浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

天使の仕事

2010-04-15 20:27:20 | DVD、映画
先日、「マイレージ、マイライフ」という映画を見てきました。

ちなみに原題は『Up in the air(=宙に浮いてる)』

うーん、いい映画でしたね、僕にとっては。

主人公(ジョージ・クルーニー)は年間320日は出張するビジネスマン。40歳くらいの年齢設定だと思うけど恋人も家庭も持たず仕事ばっかりしている。決して悲壮なわけじゃなくて仕事で乗る飛行機や泊まるホテルなんかでしっかりマイレージを貯めることが生きがい。この映画の冒頭は主人公が出張道具をパッキングするところから始まる。キャリーケースにワイシャツ、下着、仕事道具なんかテキパキと詰め、キャリーケースをキュキュッと走らせ空港に向かってく。

この時点でね、「あー、僕みたいだなぁ」と思った。

僕も彼ほどじゃあないけど出張多いから。今月は予定では13泊する予定で、一時一番多い月は25日間ホテルに泊まってたこともある。

主人公の思想は「キャリーケースに入らないものは所有しない」ということ。

40歳くらいの設定だけど恋人も家庭も、家も何も所有しない。彼の家は飛行機の上とホテルのみ。どちらもマイルがたまってるので非常にいいクラスを取ってる。恋人は宿泊する高級ホテルのバーで適当にひっかけて、という感じ。(ここは僕と違う) 家も描かれるけど彼の家にはまったく生活感がなくなんだかモデルルームみたい。飛行機の中で「お住まいは?」と聞かれたときも自嘲気味に「ここです」と答える。

所有しないこと、が信条の彼が女性と恋に落ち、家庭を所有しようかと考えるけど…というのがストーリー。

ここまでだと、まぁよくある話、と思うかも知れない。

でもこの映画を深くしているのが主人公の職業。彼の職業はなんと「リストラ代行人」。どうやらアメリカにはこういう仕事があるみたいです。リストラしようとする人に対して「あなたは首です」というのは誰しも辛いもの、ならば外注してしまえ、と各企業は主人公の会社にリストラ代行を依頼する。主人公はその依頼を受けてアメリカ中を飛び回りその会社の人と会い「あなたは首です」と伝える、、、職業。

いやー、すごい商売ですなぁ。

面白かったけど笑えなかったのがさ、最初のほうに主人公の会社の社長がこう言う。

「不景気はこれからもどんどん進むぞ。1万人単位がリストラされる。わが社にとっては最高のビジネスチャンスだ!

オイオイ。。。

これね、見終わったあと映画評論家町山智浩氏の話を聞いたんだけど、主人公は「死の天使」のメタファーだそうです。「死の天使」と言うのは天から降りてきて死にゆく人に「あなたは死にます、でも心配しなくていいんだよ」と伝える天使。

うーん、なるほどねぇ。

だから主人公はずっと飛行機に乗ってる。そして地上に降りてきたら人々に「死(≒リストラ)」を告げる。映画の中では「でも心配はありません。以後のことはこのパンフレットに書いてあります」とパンフレットを渡す。(このパンフレットはよく分からないけど多分転職かなんかの案内かな)

そう言われてみれば近いね。

そうなるとさ、映画の途中で恋に落ちるのは、よくある「人に恋に落ちてしまった天使」ということか。

あー、なるほど。だから僕は「この映画いいなぁ」と思ったんだね。「ベルリン・天使の詩」とか「天使は瞳をとじて」とか天使モノ好きだからね。

天使モノ見ていて思うのが、非常に僭越だけど「あぁ、僕の生きる道はこうなのかも知れないな」ってことなんだよね。

辛い人や悲しんでいる人の隣に立って、姿を見えなくても人の肩に手を乗せればその人の悲しみを癒すことが出来る、そういう存在になりたいと、思っているんです、僕、実は。

『ベルリン・天使の詩』

0:50あたりで男の肩を抱くのが(この作品においての)天使。天使は人の目には見えないけどなんか気配を人は感じる。

今の仕事もね、キャリーケースをゴロゴロ転がして飛行機はあんまり多くないけど新幹線だの特急だのに乗ってお客さんのところに行き、何かしら役に立つことをして帰ってくる、という仕事(えーっと役立ってるよな、多分)。だから非常にこの映画の主人公の気持ち分かりましたよ。

人からは「そんなに出張多い仕事なんてありえない。結婚したらどうするの?」とか言われることもある。もちろんそうなったらちゃんと考えようかな、という気持ちもが無いわけじゃないけどでも今は「そうだね~確かにちょっと普通の仕事じゃないかもね~。でもね、これが俺の仕事なんだよ」と言うしかない。

いやま、たまにぐだぐだ仕事を愚痴るけどね、ビールでも飲みながら。

「主人公は死の天使のメタファー」言う話と新入社員役のアナ・ケンドリックという人が可愛かった、の2つを前情報としてお持ち頂きご覧いただけると楽しめると思いますよ。もうやってる映画館あんまり無いと思いますんでDVDになるかも知れませんが。