天上の葦 上・下 2019年3月発行
シリーズ三作目の作品、とのことですが、私は初めて。
凄く面白い!ストーリー展開の早さにグイグイ惹きこまれて一気読み。
昼食時間のTVニュースに、一人の老人が渋谷の交差点の真ん中で空に手を差し示し
、後に絶命するというショッキングな映像が映りこむ、ここから物語が始まる。
それは、国家権力と報道の自由、知る権利を巡り、昭和初期から終戦までの社会と
現在の状況がほぼ同じ様相を呈してきていることに危機感を覚え、手遅れになる前
に!と戦争の責任を背負い、懺悔しつつ戦後ひっそりと生きてきた老人が身を呈し
とった行動だった。
興信所所長の「鑓水」、助手の若手調査員「修司」、刑事「相馬」らが、頭脳的に
あらゆる話術、行動、手段を駆使し難問に立ち向かっていく流れはハラハラドキドキ
で、この手の小説はほとんど読まない母にも、痛快で面白かったです。
引き込まれていくのは、単なるアクション小説ではなく、重要なテーマを描くために、
過去の歴史と事実を十分に調査した上で、小説として現在の社会状況ととリンクさせ
ていくという形にしている著者の想いの深さと巧さによるものでしょう。
数年前の作品で、出版時に著者がこう語っています。
「このところ急に世の中の空気が変わってきましたよね。特にメディアの世界では、
政権政党から公平中立報道の要望書が出されたり、選挙前の政党に関する街頭インタビュー
がなくなったり。総務大臣がテレビ局に対して、電波停止を命じる可能性があると言及した
こともありました。こういう状況は戦後ずっとなかったことで、確実に何か異変が起きて
いる。これは今書かないと手遅れになるかもしれないと思いました」
(ダ・ヴィンチ2017年3/6号)
ここ数年は、官僚やメディアなどの権力への忖度度合いが増すばかり、本当に危機かも。
著者は、TVの人気シリーズ『相棒』などの脚本も書いていたとのことですが、母は観て
おらず知らなかったですが、『犯罪者』や『幻夏』なども読んでみようか、と思いました。
わがまま母
『天上の葦』下巻の案内文を転記・・・
失踪した公安警察官を追って、鑓水、修司、相馬の3人がたどり着いたのは瀬戸内海の
小島だった。そこでは、渋谷で老人が絶命した瞬間から、思いもよらないかたちで
大きな歯車が回り始めていた。誰が敵で誰が味方なのか。あの日、この島で何が起こった
のか。穏やかな島の営みの裏に隠された巧妙なトリックを暴いた時、あまりに痛ましい
真実の扉が開かれる。全ての思いを引き受け、鑓水たちは巨大な敵に立ち向かう!