スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

同意できない点&学知

2019-07-06 19:11:22 | 哲学
 思惟Cogitatio以外のXの属性attributumにAがあり,思惟以外のYの属性に,Aと原因causaと結果effectusの連結connexioと秩序ordoが同一のA´があるなら,このAとA´は別の事物であり,実在的に区別されなければなりません。このことは第二部定理七備考第一部定理四から明白といわなければならず,スピノザが同意しないわけにはいきません。
                                        
 チルンハウスEhrenfried Walther von Tschirnhausはこのとき,Aの観念ideaとA´の観念は,共に思惟の属性Cogitationis attributumから,同一の原因と結果の秩序と連結で発生しなければならず,よって実際にはそれらは区別することができない同一の観念であると主張しました。ふたつの観念が思惟の属性を原因としなければならないということは第二部定理五から明白です。そしてAとAの観念の原因と結果の連結と秩序は同一で,A´とA´の観念の原因と結果の連結と秩序が同一であるということは,第二部定理七系から明白です。しかるにAとA´は原因と結果の連結と秩序が同一でなければならないので,Aの観念とA´の観念の原因と結果の連結と秩序も同一でなければなりません。ですからこの点についてもスピノザはチルンハウスに同意しなければならないと僕は考えます。
 しかしスピノザは,Aの観念とA´の観念は,同じ思惟の属性を原因として,同じ原因と結果の連結と秩序で生じるのだけれども,同一のものであるとは認めないのです。これは書簡六十四書簡六十六から明らかです。つまりスピノザにとってチルンハウスに対して同意できない内容というのは,Aの観念とA´の観念が同一の原因から同一の連結と秩序から発生するので,それは単にことばの上で分別され,実際には同一のものであるという点にあるのです。他面からいえばスピノザは,Aの観念とA´の観念は,単にことばの上だけで区別されるというわけではなく,実際に区別される,思惟の様態cogitandi modiとして区別されるといっているのです。
 僕が考えたいのはこのとき,Aの観念とA´の観念が区別され得るのなら,どのように区別されるのかということです。

 カヴァイエスJean Cavaillèsが『エチカ』を読んでいなかったとは考えにくいので,カヴァイエスが第三種の認識cognitio tertii generisを知らなかったということはあり得ないと僕は思います。ただ,カヴァイエスが第三種の認識は数学の認識に相応しい認識ではないと解していた可能性はあり,それがカヴァイエスが第三種の認識について何も言及していない理由になるかもしれません。
 カヴァイエスにとって数学の認識は学知scientiaでした。このこと自体は一般的な考え方であって,カヴァイエスが何か特殊な考え方をしていたわけではないといっていいでしょう。このとき,カヴァイエスにとって学知は理性的な認識を意味していました。これも別に特殊な考え方ではないように僕には思えます。したがって,第三種の認識は,認識ではあっても学知ではなかったのです。少なくともカヴァイエスにとってはそうでした。ですから,カヴァイエスの数理哲学というのは,確かに近藤がいっているように,カヴァイエスにとっての,あるいはカヴァイエスが担保しようとした数学の正当性にとっての第三種の認識の問題ではあったのですが,その認識自体を学知とみなすことが,カヴァイエスにとって可能であったかどうかは僕には分かりません。というかこれはカヴァイエスの数理哲学自体を詳細に検討しなければ出せない結論なので,僕には分かりようがないのです。この問題というのは,カヴァイエスにとって,学知であり得るような第三種の認識を導出する問題だったかもしれません。少なくともスピノザのように,第三種の認識と第二種の認識cognitio secundi generisを異なった認識として分けてしまうのなら,第二種の認識が学知であり,第三種の認識は学知ではないとカヴァイエスはいうでしょう。スピノザは第三種の認識を直観scientia intuitivaといい換えるので,直観は学知ではないという見解は,やはりカヴァイエスに特殊な見解であるようには僕には思えないです。
 ただ,スピノザにとって第三種の認識が学知であるか否かといえば,それは学知であると僕は思います。つまりスピノザは,第二種の認識も第三種の認識も同じように学知であることは認めるだろうと僕は思います。しかしこの僕の考え方には,注意してほしいところがあります。
コメント
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