があって、実験を沢山したり、プログラミングを沢山組んでも、指導を受ける人(や年長の共同研究者)が論文を出せない人である場合、かなりの確率で論文は出ません。
 論文を何年も何年も(5-10年くらい以上?)まともに"自分で"出していない人には、何か信念があったり、それなりに深い事情があったりするわけでもなんでもなく、多くの場合で、ただの実力不足です。学歴や職名は関係ありません。上の世代になればなるほど、実力不足のエラい人はめちゃくちゃ多くなりますから。

 そんな人について一緒に何かをやっていても、不幸になるだけです(共同研究でも同じ)。さっさと離れるのが得策です。
 だって、あなたが何か結果を出して、これで原著論文にできる!と思っても、なんやかんや理由を付けて、無能な指導者(や年長の共同研究者)がファーストやコレスポを奪ってくる可能性が極めて高いからです。そして、奪われるわりに、論文が出るのはまだまだ先である可能性が極めて高い。あなたの努力をかすめとられないためにも、こういう人からはさっさと退去すべきです。

 今からだと時間がかかると思うから...?
 いいえ、そんなことはありません。その指導者は10年単位の時間をなんとも思わない異常者です。いいですか。一般に、直交座標系を最初に習って(中1)、5年以内で微積分まで使えるようになるんですよ(高2)?あなたは、10年で何一つ真実が得られないほど愚かではないでしょう??それだけの時間をかけて何も学べないかもしれないということにもっともっと恐怖を感じるべきです。そういうことを言うと、「研究と勉強は違うから」と使いどころを分かっていないバカがオフェンスしてきたりしますが、この部分の時間の進み方に関しては、研究も学習も大して変わりませんよ。あまりにもバカみたいなツッコミをすることをアカデミック業界から習わないでくださいね。

 4. 毎日何かしら進捗してる?

 土日を除いた毎日について、その研究について、何かしらが進捗していなければいけないと、課してみてください。
 もちろん、毎日実験したり、新しいプログラムを組んで変数を代入しているのが、論文を早く書く上では理想かもしれませんが、そこまでじゃなくてもいいです。

 文献調査をするだけでも構いません。イントロを一段落書くだけでも構いません。中間ストックを作ることでも構いません。知ってそうな人にアポをとることだけでも構いません。自分の研究について、ほんのちょっとでも毎日何かしらが進捗している状態にしないと、なかなかすぐに完成までは行きませんよ?
 ほんのちょっとでも歩みを進めるというのが、とてもとても大事だったりします。人は歩いていることそのものに自信を持てる生き物ですから、結局のところその自信がフィードバックしてきて、歩みを速めます。

 これは、実際に実験している、もしくはプログラムを書いている、大学院生・ポスドク・助教に限りません。PIや責任著者らも、ほぼ同様です。下の立場の人間に、エラそうに「自分の研究なんだから」とマウンティングっぽい言葉をほざいている暇があったら、あなたも(少なくとも週に2日くらいは)何かを進捗させるべきです。責任著者のあなたの研究でもあるわけで、どーせ論文を出したらあなたもあなた自身の業績に書くわけだから、あなたも進捗させなくちゃダメですよ?


 こんなもんでしょうか?
 「これで論文に必要な結果・データは揃った」という言葉が出てから、1年以上サブミットできていない場合は何らかの問題があると思いますので、自己分析されてみることをおすすめします。くどいですが、俺自身は「そんなに早く論文出したい?」と思っているのですが、まぁ、今日はそれを語る場ではないので意見を控えておきます。
 みんな欲望と行動が一致していないように思いましたので、これを書いてみたのですが、いかがだったでしょうか?というわけで、皆さん、頑張って、論文"早く"出してねー。

 私に直接「論文なかなか出なくて困ってるんだけど」などと相談したいと思ってくださる場合は(それ以外の研究室のことでも、研究以外のことでも、随時募集中です)、相談内容を明記の上、こちらにメールしてください(_attoma-ku_を@に変えて送信してください)。基本的にどんな方のどんな相談もお受け致します。匿名で構いませんが、所属や名前を仰ってくださったほうが、相談にはのりやすいです。相談内容は決して口外しませんのでご安心ください。
soudan.atamanonaka.2.718_attoma-ku_gmail.com

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