スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

ネリーとナターシャ&第五部定理二三

2016-02-19 19:09:18 | 歌・小説
 『虐げられた人びと』は善人と悪人がはっきりし過ぎているため,深みが感じられないと僕には思えるのですが,こうした人物像とは別に,さらに二点ほど難点があると僕には感じられました。ひとつは小説の構成に関係する面で,もうひとつは内容と関係する面です。まず構成と関わる難点と僕には感じられる事柄を説明します。
                                    
 『虐げられた人びと』は,イワン・ペトローヴィチが,死の間際に過去を回想するという形式で記述されています。1年前の3月の出来事からそれは始まります。イワンはある老人の死を目撃し,その後でこの老人の孫のネリーと暮らすようになります。一方,イワンにはナターシャという,相思相愛であってもおかしくない幼馴染がいます。実際にはナターシャはアリョーシャという別の人物に恋するのですが,ナターシャやアリョーシャともイワンは頻繁に会っています。
 回想は時系列で綴られていきます。したがってネリーとの物語とナターシャとの物語がほぼ交互に綴られていきます。ですが読者にはこのふたつの物語にどういう関係があるのかまったく分からないので,とても読みづらいのです。これが僕が感じた難点です。
 第二部第五章,正確には第四章の最後のところで,半ば唐突にイワンの旧友のマスロボーエフが登場します。このマスロボーエフを介在することにより,ネリーの物語とナターシャの物語の関係性がようやく読者にも理解できるようになります。これはいくら何でも遅すぎるだろうと僕には思えました。
 イワンが自身の過去を回想するという形式の記述なので,こういう難点が生じてしまったものと解します。別に作者を作ってしまうか,そうでなければマスロボーエフの方がイワンに聞き及んだことを記述するという形式にしたら,こうしたことはたぶん生じなかったと思います。この小説は第二部第三章から始まる一日にあまりに多くのことが起こるのですが,これ以前とそれ以降は,ストーリー自体の面白さが違っているように僕には感じられました。

 人間にとっていかなる意味においても永遠の観点species aeternitatisが観念ideaとしてのみある,あるいは同じことですが知性intellectusのうちにのみあるとするなら,この観念は観念対象ideatumが存在しなくてもあることも考えるconcipereこともできるようなものでなければなりません。永遠性aeternitasは対象となっている事物の本性natura,essentiaに属するのではなく,知性の能動actioの本性に属するのですから,この能動が対象との因果関係なしに存在するのでなければ,人間はそれを概念することができません。いい換えればそれは人間の知性のうちにあるということができないでしょう。つまり人間が事物の永遠性を十全に認識するためには,その永遠性の観念が,対象なしに実在し得るということが必要とされるのです。そして第二部定理五はその論拠となるでしょう。そこには観念の原因は神Deusの思惟の属性Cogitationis attributumであって,対象となっているものの属性ではないということが含まれているからです。
 このように,現実的に存在する人間にとっての永遠性が観念にだけ関係するということ,いい換えれば第二部定理一三により現実的に存在する人間の精神mens humanaを構成する観念の対象とはその人間の身体corpusですから,事物の永遠性は人間の精神にのみ関係するのであり,人間の身体と直接的には関係しないということを示している定理としては,第五部定理二三があります。
 「人間精神は身体とともに完全には破壊されえずに,その中の永遠なるあるものが残存する」。
 この定理Propositioが述べているのは,現実的に存在する人間の身体が破壊される,要するにこれはその人間が持続duratioを停止する,つまり死ぬということですが,そうなったとしても,人間の精神の方は完全に破壊されるというわけではないということです。ですが身体の持続の停止によって破壊され得ないあるものは,第二部定理一三からして破壊され得る根拠をほかには有さないといわなければならないでしょう。完全には破壊されないというのは,部分的には破壊されるという意味ですから,スピノザは現実的に存在する人間の精神が持続のうちにあるのと同様に永遠であるといっているのではありませんが,少なくとも部分的には永遠であるといっていると解さなければなりません。
コメント
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