遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

薄暮

2009年08月24日 14時21分53秒 | 読書
             薄暮       篠田節子(著)2009年7月発行

  絵画をテーマとした長編小説でした。
  生前無名だった画家とその作品を中心に、画家の妻、画家をサポートしつつも  
  何か魂胆のありそうな雪国の地方の人々、画集出版を目論む編集者に、     
  怪しげな画商まで登場する、いかにも現実にありそうな世界が描かれています。
  内容は、というと、
  ある雑誌にエッセーが掲載され、それをきっかけに、地方で無名のまま生涯を
  終え、忘れられた画家「宮崎哲朗」にスポットが当り始める。
  あることから、作品に惹かれ、貧しかった画家を頒布会などで経済的にも援助
  しつづけた地方の人達や、駆け落ちしてから画家の死まで健気に支えた妻の美談
  に心を動かされ、画集を制作することになる編集者「橘」。
  しかし、いざ画集を制作しようとすると、献身的に画家を支えたはずの妻が、  
  宮島のある時期の作品群を「贋作」として頑ななまでに認めないのだ。
  それらの絵画を否定する理由は何なのか?・・・
  更に、橘は、かつて画家のサポーターとして作品を購入した地元の人々の複雑
  な人間関係にも巻き込まれていく。
  「宮島」が妻から離れ制作のために逗留した寺や、絵画の値段を吊り上げる為
  詐欺まがいの手を使う怪しげな画商、地方進出を図る宗教団体なども
  絡み合い、重厚なサスペンス、謎解きの面白さも満載な小説。

  特に、その迫力に圧倒されたのは、
  すでに高齢の宮島の妻「智子」で、夫を“天才”と信じ、夫の作品を信仰して
  いるかのように崇拝する、、、それは、グロテスクに歪んだ夫への愛情、
  なんとも不気味で鬼気迫っていた。
  現代の社会問題でもある「著作権」をめぐるやりとりにも、現実味があり、
  さすが・・・な感じ。

  この小説、なんといっても「絵画はいかにして評価され世にでてくるのか?」
  その一例を知る楽しさを味わえるのが嬉しい。
 
  『弥勒』で疲れて以来、あまり読んでいなかった作家の作品ですが、
  なかなか奥深く、謎解きのような進行が面白い小説でした。

    わがまま母
  


  
  
コメント
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