浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

99対1

2012-09-25 20:02:02 | 
アメリカ在住の映画評論家町山智浩の新刊が出ました。

この本が出るタイミングでレギュラー出演しているラジオ番組でのこの人の話がまぁーすごかった。20分ちょっとの話なんだけど、その短時間で「ロムニー対オバマの大統領選の背景」から「共和党と民主党は何を争っているのか?」までがスカッと解ってアメリカの現在が手に取るように理解できた。

とにかくこの人のアメリカに関する話はよく解るし面白くてたまらない。

この話の音声は番組の都合上、1週間で消えてしまうのでちょっと書いておきます。

今年、2012年はアメリカの大統領選があります。大統領候補は現職であるオバマと対抗馬であるロムニー。オバマは民主党でロムニーは共和党。言わずもがなアメリカはこの二大政党制です。

今回の大統領選の背景には99%対1%という対立がある。この数字は何かというと、今のアメリカは1%の超大金持ちがアメリカ全体のお金の40%を所有しているということ。逆に言うとアメリカの99%の人々で60%の富を分け合っているということになる。つまり単純に言うと今のアメリカは「1%の超大金持ちと99%の普通の人、あるいは貧しい人」の国ということになる。

共和党の大統領候補であるロムニーは明らかに1%の人らしい。この人は実業家なんだけどファンド会社(いわゆるハゲタカファンド。日本だとすかいらーくに投資したりしているらしいです)の設立者で年収は何と15億円。資産は200億円近く。

今回の大統領選の大きな争点は富裕層への増税。

オバマ大統領は「富裕層の所得税を増やす」と言っている。一方でロムニーは「それはダメだ」と言っている。この争い。

アメリカの所得税率というのは(日本人からすると)奇妙な感じになっている。

基本的には累進課税で所得が多いほど税率が高くなっている。たくさん稼ぐ人は35%とか。だけどここが奇妙でロムニーは15%しか税金を払っていない。なぜか?それはアメリカにおいては株式売買による所得は税金が安くなる仕組みだから。つまり、1%のお金持ちの人々の収入と言うのは株式売買が多いからお金持ちの1%の人々ほどあんまり税金を払っていないということになる。

オバマ大統領は「これはおかしいだろ」ということで所得税率を上げたい、と言っている。

で、これは税金云々の問題ではなくて民主党と共和党の「主義」の問題になっている。

ロムニーの共和党の基本的な考えは「自由」であるということ。とにかく自由であることが素晴らしいんだ、国は国民のやることに出来るだけ関わらないほうがいいのだ、という考え方。経済に関しても国はタッチせず自由競争をさせたほうが良い、という考え方。

一方の民主党の基本的な考えは「平等」。やはり国民は平等であるべき、ということ。たくさん稼ぐ人からは少し多めに税金を取りそれを国が貧しい人や恵まれない人のために、たとえば公共事業や福祉などに使うべきという考え方。

この2つの考え方、「自由」な共和党と「平等」の民主党で綱引きをしているのが大統領選ということになる。

この2つの考え方はどちらもよい面と悪い面がある。

たとえば「自由」が行き過ぎると悪いことをやってぼろ儲けする企業がどんどん出てくるし、所得の格差はどんどん広がってしまう。負けたヤツは自己責任だということになって一度失敗したらなかなか這い上がれない状態になってしまう。今のアメリカはまさにこれ。

でも「平等」が行き過ぎると共産主義化してしまい「どれだけ頑張っても税金に取られてしまうんだから意味ないよ」と働かなくなってしまう。色々なサービスを公共事業で安くやるわけだから新しい企業は生まれづらくなる。

この自由→行き過ぎて格差→平等→行き過ぎて共産主義化→それに対抗してまた自由、、の繰り返しが過去のアメリカの歴史ということになる。

例えば民主党の政策が功を奏したのはルーズベルト大統領の時代の「ニューディール政策」。ディールというのはカードゲームにおいての「カード配り直し」の意味で「新しく配り直し」という意味になる。富裕層から税金を取り国が公共事業を充実させた。それは一時期はよい面があったけども多くの事業を公共でやられしまうと新しい企業は出づらいし人々の勤労意欲が下がってしまった。それが70年代の不況の原因となった。

その後に出てきたのが共和党のレーガン大統領。彼は「新自由主義」というのを打ち出し規制を緩和し大企業への税金を減らした。それによりアメリカは80年代の未曾有の好景気に沸くことになる。

そしてブッシュ・シニアを経て、クリントンの民主党政権になる。ここでアメリカは史上最大の経済黒字を出すことになるけど、次のブッシュ(共和党)がそれを全部使い果たし最大の赤字を作った。

ブッシュは共和党なので「自由」を基本理念に経済に関してはほとんど手を打たなかった。それによってサブプライムローン問題、金融崩壊が起こった。結果、現在の1%対99%の状態になってしまった。

…というのが町山智浩がラジオで話していたロムニー対オバマ、1%対99%の話。はぁーすごいことだねぇ。

そりゃ自由と平等というのは大事なことだけど、どっちか極端に行き過ぎないでうまいこと中間くらいにしておけばいいんじゃないかと僕みたいな野次馬は思う。中道行き過ぎてダメになってるのが今の日本なのかもしれないけどさ。

アメリカの場合ここに更に「宗教」という軸が入ってくるのでもっとエライことになるんだよねー。

そのあたりのことがこの本に書かれています。

まぁーこの99%対1%の話のみならずスゴイことになってますよ。

オバマをアメリカ生まれと信じていない人がいるとか、貧乏人に医療保険を与える法案を通す奴は殺せと言っている人がいるとか。

ちなみにこぼれ話。

超お金持ちのロムニーをバットマンに例える支持者もいる。バットマンことブルース・ウェインはウェインエンタープライズの大株主と言う設定で莫大な資産を基に自ら街を守る活動をしている。
同じく大金持ちのロムニーは「金持ちがどんどん金持ちになることは事業を行い雇用を増やすことになるのでいいことなんだ」(トリクル・ダウンという考え方らしいです)と主張している。
だけど彼の会社名は「ベイン」!なんと「ダークナイト・ライジング」でのバットマンの敵役。偶然らしいけど面白いねー。

ちなみにベイン、ライジングではかっこよかったけど「バットマン&ロビン」では「ウガー」という台詞しかないです。


どうなることやらのアメリカ大統領選は来年1月に結果が出ます。